第8章 遭遇
第100話 エレナと友達
「いい天気、もうすぐ梅雨明けるのかな?」
小学校の掃除時間──
竹箒を手にし、校庭の掃除をしていたエレナは、久しぶりに晴れた鮮やかな空をみながら考え事をしていた。
最近は憂鬱な雨が続いていたが、ここ2日間は天気がよく、今日は久しぶりに外で体育の授業があった。
体育の内容は"水泳"
エレナが通う、この桜聖第二小学校でも、先日プール開きが行われ、晴れの日には、外で水泳の授業を行うことも多くなったのだが……
(日焼け、してないかな?)
自分の肌を見つめると、エレナは少し不安そうな顔をした。
初夏に差しかかるこの季節にも拘わらず、長袖のカーディガンを羽織っているエレナは、他の生徒達よりも、一際白くキメ細やかな肌をしていた。
それは、キラキラと輝く金色の髪と合わせ見れば、まさに人形のように美しく愛らしい姿だ。
だが、エレナとて、なにもケアをせず、この姿を維持しているわけではない。
モデルを目指すエレナにとって、自分の体は 「商品」のようなものだった。
だからこそ、これから夏にかけて子供達は次第に小麦色になっていくところ、エレナはそうなるわけにはいかなかった。
モデルにとって、日焼けや怪我は大敵だ。それゆえに、エレナの夏は、カーディガンや日焼け止めが欠かせない。
……だというのに、最近、雨続きだったからか油断していて、今日はプールの授業があったというのに、日焼け止めを忘れてしまった。
日頃、外に出ないのもあり、日焼け止めを塗らずに、強い日差しに晒された肌は、少しだけヒリヒリと痛んだ。
(お母さんにバレたら、絶対怒られる……っ)
昔からそう。
体育の授業を受けるときは、特に気を使う。
走れば、転ばないように、ボールを使うなら、アザをつくらないように、モデルを目指すエレナは、何がなんでも怪我をするわけにはいかなかった。
『体に、傷をつけないようにね』
それは、母から何度と言われてきた
────呪いのような言葉。
(気を付けなきゃ……日焼けの跡とか残ったら、仕事に差し支えるし)
心の
すると、そのタイミングで、同じクラスの女子が、エレナに声をかけてきた。
「ねぇ、紺野さん! 今日の放課後、空いてる?」
ポニーテール姿のその女の子の名は、
「ぁ……ごめんね。今日は仕事があって」
「あ、そうなんだ」
せっかく芦田が誘ってくれたにも関わらず断らなくてはならないエレナは、残念そうに影をおとす。
放課後、モデルの仕事やレッスンがある日は、狭山が家まで迎えに来てくれる。ここ最近は撮影も多く、おまけにオーディション前ともあり、色々とやることも多い。
「ねぇ、じゃぁ明日は?」
「明日も、その……」
「じゃぁ、いつなら空いてる? 実はね、紺野さんと仲良くなりたいって子、本当はたくさんいるんだ。だけど、昼休みは図書室で本読んでるし、帰りもいつも早く帰っちゃうでしょ? だから、なかなか声かけられなくて……」
「……え?」
瞬間、エレナは目を見開いた。
人とは違う見た目もあり、エレナはみんなから避けられているのかと思っていた。だが、どうやら、逆に気を使わせていたか?
こちらに、引っ越してきてなかなかクラスの輪に馴染めなかったエレナにとって、それはまたとないことだった。
「だからさ、良かったら、放課後みんなと一緒に遊ばない? 第二公園に新しい遊具が出来たんだって」
「うれしい!」
思わず胸がいっぱいになり、エレナはにっこりと芦田に笑いかけると、芦田もつられて、恥ずかしそうに笑った。
「モデルの仕事忙しそうだし、紺野さんが空いてる日でいいよ?」
「あの……あさってなら、空いてる!」
「ほんと!」
「うん。あ、でも門限があるから、あまり遅くまでは遊べないけど……」
「うん! それでもいいよ~」
パッと顔を明るくして、芦田はエレナの手をとった。
「じゃぁ、みんなにも伝えとく! あさって晴れるといいね!」
そういうと、芦田はニコリと笑って、エレナのもとから、立ち去っていった。
──嬉しかった。
エレナだって友達はほしいし、やはり年相応に
みんなと遊びたいという気持ちもある。
だが……
(お母さんには、公園で遊ぶのはダメって言われてるけど……)
エレナは去っていく芦田の後ろ姿を見ながら、ほんの少しだけ不安を抱いた。
(でも………少しくらい、大丈夫だよね?)
自分にそう言いきかせると、エレナは手にした箒をぎゅっと、きつく握りしめたのだった。
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