第5章 転校生と黄昏時の悪魔

第28話 受験と隠し撮り


 春の匂いを感じ始めた3月某日。

 華と蓮は、今まさに運命の時を迎えていた。


 都立桜聖高等学校──


 そこは、神木家が暮らすマンションから、そう遠くない位置に存在する公立高校だった。


 学科は普通科と情報科の2つに別れ、1学年5クラス(情報科2、普通科3)全てが、同じ塔に位置する、程よいサイズの、いたって普通の高校である。


「やった~~!! あったー! 蓮は」

「うん。俺もあった」


 そして、この高校を今年受験した華と蓮。


 兄にしごかれながらの受験勉強のかいがあってか、二人とも無事合格することができたようです。








第28話『受験と隠し撮り』

 








◇◇◇


「あ、華? どうだった?」


 一方、双子と別行動をとっていた飛鳥は、買い出しに向かう途中、公園沿いの少し広めの歩道を歩いていた。


 三月に入り、公園に咲く桜の木は、小さな蕾をつけていた。そんな春の兆しを感じながら、飛鳥が受験の合否について妹弟のことを思いだしていた時、丁度華から電話がかかってきた。


「受かった。うん、蓮も。そう……あれ、もしかして、お前泣いてんの?」


 側にあったガードレールに寄りかかりながら話をする。


 電話先では、感極まって泣きだす華の声が聞こえてきて、飛鳥はクスリと笑みを浮かべた。


 きっと、高校の掲示板の前で、蓮に抱きつきながら泣きじゃくっているのだろう。そんな姿が目に浮かぶ。


「そう、葉月ちゃんも受かったんだ。おめでとう。……え? ああ、俺はまだ少し寄るところがあるから。はいはい、お昼には帰るよ! じゃぁね」


 そう言って電話を切ると、飛鳥はホッと息をついた。


(……そっか、受かったんだ)


 愚痴をこぼしながらも、二人とも、よく頑張っていた。わからないところは素直に聞いて、たまに喧嘩をすることもあったけど、それでもコツコツと毎日勉強に励み、しっかりものにしてきた。


 そして、その結果は、二人に勉強を教えてきた飛鳥にとっても、とても喜ばしいものだった。


(今日は、ご馳走作ってあげなきゃ)


 くすっと、誰もが見惚れてしまいそうな柔らかな笑みを浮かべ、飛鳥が愛おしそうに頬を緩ませる。


 今夜は、合格祝いをしたくては。

 だが、飛鳥がそう思った時。


 ──カシャ!


「!?」


 どこからからか、シャッター音が聞こえた。


 スマホや携帯から発せられる電子音だ。不意に嫌な予感がして、飛鳥がそっと辺りを流しみれば、そこから少し離れた場所で、若い男が一人、スマホをこちらに掲げているのが見えた。


 だが、ガードレールに寄りかかる飛鳥の背後にあるのは、ただの車道。特段珍しいものもなければ、こんな歩道のど真ん中で、男一人で自撮りしているとも考えにくい。


「ねぇ、それ何撮ってんの?」


 軽くにらみつけながら、飛鳥が男に声をかけると、その男は、ヘラヘラ笑いながら飛鳥に近寄ってきた。


「うわ、やっぱバレた? ごめん、ごめん!」


「……」


「つーかさ、あんたマジ綺麗だね! これ、なかなかよく撮れてない? さっきチョー綺麗な笑顔してたよ」


「………」


 手にしたスマホを堂々と見せつけながら、男が抑揚のある声を発した。


 やはり、写真を撮られていたらしい。だが、全くの面識のない相手から、馴れ馴れしく接され、飛鳥の視線は更に鋭くなる。


 髪をオールバックにした、いかにも浮ついた感じの黒髪の男。おそらく年は、自分と同じ二十歳前後だろう。


 また、厄介なやつに捕まった──


「ねーねー、あんただよな?」


「?」


 すると、男がまた話しかけてきた。


て!」


「!?」


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