第31話 大河と隆臣


「どうやら、お前を、、大変なことになっててな」


「…………………」


 爆弾発言にもほどがあるだろ──と、飛鳥は心の中で突っ込んだ。


 つまり、この「武市くん」は、文化祭で、女装をしていた自分をみて一目惚れをし、廊下に焼きそばをぶちまけたあと、隆臣と再会した……ということなのだろうか?


「あはは、すみません。いきなりこんなこと言われたら、びっくりしますよねー」


「うん、そうだね。もう、どこからツッコんでいいのか、わからないや」


 てへっと頭をかきながら言葉を投げかける大河に、飛鳥は笑顔で毒を吐く。


「あのさ、一目惚れって、もしかして君はまだ、俺が『女の子』だとでもおもってるの?」


「ち、違います!! 確かに、初めは一目惚れから始まりましたけど、その後、橘と再会して、だと聞いてからは『むしろ、男なのに、こんなにキレイッて、すごくないか』ってなって、一気にファンになりました! もうそれからは、男とか女とか関係なくとして、神木くんを神のように崇め奉ればいいんじゃないかとおもって!!」


「ごめん。ホントなに言ってるのかわかんない」


「嘘だろ……お前、もうそこまで重症なのか?」


 度を超す大河の発言に、飛鳥が口元を引き攣らせ、隆臣が顔を歪める。


 これは、もう「信者」といってもいいレベルだ。

 

「てか飛鳥、お前も、なに大河と鉢合わせてんだよ。今までの俺の苦労、全部水の泡じぇねーか」


「はぁ!? なんで、俺のせいになるの? いつの間にか背後にいたんだよ。助けてくれた心優しい人かと思ったら、中身キツネどころか、どんでもないだったんだよ。しかも隆ちゃんの友人とか、もう頭おかしくなりそうなんだけど?」


「俺だって、まさか大河がここまで飛鳥に惚れ込んでるとは思わなかったわ。でも、これでも根は真面目だし、悪いヤツではないんだ。ただ、飛鳥のことに関しては、してて、手に負えないだけで」


「最後の部分が、一番厄介なんだけど」


「大丈夫ですよ、神木くん! 俺のことは空気だとでも思ってください! 俺は、ただ見てるだけでも十分──」


「ごめん。俺、君のこと


「なんと!!?」


 にっこりと笑顔を浮かべ、それとは対照的な辛辣な言葉を放った飛鳥に、さすがの大河も驚愕する。


「な、な、なぜですか、神木くん! 俺のなにがダメなんですか!?」


「9割型、そのテンションが」


「テンション!?」


「お前ら、うるさい。少し声を抑えろ」


 笑顔の飛鳥と蒼白する大河をみて、隆臣はため息をつくと、騒がしい二人に静止の言葉をかけた。


 隆臣からしたら、うちの喫茶店で喧嘩をするのは、やめて頂きたい。


「ちょっと橘、コーヒー飲んでないで、少しはフォローしてよ……!」


 すると、横で優雅にコーヒーをのむ隆臣に、大河が助けを求めてきた。


「いや、フォローって……もうダメだろ。修正効かないくらいドン引きだろ。でも一応、飛鳥を助けたのは事実みたいだし、大河がこれ以上バカなことしなけりゃ、そのうち仲良くなれるんじゃないか?」


「……ちょっと隆ちゃん、テキトーなこと言わないでくれる?」


「だってそうだろ。なんせ、俺だって──昔は飛鳥としな?」




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