第102話 喫茶店と落し物


「飛鳥くん、大河くん、またいらっしゃいね」


 喫茶店での雑談が一段落し、会計まで足を運ぶと、カウンター前で、美里に声をかけられた。


「ごちそうさまでした!」

「ケーキ、すごく美味しかったよ♪」


 大河に続き飛鳥がそい言えば、美里は嬉しいそうにはにかむ。


「まぁ、嬉しい! 飛鳥くんが買い物して帰るんじゃなければ、双子ちゃん達の分もケーキ持たせたかったんだけど……」


「いいよ、また3人で食べに来るから」


「ええ、楽しみにしてるわ。でも、あの華ちゃんと蓮くんが、もう高校生だなんて……これから先は、 3人で食べに来てくれるのも段々少なくなっていくのかしら? なんだか寂しいわね」


「……」


 美里が、寂しそうにそう口にすると、飛鳥はそれを聞き、一瞬だけ言葉をつまらせる。


「そうだね……あいつらも、いつまでも子供じゃないしね」


 だが、またいつものような、にこやかな笑みを見せると、飛鳥は何事もないように明るく返事を返した。


「……」


 だが、そう言いつつ僅かに言葉を詰まらせた飛鳥を、先に会計をすませ、店の入口から見つめていた隆臣は、心配そうに見つめていた。


 だが、店の入口に、いつまでもとどまるわけにいかず、隆臣は二人より先に店内から出ると、店の前で一人その思考を巡らせる。


 最近の飛鳥は、どうもおかしい。


 見た感じの様子は、普段と特にかわりないのだが、どこか余裕がないというか、たまに、すごく寂しそうにすることがある。


 特に、華と蓮が高校に入学した辺りから、それは次第に増えはじめた気がする。


(たまには、頼ればいいのに……)


 悩みがあるなら、いつだって相談にのるのに、飛鳥はどんな悩みも自分の中で全て解決しようとする。


 こちらから聞き出そうとしても、肝心のところは、いつも笑ってはぐらかして、素直に弱音を吐こうとはしない。


(……ほんと、面倒なやつ)


 隆臣は、深く深くため息をついた。


 友人として、それなりに深い仲ではあるとは思うが、やはりまだ知らないことも多い。


 特に、自分が飛鳥と出会う前。

 なかでも、幼少期のことは、あまり話したがらない。


「あの……落としましたよ?」

「!?」


 瞬間、呆然と考え事をしていると、急に人に声をかけられた。


 見れば、その人物はこちらに向けキーケースを差し出していて、隆臣はとっさに自身のポケットを確認する。


(あ、財布しまったときに落ちたのか?)


 どうやら、差し出されたキーケースは、自分のもので間違いないようだった。自宅の鍵を落とすとは、危ないところだったと、隆臣はすかさずそれを受け取り、お礼を言う。


「すみません、助かりました」

「……いいえ」


 すると、その人物は、柔らかな笑みを見せたあと、隆臣の前から立ち去っていった。


 が──


「あ! ちょっと待って!?」

「?」


 瞬間、隆臣は、とっさにその人物を呼び止めると、キーケースを拾ってくれた女性をマジマジと見つめた。


 この人は、あれだ。紛れもなく飛鳥がもう関わりたくないと話していた、あの


 ──あかりさん!!


「? なにか?」


 すると、突然呼び止められたあかりは、隆臣を見つめ困惑した表情を見せた。


 どうやら、こちらのことは覚えていないのか、呼び止めたはいいか、その先のことは考えておらず、隆臣は言葉をつまらせる。


「あ、その……」


 カランカラン──!


「じゃぁ、美里さん。またね~」


 すると、そのタイミングで、飛鳥と大河が店から出てきた。


 美里に挨拶をし、改めて外に視線を向けた飛鳥は、店の前で立ち尽くす隆臣とあかりの姿を見て、目を瞬かせた。


 瞬間、飛鳥とあかりの視線が合わさる。


 すると、その後すぐさま、あかりから視線をそらした飛鳥は


「行こう、隆ちゃん……」


 それは、あからさまに避けようとしているのが見てとれた。


 まぁ、ケンカ中なら、仕方のないことなのかもしれないが、なにもそこまで、あからさまな態度をとらなくても……と、隆臣が申し訳なそうに、あかりの見つみめれば、彼女はとてもとても悲しそうな表情をしていた。


 そして、その姿を見て隆臣はおもう。


 何となくだが、これは多分、悪いのは──8割がた飛鳥だ!


「コラ、まて飛鳥……!」

「わっ!? ちょっ、隆ちゃん!?」


 すると隆臣は、とっさに飛鳥の首根っこを掴むと、グィッと自分の方に引き寄せた。


「え? どうしたの?!」


 いきなり飛鳥を引っ張り寄せた隆臣をみて、近くにいた大河が、何が起こったのかわからず唖然とすれば、隆臣は飛鳥を掴んだまま、あかりに向き直る。


「あかりさん」


「え? はい」


「俺、飛鳥コイツの友人の橘です。飛鳥、 性格悪いし、たまに人を見下すし、見た目意外は悪魔みたいなやつで、本当素直じゃない、天の邪鬼みたいに性格歪んだやつなんですけど」


(えぇぇ? なんか、すごいこと言われてる!?)


「でも、何だかんだいって、優しいやつなんで、仲良くしてやってください」


「…………」


 その言葉に、空気がしんとする。雑踏の中ここだけ時が止まったように、誰もが声を噤むと


 ──ガシッ!


「あのさ、お前さっきからなんなの?」


 瞬間、飛鳥が隆臣の胸ぐらを掴み上げ、イラつきながら声を発した。


「いや、お前のためにと思って……」


「どこか? お前、さっきの俺の話聞いてた?」


「あの……神木さん!!」


 すると、そんな殺伐とした二人みて、今度はあかりが声をあげる。


「ぁ、あの……先日は、失礼なことをいってしまって、すみませんでした!」


 そういうと、あかりは申し訳なさそうに頭を下げてきて、その姿を見て、飛鳥は一瞬たじろく。


(ッ……こいつ、もしかして)


 ──ずっと、気にしていたのだろうか? 一ヶ月も?


「…………」


 すると、飛鳥は隆臣に掴みかかったまま、考え込む。


 確かに自分だって、あかりには悪いことをしたと思っていた。いくら関わりたくないと思っていても、このままというのは、やはり後味が悪い。


「飛鳥……」

「……?」


 すると隆臣が「謝ってるぞ」と言いたげに、飛鳥に目配せしてきて、飛鳥は、小さく息をつくと、隆臣から手を離し、頭を下げているあかりに改めて語りかける。


「謝らなくていいよ。それに、悪いのは……俺の方だし。その……ごめん」


 少しぶっきらぼうに。だが、素直に謝罪をする辺り、自分に非があるのは認めているのだろう。


 隆臣は、とりあえず仲直りできそうなことを確認すると「世話が焼ける」とばかりに呆れつつも安堵の表情を見せる。


「え? なになに? どういうこと?」


 すると、ずっと蚊帳の外だった大河が、頭に?マークを浮かべながら、隆臣に問いかけてきた。すると隆臣は


「あー、あの子だよ。さっき飛鳥が言ってた子」


「さっき?」


 その言葉に、大河は先程の喫茶店での会話を思い返すと……


「あー!! この子が神木くんが言ってた優しそうで可愛くて、巨乳だっていう女の子!?」


「「!?」」

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