番外編 ①
飛鳥くんと隆臣くん (過去編のその後)
※事件から三ヶ月後の飛鳥と隆臣の番外編です。少しでも、お楽しみ頂けたら嬉しいです。
↓↓↓
◆◇◆
それは、飛鳥と隆臣が「友達」になってから、三ヶ月がたった頃のこと。
「隆ちゃん♪」
学校の休み時間。いつもの教室で、飛鳥はにっこりと笑みを浮かべると、机に座り、次の授業の準備を始めていた隆臣に声をかけた。
「なんだ?」
「ちょっと立って、俺の腕を掴んでみてよ?」
「は?」
机に座る隆臣に、立てと命令するばかりか、腕を掴めと言ってくる飛鳥に、隆臣は思わず顔をしかめる。
「なんで?」
「いいから♪ ね?」
そう言って、にっこりと笑う飛鳥の姿は、本当に天使のようだと思う。
隆臣は、よくここまで、なつかれたもんだと思いつつも、そう悪い気はせず、一度ため息をつくと、席をたち、飛鳥の指示に素直に従う。
「……こうか?」
「そうそう。ちょっと、じっとしててね?」
「?」
──ゴキッ!?
「いっ──てぇ!?ちょ、飛鳥、なにしてんだ、お前!?」
「あー……やっぱ、上手くいかないや」
「何が!? 俺の腕になにしようとしてんの!? マジやめて!?」
「ごめんね? ほんとは、床に叩きつけるつもりだったんだけど」
「どういうこと!? 謝るとこ違うだろ!? 何がごめんだよ! お前、俺をなんだと思ってんの!?」
腕を掴んだ隆臣に、なにやらとんでもない技をしかけようとして、失敗したらしい飛鳥。
その後、飛鳥は、うーんと顔をしかめ隆臣から手を離すと、自分の手の平を見つめ、難しそうな顔をする。
「なんだよ、一体……」
「実はさ、先日うちの父さんが護身術を覚えようっていって、いっぱい本を買ってきたんだけど」
「……あぁ、なるほど」
「でも、父さん相手じゃなかなか上手くできなくて。だから、同じ体格のやつなら、上手く沈むかなとか思って」
「沈めんな!? 俺、実験体だったの!? てか、やるならまず説明しろ!受け身もとれねーだろーが!」
「だって、説明したら逃げるだろ?」
飛鳥にそういわれ、隆臣は少し不服そうな顔をする。
そりゃそうだろう。誰が好きこのんで、痛い目にあわなくてはならないのか?
「逃げるに決まってんだろ! 誰がわざわざそんな」
「そうだよね。隆ちゃん、あの時も、俺をおいて一人で逃げたもんね」
「!?」
あの時とは、そう、
「う、うそだろっ……俺、ただでさえ、それ気にしてんのに、更にメンタルえぐる気か? それにお前、アレ、逃げろって言ったじゃん」
「……うん。確かにそう言ったし、結果的にはアレでよかったんだけど……でも、やっぱり、辛かったかな? あのときの犯人、すっごく変態だったし」
そういうと、飛鳥は瞳を潤ませ、ものすごーく悲しそうな顔をする。
(え、もしかして、泣きそう……なのか?)
いや、でも、確かにそうだよな?
辛かったよな?
あんな、怖いオッサンに捕まって
しかも、あんな泣いてたし、トラウマ、ハンパないよな?
オマケに、見た目はいいわけだし、護身術くらい覚えなくちゃ、命いくつあっても足りないし
あれ? これ、聞いてあげた方がいいのか?
「ねぇ、隆ちゃん。ここは俺のためだと思ってさ、潔くなろうよ。実・験・体♪」
「……っ」
綺麗な笑みを向けられると、隆臣の心は激しく揺れ動く。
飛鳥の笑顔は本当に綺麗だし、華もあるし、おまけに愛嬌もあるので、もう、いっそコイツになら、身を捧げても惜しくないんじゃないかとすら思わせてくる。
だが……
「ッ──誰がなるかぁぁ!? 俺は飛鳥とは、対等な立場でいると決めたんだからな! おいそれと、懐柔なんてされてたまるかよ!?」
「なにそれ、人聞きの悪い」
だが、隆臣はすんでの所で、しっかりと自我を保つと、飛鳥の提案を見事に跳ね返した。
そう、なぜなら飛鳥は──
「神木~」
「?」
「お前、日直だよな。職員室に持っていくノート、俺がやっといたからなー」
「あー、頼んでもないのにわざわざありがとう。たすかるよ」
「……」
そう。なぜなら飛鳥は、隆臣と友達になり学校で素で振る舞うようになってから、ここ三ヶ月で、前によくちょっかいをかけてきた、いじめっ子は勿論、クラス、いや、学年中の生徒を、既に懐柔する勢いだったからだ。
「おい飛鳥! 俺は、友達作るために"笑え"って言ったんだ! 誰が下僕作れって言った!?」
「俺は下僕だなんて一切思ってないよ?それに、あっちが勝手に優しくしてくるんだもん。俺にどうしろって言うの?」
「っ……お前、もう笑うな」
「なにそれ? 今さら後悔してるの?」
「後悔しかないわ!」
「だから、言ったでしょ? 大変なことになるかもって♪」
そういうと、飛鳥はまた綺麗に笑った。
そして、そのまた三ヶ月後。
飛鳥が六年にあがったころには、最終的に、学校のアイドル的存在にまで上り詰めるのだが、それと同時に、飛鳥の双子の妹弟が小学一年生として入学してくることとなる。
そして、その双子も、自分達の兄がとんでもない存在だと言うことに、のちのち気づかされ、色々と苦労を強いられることになるのだが……
それは、また、別のお話──
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