第180話 苛立ちと順番待ち


「結構、並んでるね~」


 その後、お化け屋敷についた四人は、さっきのドタバタなど、まるで嘘のように、いつもの穏やかな雰囲気に戻っていた。


「ねー、私と葉月が先に入るから、蓮と榊君はあとから来てね!」


 すると、丸っと気を取り直した華が、蓮と航太にはなしかければ、さすがに哀れに思ったのか、葉月が助け船をだしてきた。


「ねぇ、華。四人で一緒に入るってのはダメなの?」


「え? 四人で?」


「だってさ。何も二組に分かれなくても、四人で一緒に入るという選択肢も」


「それは、嫌!!」


「え!?」


 だが、華は、その提案を真っ向から拒絶して


「嫌って、なんで!?」


「だってー、蓮が悲鳴あげたら、私まで怖くなっちゃうもん。だから、蓮とは入りたくない!」


「お前、悲鳴なんてあげるかよ!? てか、意気込んでたくせに、めちゃくちゃ人任せだな!!」


 はっきり拒否る華に、叫ぶ蓮。


 そして、その人任せの人選に選ばれてしまった航太くんは、ただ傍観していた。とはいえ、元から蓮と、二人で入るつもりで来ているので、なんてこともないのだが……だが、人任せなどと言われ、華は少し申し訳なく思ったらしい


「あの、榊くん、ごめんね。もしかして、嫌だった?」


「いや、大丈夫。別に嫌じゃねーよ。なんなら、蓮がおびえてる所、動画に撮っとこうか?」


「なにそれ、おもしろそう!!」


「おもしろくねーよ!」


「次の方、どうぞ~」


 すると、どうやら順番が回ってきたらしい。


 店員に案内され、華と葉月が手を振りながら、お化け屋敷の中に入っていくと、外で二人っきりになった蓮と航太は、一瞬静まりかえったあと


「で? お前は、なに怒ってんだよ」


「別に、怒ってないよ」


「いや、怒ってんだろ! めちゃくちゃ機嫌悪りーじゃん!」


 さっき、華が航太に抱きついてから、心なしか機嫌が悪くなった蓮。それを見て、航太がバツが悪そうな顔で問いかけた。


 いくら間違えられたとは言え、蓮は航太の気持ちを知っていた。しかも、あまり良くは思われてないのなら、仕方ないことかもしれない。


「ゴメン、悪かったって」


「別に、あれは華が悪いんだから、榊のせいじゃないよ」


 だが、実際に腹が立っているのは確かだった。


 あの時、華が航太の腕を組んだ瞬間。心の奥底で、微かにだが、黒い感情を抱いてしまった。


 まだ、どこかで『今』にしがみついてる。


 変わりたくないと、変わらないでいてほしいと、そんなことを、願ってる自分がいる。


(最低だな……俺)


 ほんの一瞬の事なのに、いつか華も、俺や兄ではなく、ほかの男と腕を組んで、歩き出す日が来るのかと思うと、無性に寂しくなった。


 いつかそんな日がくるって、わかってたはずなのに、望んでいたことのはずなのに


 それが、リアルに近づくと、とたんに怖くなる。


 もし、俺たち、兄妹弟の中の「誰か」が「家族以上に大切に思う人」を作ってしまったら、俺たちの関係は、どうなってしまうのだろう。


 誰かを好きになって、その人と結婚して、新しい家族を作る。


 そんな当たり前のことを、当たり前の「家族の未来の幸せ」を「嫌だ」と思ってしまった自分に──腹がたつ。


 いつか変わってしまう関係性。

 変わらなくてはならない、家族の形。


 はっきりと変わるための「最初の一歩」を踏み出すのは、一体、誰なんだろう。


 華か、俺か、それとも


 兄貴か───?






「はーい。次の方どうぞ~」


 瞬間、お化け屋敷の店員が放ったその言葉に、蓮はハッとする。


 そうだった!

 今は、そんなこと考えてる場合ではなかった!!


「ほら、行くぞ蓮」


 すると、順番が回ってきたため、航太が蓮に声をかけた。しかし、蓮は──


「ちょっと待って! まだ準備ができてない(心の)!! とりあえず、もう1回最後尾に並び直そう!」


「いや、もう諦めろよ」


 案外、往生際の悪い蓮。果たして、蓮はホラー恐怖症を克服することが出来るのか!?

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