第30話 ファンと親友
「神木くん、俺、あなたのファンなんです!!!!」
「!?」
歩道のど真ん中で、男の声がこだまする。
「ずっと、ずっと、会いたいと思ってましたあぁぁぁ!!」
「あ、や……」
そして、その男のあまりの剣幕に、飛鳥はただただ硬直する。だが、そんなことはお構いなしにと、熱くなった男は更に、飛鳥の方へと身を乗り出してきた。
「俺が、神木くんと初めてあったのは、かれこれ3年ほど前なんですが!! あの時は、ただすれ違っただけで、話なんて一切してないのに、神木くんの美しさに目を奪われて、買ったばかりの焼きそばを、ものの見事に廊下にぶちまけてしまったのは、今でも、よき思い出です!! 一度でいいから、神木くんとお話してみたいと思っていました!! お友達になってくれなんていいません! 下僕で構いませんから俺と」
「いや、あの、ちょっと待って!」
少しくいぎみに身を乗り出してくる青年に、飛鳥は身の危険を感じ、恐怖から一歩後ずさる。
だが、僅かに距離は取れたものの、手を握られていては、それも限界があった。
「神木くん! 今、お時間ありますか! よかったら俺とお茶――」
「ない! 全くない! とりあえず、離し──」
しかも、あろう事かお茶を進めようとする茶髪の男!
助けてもらったとはいえ、完全に油断していた。まさか、
(っ……まずい。早く、逃げないと…っ)
先程、助けてもらった恩など忘れ、しっかり男を「ヤバイ奴」認定した飛鳥は、なんとか隙を見て逃げようと画策する。
だが──
「そうなんですか!?では、連絡先教えてください!!ここで聞かねば、きっと一生聞けない気がするので!!!」
(一生聞かなくていいよ!!!)
怖い!!なんか、蓋を開けたら、さっきの盗撮男より怖い!!
「神木くん!!俺」
「あ、や……ッ」
「おい、
だが、その瞬間、茶髪の男の首ねっこを掴んで、諌める男が現れた。
赤毛でスラリとした長身の男。
その男が、茶髪の男を勢いよく飛鳥から引き剥がすと、掴まれていた手は難なく離れた。
だが……
「痛い! 痛いって、
「ったく、何やってんだお前は! 飛鳥が困ってんだろーが!」
「…………」
だが、新たに現れたその赤毛の男は、飛鳥も、よく知っている人物で
「え?…………隆ちゃん?」
◇
◇
◇
「あら、珍しいわねー。隆臣が飛鳥くんと
その後、いつもの喫茶店に入ると、珍しい組み合わせの三人を見て、隆臣の母であり、喫茶店のオーナーでもある美里が、にこやかに声をかけた。
まだ買い出しの途中だと言うのに、結局、お茶をすることになってしまった飛鳥は、渋々奥のケーブル席まで移動すると、自分の向かいに、二人並んで座った隆臣と茶髪の男を見つめ、眉を顰める。
「だから、俺は神木くんが困ってるとおもって助けたんだって! ヒーローのごとく登場したの!!」
「どこがヒーローだ。どーみても困らせてたのお前だろ? たく、ちょっと目を離したすきに、いなくなりやがって」
目の前で仲良さげに話す、隆臣と茶髪の男。その様子を見て、飛鳥は複雑な心境になる。
その二人は、明らかに顔見知りらしかった。
だが、先程の「ヤバイ奴」が、よもや友人の知り合いだったとは。なんだこの、なんとも言えない感情……
「あの、隆ちゃん。とりあえず、説明して」
「あーすまん。
「
「え? うそ、同じ大学!?」
それを聞いて、飛鳥は不安げに眉をひそめる。
つまり、この「武市くん」は隆臣が転校してくる前の学校で一緒だった、古くからの友人で、現在は、自分達と同じ大学に通う、
「前から『会わせろ』って、大河に言われてたんだけどな。あまり気が進まなかったから、今までずっと無視してきた」
「ええ!? なんだよそれ、酷い!?」
「ひどくねーよ。大河紹介するとか、俺の汚点だわ」
「汚点!!?」
「てか、なんでそんなに、俺に会いたかったの?」
隆臣の話を聞いて、飛鳥が首をかしげる。
さっきの言葉攻めにも驚いたが、いくら自分の容姿が人より優れているからと言って、ただ一回すれ違っただけだで、同性のファンになったりするだろうか?
「あー、それは……お前、高校の文化祭で、女装したことあっただろ?」
「?」
すると、隆臣が改まってそういって、飛鳥は首を傾げた。
「あー……あれ? みんなしてノリでやった男女逆転劇のこと?」
「そうそう。俺、転校してからずっと大河と会うことはなかったんだけど、その文化祭で、たまたま偶然、こいつと出くわしたんだ。そしたら……どうやら、お前を、女と勘違いして一目惚れしてて、大変なことになっててな」
「…………………」
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