第183話 救世主とフラグ


 ザッ───

 

 その瞬間、二人の前に現れたのは、兄と同じ歳くらいの青年だった。強引な男達から、華と葉月を庇うようにして身を乗り出した青年は


「はいはい、そこまでー」


 と言いながら、男達をなだめはじめた。


 茶色い髪をした、人なっこそうな青年だ。この遊園地の従業員なのか、スタッフ専用のブルーのキャップを被った、その青年の胸元には「武市」と書かれたネームプレートが付いていた。


「君達さー。この子達、困ってるじゃん。女の子と仲良くなりたいなら、もうちょっと優しくしてあげないと」


「はぁ? なんだよ、部外者が口出しすんなよ!」


「うーん、部外者じゃないんだよなー。俺バイトだけど一応、従業員だし……パーク内で女の子怖がらせてるお客さんを、見て見ぬふりはできないというか」


 青年は、困った顔をしながらも、華と葉月を後ろに隠し、盾になってくれているようだった。

 だが、突然、水を差してきたその青年に、男子達は更に苛立ちはじめる。


「俺ら、別に怖がらせてるわけじゃねーし!」


「そうだよ。それとも、この遊園地はナンパしちゃいけませんとか、そんなルールでもあんのか!」


「いや、そんな決まりはないけど……」


「じゃぁ、黙ってろよ!」


「うーん。でも君、でてるよ。それでナンパはないわ」


「嘘ぉぉ!?」


「ナンパしたいなら、身だしなみと礼儀は、しっかり整えてからにしたほうがいいよ。それじゃぁ、100%無理!」


「っ……」


「おい、お前何やってんだよ!」


「うるせー!!」


 あまりに致命的なことを告げられ、顔を真っ赤にした男は、その後、逃げるようにトイレへ向った。そして青年は、その姿をみおくりつつ、華と葉月に声をかけた。


「大丈夫?」


「あ、はい! ありがとうございました!!」


 華たちが、頭を下げれば、その「武市さん」は


「いいの、いいの! 俺も師匠に言われるまで気づかなかったし! それじゃ、俺行くから、楽しんでいってねー」


 そう言って、颯爽と立ち去って行った。


「すごく、いいお兄さんだったね」

「うん」


 そして、その武市さんが、兄のと知らぬまま、華たちは呆然と立ち尽くす。


 すると、そのタイミングで


「あー、もぅむり……本当、むり」


 と、航太と蓮が、お化け屋敷から出てきた。


「大丈夫か、蓮。吐くなよ」


「吐かねーよ!」


「あれ? どうしたんだ、二人とも?」


 すると、ボーっと立ち尽くす華と葉月に、航太が声をかける。すると


「あ、実は今、しつこい男たちにナンパされて」


「え!? ナンパ?」


「あーー!! ねぇ、蓮!! 今、すっごい親切なお兄さんが助けてくれた!! 身内じゃなかった!! なに、この少女漫画みたいな展開!! もしかして、運命の相手だったりとかする!?」


「何言ってんだ、お前! てか、俺のいない間に、なに勝手にフラグ立ててんだよ!?」


「はぁ!? 元はと言えば、男二人でお化け屋敷なんて入ってるからでしょ!?」


「お前が、入れたんだろーが!!」


 弟のいない間に、勝手に見知らぬ男(大河)に助けられ、変なフラグをたてた華。それを見て蓮は、青くなった顔を、更に青くしていた。


 そして、そんな中、葉月と航太は


「榊……多分これ、無理だわ」

「うん……俺もそんな気がしてきた」


 と、目の前で喧嘩を始めた華と蓮を見て、口元を引きつらせたのだった。

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