第175話 遊園地と夏祭り


「というわけで! 夏休み、遊園地に行こう~」


 次の日──昼休みに入り、お弁当を食べていた華は、向かいに座る葉月に話かけていた。


 内容は、もちろん、蓮のホラー克服大作戦!についてだ。


「へー弟君。怖いの苦手だったんだ。そんな風には見えなかったなー」


「昔からホラー系のものだけは、極端に弱くてね~。まー、私が飛鳥兄ぃを独占して、無理やり付き合わせてたのも、よくないんだけど」


 兄が作った甘い卵焼きをパクリを口に含みながら、華は苦笑いを浮かべた。


 夏前から、急に増え始める恐怖系番組。


 本当にあったかもしれない怖い話や、心霊体験をもとにした映画やバラエティー番組など、怖いながら興味本位で見ていた。だが、そのたびに、華はよく兄を独占していた。


 父は仕事をしていたり、家事をしていたりしていたため、双子の世話をするのはめっきり兄の役目。


 だからか、華が兄を独占すると、蓮は嫌でも一緒に見ることになってしまい……


(半分は、私のせいかもなー。なんとか、克服させてあげないと)


 兄の背に隠れ、おびえていた弟のことを思い出し、華は申し訳なく思う。


 日頃、頼りになる弟の情けない部分。


 珍しく姉らしいことを考えながら、華はお弁当を食べ終わると、最後に『ごちそうさま』と手を合わせた。


「私はいいよ。夏休み、華と、どっか行きたいと思ってたし! 三人で行くの?」


「うんん。榊君も誘って、四人でいこうかと思って!」


「……え、榊も?」


 だが、その名前を聞いて、葉月が驚いた顔をする。


「なんで、榊?」


「なんでって、蓮と仲が良いし! 葉月が良ければだけど、この後、誘いに行こうかなって……蓮はノリ気じゃないから、絶対誘わないだろうし!」


「うん……まぁ、私は別にいいよ」


「そっか、ありがとう~! じゃぁ私、さっそく榊君、誘ってくるね!」


「……はいはい。いってらしゃい」


 葉月がOKを出すと、華をにっこりと笑うと、その後、お弁当を片付け、教室からでていった。


 葉月は、そんな華の後ろ姿を見送りると……


「榊も……ねぇ」


 と、小ると小さく呟いたのだった。









      第172話 遊園地と夏祭り









 ◇◇◇


 桜聖第二小学校──


 全ての授業が終わった4時過ぎ、教室内は、子供たちの声で満ち溢れていた。


 明るく「バイバーィ」と手を振りながら、一人、また一人とクラスをあとにする児童達。


 エレナは、そんな中、一人ランドセルを背負うと、教室から出て、靴箱へと向かった。


 数人の生徒達とすれ違う中、廊下を進み、生徒玄関まで来ると、運動靴を取り出し、シューズをしまう。すると、その時──


「えー! 結城くん、紺野さんに告白したの!?」


「……!」


 靴箱を挟んだ反対側の通路から、ヒソヒソと女の子の声が聞こえた。


「うん、男子が話してたよ。手紙渡して告白したけど、振られたんだって」


「うそ~! 結城くん、凄く人気あるのに! その結城くんをふっちゃうなんて、サイテー!」


「…………」


 その話を聞いて、エレナは身を強ばらせた。


 「結城くん」とは、隣のクラスの男の子で、エレナは昨日、その子に告白された。


 昨夜、母に破かれた手紙。あれこそが、その結城くんからもらった手紙だったのだが……


「なんか感じ悪いよね。紺野さんて」


「モデルしてるからって、私たちのこと下に見てるんじゃない? 遊びに誘っても、いつも断るみたいだし!」


「あ、そう言えば、可愛い子って性格悪い子が多いって、お姉ちゃんが言ってた!」


「じゃあ、きっと性格悪いから、友達が出来ないんだね! 男子も馬鹿だよねー、可愛いってだけで簡単に騙されて、ぜんぜん性格見てないんだもん!」


「………」


 聞こえてくる女子達の声に、エレナはただ立ち尽くし、悲しげに瞳を揺らす。


 嫌われても仕方ないと、自分でも思っていた。


 遊びに誘われても断ってばかり。事実、友達はいないし、日本人離れした容姿のせいもあり、自分が周りから浮いているのも、よくわかっていた。


 だけど、直接聞くのは、やはり……辛い。


「エレナちゃん!」

「……!」


 だが、その瞬間、突然声をかけられ、エレナは、びくりと肩を弾ませた。


 咄嗟に身構え、恐る恐る目を向ける。すると、そこには同じクラスの芦田あしだが、にっこりと笑ってたっていた。


「あ、芦田さん……っ」


 エレナがこわごわと返事を返す。すると、どうやらその声に気づいたのか、先程の女の子達も「え? 紺野さんいたの?」とヒソヒソと話しを始め、その後、逃げるように立ち去っていった。


 芦田は、エレナの悪口を言っていた女の子たちを、見つめながら……


「あんなの気にしなくていいよ。あの子達、結城くんのことが好きだから、エレナちゃんに嫉妬してるだけだよ。それに、可愛い子は、性格悪い~とか言ってるけど、あれじゃ自分たちが可愛くないって、いってるようなのだよね?」


「………」


 明るく慰めてくれる芦田を見て、エレナは申し訳なさそうに目を細めた。


 どんなに誘いを断っても、芦田だけは、変わらずに話しかけてきてくれる。


 でも……


「私に……何か用?」


「あ、あのね、昨日ののことなんだけど」


 その言葉を聞いて、エレナは再び眉をひそめた。


 結城くんの手紙と一緒に母に破かれた、もう一つの手紙。それは、芦田さんのものだったから……


「昼休みに返事はもらったけど、やっぱり、エレナちゃんと一緒に夏祭り行きたいなーって思って」


「………」


 そう言って、恥ずかしそうに芦田は笑いかけた。


 なんでも八月末、小学校の近くの神社で夏祭りがあるらしい。その手紙は、夏祭りに一緒にいかないかという誘いの手紙だった。


「あのね! 榊神社の夏祭りって、燈籠とか飾ってすごく綺麗なんだよ! 他にも、子供たちが神輿みこしを担いで近所を回ったりとかもして! 少ないけど花火も上がるし、地元の夏祭りだから、あまり混雑しないし、モデルの仕事は忙しいと思うけど、一日くらい何とかならないかな? お母さんと一緒でもいいよ。神社についたら、待ち合わせして一緒に──」


「行かない」


 身を乗り出し笑顔で話し始めた芦田を見つめ、エレナは、矢のように鋭い言葉を返した。


「何度誘われても返事は同じ。だから、もう誘わないで」


 冷たく言葉を放つ。

 もう、芦田たちと一緒に遊ぶつもりは無い。


 なぜなら、そう、母と約束したから。


「ごめんね、芦田さん。私、もう行くね……っ」


「ぁ、エレナちゃん!」


 エレナは、それだけ告げると、呼び止める芦田を背に、その場から走り去った。校舎の外に出ると、そのまま小走りで校門へと向かう。


 家では、母がエレナの帰宅を待っていた。

 もし、遅くなったりしたら──…


「エレナちゃん……!」

「っ……!?」


 だが、校門をでてすぐ、聞き覚えのある声が響いて、エレナは足を止めた。


 見れば、エレナの数メートル先。


 そこには、いつものような笑顔ではなく、どこか悲しい目をして佇む


「お姉ちゃん……っ」


 ──あかりの姿が見えた。

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