第44話 転校生と黄昏時の悪魔⑫ ~ランドセル~
「あっち。あっちの公園で遊んでたの!」
歩道に沿って植えられた街路樹が、風でカサカサと揺れる中、侑斗と
公園までの道のりを、華と蓮が、指さしながら侑斗を誘導する。
すると、あと五分もすれば公園につくだろうという頃、その先に落ちていた、あるものを見て、侑斗は首を傾げた。
「……なんで、ランドセルなんか?」
路上に不自然に落ちているランドセル。
侑斗はそのランドセルを手に取ると、持ち主を探すため広く辺りを見回した。
だが、もう薄暗くなっているからか、辺りには、持ち主どころか、人一人見当たらず、侑斗は再びランドセルに視線を落とす。
「お父さん、これ!」
すると、今度は蓮が侑斗に何かを差し出してきた。
見ればそれは、飛鳥が探しに行ったはずの「ウサギのぬいぐるみ」だった。
「ッ──なんで、これ」
それが、
華は、確かに"公園"に忘れてきたと言っていた。
それが、ここにあるということは、少なからずここまでは、誰かが持ってきたということになる。
そして、もし、その誰かが、飛鳥だったとしたら──
「お父さん、お兄ちゃんは!?」
「……っ」
瞬間、父の異変を感じとり、華と蓮が不安そうに父に詰め寄った。
「お兄ちゃん、どこに行ったのー!」
「お兄ちゃんに会いたい!」
今にも泣きだしそうな顔で、父の服を強く掴む双子の姿に、侑斗は必死にかける言葉を探した。
「華、蓮……っ」
「あの、すみません──」
するとそこに、一人の女性が声をかけてきた。
侑斗が顔をあげ、その女性を見つめると、その女性は、今にも倒れそうなほど顔を蒼白させていた。
「あ、あの、そのランドセル……うちの
夕日が落る頃、その現実は、容赦なく彼らにそれを突きつけた。
親にとってその現実は、身を切り裂くほどの、不安と後悔と恐怖に繋がるとも知らずに──
◆
◆
◆
「ぅぐッ────!!」
瞬間、呻き声と共に、そばにあったデッキブラシやバケツが、激しい音を立てて転がった。
薄暗いトイレの中、男に容赦なく叩きつけられた隆臣は、声にもならない悲鳴をあげ、冷たい床の上にうずくまる。
口の中を切ったかもしれない。舌先には鉄の味が広がって、背中や腹もズキズキと傷んだ。
「ぅ……、くっ」
「こんなところに隠れるなんて、まだまだ子供だねぇー」
苦しそうに息をする隆臣をみつめ、男が嘲笑うような声を発した。
その声に、隆臣が再び男を見上げれば、男の口元は、不気味なほど吊り上がっていた。
どこかひんやりとした、秋の黄昏時。
外の街灯の光だけが、ぼんやりと辺りを照らす中、コツコツと靴音を響かせる男は、隆臣を見つめて、更に話を続ける。
「君は勇敢だね~。まさか、あんなカマかけてくるなんて」
「………」
『和也くん』と、嘘をついたことを言っているのか、男は酷く不機嫌そうで、その声を聞けば、自分が目の敵にされているのがありありと伝わってくる。
そして
「邪魔をしないでくれないか? 私は、ただ、その子と、仲良くしたいだけなんだ」
「っ……」
"その子"──と、言って、神木を盗み見た目が、ただならぬ狂喜を含んでいる気がして、隆臣は総毛立った。
(こいつ、とんでもなく、ヤバいやつだ……ッ)
あまりにも異常な執着心。
子供なら"誰でもいい"というわけでもない。
この男の目には、今、
俺の横にいる、神木 飛鳥しか──
「ッ……」
恐怖心から、ガチガチと歯が震えだすと、全身から汗がながれた。
(早く、逃げなきゃ……ッ)
頭ではそう思うのに、床に転がった身体は全く言うことを聞かない。
「……橘」
「!」
すると、倒れ込んだ隆臣を介抱していた飛鳥が、囁きかけるように話しかけてきた。
男に聞き取られぬよう、横たわる隆臣に顔を寄せ、声を最小限に落とす。
「……アイツに隙ができたら、お前だけでも逃げろ」
「え?」
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