第113話 誤解と誘惑
「あ、あかりちゃん……この人は?」
ずっと奥に引っ込んでいた飛鳥が部屋から顔を出せば、その姿を見た瞬間、大野はひどく驚いたようだった。
無理もない。いきなり、こんな美青年が意中の女の部屋から現れたら、そりゃ目も点になるだろう。
「あ、あの……君は?」
困惑しつつ、大野が飛鳥に問いかける。
すると、飛鳥は大野を凝視したあと、一瞬だけ考えると、その後、にこりと笑って、あかりを自分の方へと引き寄せた。
「あのさ、お兄さん。悪いけど、こいつ
「「!?」」
その言葉には、大野のみならずあかりも驚いた。だが飛鳥は更に付け加えると
「それと、俺たち、今から
あかりを抱き寄せ、まるで挑発するように言った言葉に、大野が瞠目する。
すっごく楽しいこと──そんなの、もう一つしか思い浮かばない!
「あ、あかりちゃん! 彼氏いるならいってくれたらよかったのに!?」
「えぇ!? あ、あの……っ」
────バタン!!
すると、あかりの肩を抱く飛鳥の姿をみて、敗北を実感したのか、大野は手にした野菜を渡すのも忘れて逃げ去った。そしてあかりは、その光景に見て、呆然と立ち尽くす。
「お前、断るの下手すぎ」
「だ、だからって、なんなんですか今の!?」
「だってお前、俺に『彼氏』って名乗られるのは嫌なんでしょ?」
「いや、あれじゃ、似たようなもんでしょ!?」
「仕方ないだろ。それに、あーいう強引に尽くしてくるタイプの男ってストーカーになりやすいし、しっかり現実見せつけてあげなきゃ多分諦めないよ? いつまでも、今みたいにだらだら断ってたら、どんどんエスカレートするし……」
「え?……そうなんですか?」
ストーカー。あまりに物騒な言葉が聞こえてきて、あかりは不安げに飛鳥を見上げた。
どうやら、大野を撃退するために一芝居うってくれたようだった。大野が去ったことにホッとしていると、飛鳥はあかりの肩から手を離し、また部屋の中に戻る。
すると、あかりは、そんな飛鳥のあとに続き、お礼をのべてきた。
「あの、ありがとうございました。大野さんには困っていたので、助かりました」
あかりが頭を下げると、それをみて飛鳥は優しく微笑みかける。
「いや、いいよ。俺も今日は、色々と迷惑かけたし」
飛鳥が、にっこりと笑うと、あかりもそれを聞いて、いつものようにふわりと笑った。
だが、その後、またベッドに腰かけ、飲みかけの紅茶を手に取った飛鳥は
「あ。でも俺、あんなこと言っちゃったけど、今帰ったら怪しまれるかな?」
「あんなこと?」
「楽しいことするからってやつ」
その後、視線を合わせると、あかりはふむと考え込んだ。
「……確かに、今帰ったら嘘だってばれちゃいますよね?」
「まぁ」
「うーん……じゃぁ、本当にしますか、楽しいこと」
「……は?」
瞬間、あかりから飛び出した言葉に、飛鳥は耳を疑った。
「……お前、なに言ってんの?」
「え、だって、もし大野さんに嘘だとバレたら、それはそれで怖いですし……どうせ、時間を潰すなら2人で楽しめることした方がいいかなって……あ、でも、嫌なら無理にとは……っ」
「…………」
飛鳥は、ひどく困惑した。
男と女(恋人同士)が、密室で行う楽しいこといえば、つまり
さっきのは、あかりに彼氏がいると大野に分かりやすく理解させ諦めさせるための、あくまでもデマカセだ。
なのに、その「楽しいこと」を……する?
「っ……お前、もっと自分の身体、大事にしろよ」
「え? 体?」
だが、さすがにそんなことはできないと、飛鳥が真面目な顔をしてかえせば、その返事を聞いて、今度はあかりが首をかしげた。
「神木さん、体を動かせるような遊びがしたいんですか? 申し訳ありませんが、うちにあるのは、いたって普通のゲームとか、トランプしかなくて……」
「…………」
マジで「普通」の楽しい事だった!
さすがの飛鳥も、その発言にひどく脱力した!どうやらあかりは、大野に言ったあの言葉の"正確な意味"には気づかなかったらしい!
真面目に、時間潰しになる楽しいことを考えているあかりに、飛鳥は赤面する。
なんか、一瞬でも邪なことを考えてしまった自分が、今、たまらなく恥ずかしい!!
とはいえ、なんて危なっかしいやつだ!
男と二人っきりだというのに、全く警戒してないし、スキだらけだし、オマケにあんな勘違いするようなことまでいってくるなんて……!
「お前、次まぎらわしいこと言ったら、マジで押し倒すよ」
「え!? いきなり、なに言い出すんですか!?」
「つーか、お前もっと危機感もてよ!? そんなんじゃ、いつか危ない目にあうよって、俺前にも言ったよね? あと、絶対、俺以外の男、家に入れるなよ!」
(あれ? もしかして私、怒られてる?)
あまりにも無防備なあかりを見て、飛鳥が怒り交じりに忠告すると、それを聞いて、あかりはひどく困惑したのだった。
***
そして、その後──
「はい。また俺の勝ち~♪」
「っ……あそこでアイテム使うの反則じゃないですか?」
「なに言ってんの。俺の作戦勝ちでしょ?」
「ていうか、神木さん、強すぎません?」
「まー、俺よく妹弟とやってるからね~」
それから暫く、テレビゲームをして二人で楽しく時間を潰したとか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます