第84話 諦めと本気
「それは、多分、
「……え?」
予想外の回答に、蓮は思わず呆気に取られた。
「は? なんで?」
「俺と蓮、小学校は校区が違ったから、中学で初めて同じクラスになって、仲良くなっただろ? その時に、蓮に神木(華)のこと聞いて、はじめは"友人の双子の姉"くらいにしか思ってなかったんだけど……お前シスコンだから、よく神木のこと話してくれてたじゃん、俺に!」
「……」
「で、中2で神木と同じクラスになって、始めはただのクラスメイトだったんだけど……蓮から色々聞いてたからか、 危なっかしくて見てらんなくてさ。なんとなく気にかけるようになってたんだよ。困ってたら、たまに助けてあげたりして。そしたら、だんだん話す機会が増えてきて、いつも目で追うようになって……あれ?って思った時には、めちゃくちゃ焦ったんだけど、もう遅かった」
「……」
一目惚れでもなく、進展イベントがあったわけでもなく、いつの間にか好きになってたリアルパターンだった。
これには、蓮も驚いた。
(え!? マジで俺が招いてんじゃん!?)
まさか華を守っていたはずが、自ら種を巻いていたとは!?
だが、確かに、榊は何だかんだいいながら、華には、なにかと優しかったなー……なんてことを、今更ながらに思い出す。
気にかけてるうちに好きになってしまったのなら、確かに、その気にかける"きっかけ"を作ったのは、自分……かもしれない。
「マジか」
「マジだ」
「そうか、なら、そんな榊に俺からアドバイスをしてやろう」
「お? マジで!?」
「あぁ……いいか、まず、料理ができて、勉強できて、ひととおり家事をこなせる、絶世の美男子になってから、あと5年くらいして、出直せ!」
「いや、今のどこがアドバイス!?」
シスコンの蓮がアドバイスなんて、ありえないとは思ったが、やはり的中した。
もはや「絶世の美男子」の時点で、一生告白するな!とまで、いわれているような気がした。
「お前、シスコンもブラコンもこじらせすぎだろ!?」
「だって、華の理想のタイプ、多分兄貴だろうし、うちの兄貴みたいになれたら、成功する確率あがるとおもうけど?」
「……なれるの、あれ?」
「多分、無理」
なろうとしていれば、なれたのだろうか、俺も兄貴と一緒に、努力していれば。
だけど、今更そんなことに気付いても、もう───────遅い。
「そっかー、じゃぁ、とりあえず料理から始めてみるかな」
「え?」
だが、不意に航太から飛び出した言葉に、蓮は困惑する。
「はぁ!? お前、なれると思ってんの!?」
「なんだそれ!? 誰もあそこまで、なれるなんておもってねーよ! でも、俺2年も片想いしてんだぞ。それに、正直、男として憧れてはいるんだよ、お前の兄貴に」
「……」
「お前達が、すごく信頼してる人だってのはよくわかるし、それが神木の理想のタイプなら、俺にとっては目標になるし、なりたいと思うなら、今から始めても遅いなんてことないだろ?」
「……」
「ま。絶世の美男子にはなれないし、5年も待つ気はないけどな!」
「しぶといな、お前」
「お前に言われたくねーよ」
「お~い、遅いぞお前ら~! モタモタするなよー」
体育館に着くと、部室前から着替えをすませた同じバスケ部の先輩が声をかけてきた。
航太が、それを見て、パタパタと部室まで走っていくと、蓮はそれを目で追いながら、ボソリと呟く。
「今から始めても……か」
気付いたのなら、今からでも遅くはないのだろうか?
やる気さえあれば──
「たまには良いこと言うじゃん……あいつも」
もし、俺が、少しでも兄貴に近づけたら、兄貴も少しは俺の事を頼ってくれるようになるだろうか?
一人で抱え込まず、話せなかったことも、話してくれるようになるだろうか?
もし、そうなれるのなら、俺も努力してみよう。今からでも──
この先、いつか、家族と離れる日がきても、俺が自分に自信を持って
歩いていけるように──
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