神木さんちのお兄ちゃん！

第179話 恥じらいと応援

「……え？」

　航太と目が合った瞬間、華は自分の手元を改めて確認する。蓮だと思って抱きついた腕が、蓮ではなかった。すると、その瞬間

「きゃぁぁぁぁ、榊くん！？　あ、あの、ごめん！これは、蓮と間違えただけで、あの忘れて！　今すぐ、忘れて！！」

「べ、別に謝んなくていいから！(てか、忘れられるか！？)」

「華、お前、なにやってんだよ！？」

（おー修羅場だ）

　飛び上がる勢いで航太から離れた華と、動揺する航太と蓮をみつめながら、葉月が静観する。

　まさか、華が榊に、抱きついちゃうなんて……

「あ、あの、本当にごめんね、榊くん、私……っ」

「神木、ホント謝んなくていいーから！　それより、お化け屋敷にいくんだろ？」

「あ、うん！　ほ、ほら蓮、いくよ！」

　すると、流石に恥ずかしかったのか、頬を紅潮させつつも、華は逃げるように蓮を引っ張り、華はその場から走り去っていく。

　そして、それを見送った葉月は

「榊、あんた、大丈夫？」

「大丈夫なわけねーだろ！！　心臓吐くかと思った！？」

　まさに、心臓が飛び出るくらい驚いた。

　いきなり、腕組まれたのもだが、至近距離で少し首を傾げながら見上げてくる姿が、いつもの数倍可愛かった。しかも、なんかいい匂いもして、それに……

「つーか、さっき華の胸、当たってたよね？」

「っ……」

　葉月にそう言われ、航太は顔を真っ赤にした。

　確かに、なにか柔らかい感触があった。あの体勢なら、確実にアレだろう。しかも、それが好きな子のとなるとは、意識せずにはいられず……

「もう、なんて顔してんのよ！　いいじゃん、ラッキースケベってやつじゃないの？」

「うるせーな。どこぞのハーレム系主人公と違って、一般人の俺に、そんな耐性できてるわけねーだろ」

「なにいってんのよー、ちょっと胸が当たったくらいで」

「ぐらいじゃねーよ！　てか、俺一人っ子だから、わかんないんだけどさ！　姉弟って、あんなにナチュラルに腕組んだりすんの！？」

「いや、あれは華だけだから。私は兄貴と腕組みたいとか一切思わないから」

　葉月とて、2つ上の兄がいるし、仲が悪いわくではないが、華のように腕を組んだりはしないし、むしろ、したくない。あれは、あの兄妹弟が異常に仲が良すぎるだけなのだ。

「しかし、榊が動揺するなんて、珍しい～ねぇねぇ、華のどこを好きなの？　それと、友人の双子の姉好きになった感想は？」

「お前、確実に、おちょっくってるだろ」

「だって、気になるじゃん！　しかし、あのハイスペックすぎる家族に臆して、華に告白すらせず諦めちゃう人もいるっていうのに、あんたもバカだね～」

「悪かったな、バカで。でも、これでも俺、中２の時から、ずっと神木のことが好きで……っ」

　そう言って視線を逸らす姿は、どこか可愛いというか、いじらしいというか。本当に華の事が好きなのだということが伝わってきて、葉月は無意識に笑みを漏らす。

「そっか……じゃぁ、応援してあげよっか？　華と、うまくいくように！」

「え？」

　その言葉に、航太は目を見開く。反対されるかと思いきや、まさか背中を押してくれるなんて……

「中村、お前」

「あ！　でも飛鳥さんにバレた時は、容赦なく裏切るから！」

「なんだ、それ！？」

「だって私、飛鳥さん(魔王)、敵に回したくないし！」

　なんて、変わり身の早いヤツだろうか！

　だが、気持ちは分からなくはない。

　何せ、その魔王は怒らせると怖いと、もっぱらの噂だからだ。(主に華と蓮から)

「まぁ、私もまだ華を取られたくはないし、手は貸せないけど、諦めるつもりがないなら、頑張ってみれば、応援はするよ！！」

　そう言って、また笑うと、葉月は航太の肩を叩き、そのまま華たちの後を追いかけていった。

　そして、その言葉に、航太は恥じらいながら

「言われなくても、諦める気ねーっての」

　あの家族に挑むのは、確かに無謀なことなのかもしれないが、そんなことくらいで諦められるなら、もうとっくに……諦めてる。

「てか、取られたくないって、あいつ本当に、応援する気あんのか？」

　応援するなんていわれたが、それと同時に、さりげなく『宣戦布告』をされた気がしないでもない。

　航太は一人、そう思ったのだった。