第181話 友情とお化け屋敷

 やって参りました。お化け屋敷!


 結局その後、無理やり航太に引っ張られてきた蓮は、お化け屋敷のゲートを潜り、中に入ることになった。


 リニューアルしたラビットランドのお化け屋敷。中に入ると、ソコは夏なのにひんやりとしていて、真っ直ぐに伸びた廊下の先には、不気味な絵画が青白い光を浴びながら、等間隔に飾られていた。


 無気味だ。明らかなあの絵画、怪しすぎる。バーンとかキャーとか、言いながらなにか飛び出してきそうで、蓮はゴクリと息を飲む。


「大丈夫か、蓮」


 顔を蒼白させて一歩も前に進めない蓮を見て、航太が心配し声をかける。


「なんなら、手繋ぐ?」

「繋ぐかよ!?」


 顔を顰めつつ差し出された手を見て、蓮が虚勢を張る。いくら怖いからって、男と手をつなぐほど落ちぶれてはいない!!


「よし、じゃぁ行くか。俺が先行くから、お前はあとから付いてこいよ」


 そういうと、航太は暗いお化け屋敷の中を歩き出した。蓮はそれを見て、置いていかれないようにと、航太のあとに続いた。


『きぁぁぁぁぁ』

『キャハハハハ』

『皿がぁぁぁぁあああ』


 それから暫く進むと、リニューアルしただけあり、なかなかの怖さだった。


 絵画が血の涙を流したり、マネキンの首が突然落ちたり、そのうえ至る所から、女の悲鳴やら、男の呻き声やら、赤ちゃんの泣き声やら、笑い声やらが聞こえてくる。


 そして、その度に蓮は航太の横でびくつくのだ。


(本当に、ダメなんだな、蓮のやつ)


 そして、友人のその珍しい姿に、航太は哀れみの心を持つ。ここまで弱いとは、流石に可哀想になってきた。


「蓮、何か明るいこと考えてろ。怖いと思うから余計に怖くなるから」


「ぁ……明るいこと?」


 そう言われ、明るいことを必死になって考える。明るいこと、明るいこと、明るいこと……


「あ、そう言えば先日、トイレの照明切れたから取り替えた」


「いや、物理的に明るくなることじゃなくて」


 まさかの、照明チョイス。

 やばい。これはもう重症だ。


 すると、航太は深い溜息と共に、真面目な顔をして蓮を見つめた。


 そのあまりに真剣な表情に、蓮は一瞬だけ恐怖を忘れた……のだが


「蓮、今まで、黙ってたけど…、実は俺、


「え?み……見える?」


「あぁ、幽霊が」


「!?」


 瞬間、蓮は思考を止めた。

 ゆ、幽霊が見える!?


「ほら、俺、神社の跡取り息子だからさ、霊感強いみたいで、たまに見えるんだけど」


「ああぁぁぁ、何言ってんだお前!?嘘だろ!?」


「いや、本当…(まぁ、本当にたまにだけど)」


 微量な霊感を、さも大げさに意味ありげに言う航太。だが、神社の跡取り息子という肩書きが、いい具合に信憑性を持たせているようだった。


「ほら、蓮。あそこに髪の長い女の人の霊がいるだろ?」


 そう言って、何も無いところを指さす航太。


 それは、お化け屋敷の偽物ではなく、リアルな方ということなのか!?


「ひぃぃ、お前、バカか!? ホント、やめて!! 俺になにか恨みでもあんの!?」


「いやいや、とりあえず聞けって……」


 顔を青くして慌てふためく蓮。だが、航太は苦笑いを浮かべつつも話し続ける。


「あの霊にはな、子供が3人いたんだけど、子供たちと遊園地に行くと約束してた先日に、交通事故でなくなったんだよ」


「……え?」


「いつも仕事ばかりで、遊園地なんて全く連れて行ってあげられなくて、子供たちにとっては初めての遊園地だったのに、約束を守れないまま、突然亡くなって……それが、未練になって現世にとどまってる。幽霊だってな、もとは人間で、その中には未練を残して残ってる悲しい霊だっているんだよ」


「………」


 その話に、蓮は胸を痛めた。


「っ……た、確かに俺、今まで『幽霊の気持ち』なんて一度も考えたこともなかった」


「そうだろう。そうだろう。そう思ったら、もう幽霊だって怖くないだろ?」


 といって、航太はニコリと笑う。


 なんて、チョロいのだろうか。

 まさかここまできくとは!


「それに、映画やテレビのやつは、作り話やでまかせも多いんだよ。アレは怖がらせるために作ってんだからな」


「そ、そうか……確かに──」


 ペチッ──


 だが、その瞬間。蓮の頬に何かがぶつかった。


「あ''あぁぁあ"あぁぁぁ!! なに!? 今のなに!? ちょ、待って、怖い、何アレ!?」


 頬に何かが触れた瞬間、蓮は身を震わせ、航太にしがみつく。


 柔らかいのか、冷たいのか、よく分からない何か、ホントなんだアレ!?


「大丈夫だって、ただのだから」


「コンニャク!? なにそれ!? リニューアルしたばかりのお化け屋敷で、なんで、そんな原始的な脅かし方してんの!?」


「和洋折衷様々なホラーをお届けしますと、パンフレットに書いてあった。最終的にキョンシーが自分で御札はがして追いかけてくる」


「御札の意味ねーよ!?」


 ラビットランドのお化け屋敷は、日本の幽霊から、西洋のドラキュラ、果てはキョンシーや、ジェイソンまでホラー要素てんこもりのカオスなお化け屋敷である。


「ほら、あと半分くらいだから、頑張れ!俺がついててやるから」


 航太はコンニャクやキョンシーにビビり、自分の腕にしがみつきは離れない蓮をみて、怖がらせないように笑顔を振りまく。


 だが…


「さ……榊…」


「ん?」


「嫌だけど、手つないでていいですか?嫌だけど」


「なぜ、嫌を2回いった」


 うん。嫌なのは痛いくらい伝わってきた。でも、プライド捨てるほど怖いのも伝わってきた。


 なんということだ。せっかくうまく丸め込めそうだったのに、これも全てコンニャクのせいか…


「全く、お前も素直じゃねーな。ほら、手繋いでやるから……!」


 だが、友人が怖がっていて突き放すこともできず、航太はそう言って、また改めて手を差し出した。


 すると蓮は、今度は素直にその手を取ってきた。


「「………………」」


 だが、改めて手を繋いで、ふと思う。


 なんで、男同士で手なんて繋いでんの?


 ──と。


「はぁ……お前が神木(華)だったら、よかったのに」


「いや、俺も一応、神木(蓮)なんだけど」


 深くため息をついた航太に、蓮が顔を顰めながら返事を返す。


 改めて男同士でお化け屋敷に入って、あまつさえ手を繋いでいる今の現状に、何やらとてつもなく虚しいものを感じた二人なのだった。



 ◇◇◇



 そして、そんな二人を見ていたお化け屋敷の従業員たちは


「なに、あの子達~!めちゃくちゃ可愛いんだけど~」


「やだー手繋いでる~」


「あれ、マジで脅かしがいがあるじゃん!

 よし!ちょっと、キョンシー部隊に、死ぬ気で追いかけろって伝えてきて!」


「OK! ついでに、天井からスライムも追加しとく!!」


 蓮のこわがりようと、イケメン二人の友情に感化されたのか、従業員たちはその後、全力でふたりを驚かせにいったとか?

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