第21話 プレゼントと本
華が差し出してきたそれは、十センチ四方のキューブ型の箱だった。
飛鳥はそれを受けとると、青いリボンを解き、プレゼントの中を確認する。
するとその中には、コバルトブルーのバレッタと、ゴムやピンなどのヘアアクセサリーが数点はいっていた。
「なに、髪留め?」
「う、うん。だって飛鳥兄ぃ、いつも私の勝手に使うから、女の子のお店に入るのが恥ずかしくて買えないのかなと思って!」
(なんか、すごい詮索のされ方してる)
もちろん、飛鳥にそんな深い事情はない。
だが、不安そうにこちらを見つめてくる華を見て、先ほど『怒らない?』と念を押してきたのはこのためかと、飛鳥は妙に納得してしまった。
確かに男性に、女のものの髪留めなんかプレゼントしたら、怒られるかも?と思ってもおかしくはない。
だが、そのバレッタは、自分の金色の髪に映える、とても綺麗な色合いをしてて、きっと兄の長い髪に似合う色を、たくさんあるヘアアクセの中から探してきてくれたのだろう。
飛鳥は、そんな華を想像し、柔らかく微笑む。
「ありがとう華。大事にするよ」
「う、うん」
改まってお礼を言われ、華は、咄嗟に目を逸らした。
幼いころは、よく蓮と二人で、兄にプレゼントをしていた。クレヨンで描いた絵とか、折り紙で作ったお花とか、そしてその度に兄は、いつも笑って「ありがとう」と言ってくれた。
どんなに下手でも、不格好でも、決して無下にはせず。
(……今でも、喜んでくれるんだ)
その兄の変わらない反応に、華の胸はいっぱいになった。
だが、そんな感動的なシーンに、蓮が水を差す。
「へー、なんか普通」
「な! 普通でなにが悪いのよ!?」
「だって、さっきのエロ本のインパクトが凄すぎて」
「それは、アンタがいいだしたんでしょ!? ていうか、そう言う蓮はどうなのよ!!」
「え? 俺?」
すると、どうやら、蓮もプレゼントを用意していたらしい。
ポケットから、ごそごそと手紙のような小さな包みをとりだすと、それを、飛鳥の前に差し出してきた。
「え? なに、手紙?……まさか、今までの感謝の気持ちを綴ってきましたみたいな?」
「違う違う」
華の言葉を、蓮が否定すれば、飛鳥は、その手紙を受け取り、家族が見守る中、封を切った。
すると、そこから出てきたのは
──なんと、図書カード!
「ちょ、なんか、すごく現実的なプレゼント出てきたんだけど!? なによ、この斜め上なプレゼント!?」
「だって兄貴、本好きだから、よく読んでるじゃん。でも、始めは本をプレゼントしようかと思ってたんだけど、カブったら嫌だし、だったら図書カードにして、好きな本買ってもらえばいいかなって?」
「えー、誕生日だよ! しかも、二十歳だよ! 図書カードって全然形に残らないじゃん!!」
「なんで華は、いちいち形にこだわるんだよ。これだから女は」
「あー、今の発言、女の子敵にまわしたからね!」
「うわ、めんどくさ! 実用的なプレゼントの方が、もらう方もありがたいって。兄貴もそう思うでしょ?」
「まー、俺は特にこだわりないし、むしろ嬉しいよ、図書カード♪」
「うそでしょ!? これだから男共は!?」
「おい、気づいてる? お前今、男敵にまわす発言してるぞ」
蓮が華に突っ込めば、二人の向かいに座っていた飛鳥は「どっちもどっち」と言いたげな表情で二人を見つめた。
飛鳥にとっては、二人が一生懸命考えてプレゼントしてくれたものなら、なんだって嬉しいのだが……
まぁ、そんなこと、口にしては言えないけど。
「あ、本といえば、飛鳥!!」
「?」
すると、今度は、父の侑斗が唐突に声を上げた。
「ん、なに?」
「なにじゃない! 父さんのあの部屋なんなの?! 俺の部屋の一部が、お前の本で埋め尽くされてるんだけど!?」
飛鳥はキッチンに目を向ければ、どうやら父は、書斎の片隅に積み重なったダンボールのことを言っているらしかった。
父の六畳の書斎に、数箱積み重なった段ボール。それは、飛鳥が読み終えた文庫本や文芸書の山だった。
「あー、埋め尽くしてはないよ。一時的に保管させてもらってるだけ」
「保管所!?」
「あ、そうだ、父さん、まだ暫く海外にいるならさ、俺あの部屋つかってもいい?」
すると、今度は蓮が侑斗向かってそう言って、侑斗は、ふむと考えこむ。
神木家の間取りは、3LDK。
よく、みんなが集まっているリビングダイニングを除けば、残る部屋は3部屋。
その3つのうち、六畳の部屋を父と華が一部屋ずつ使い、残った一番大きな十畳の部屋を、飛鳥と蓮が共同で使っているのだが……
「うーん、確かに、蓮ももうすぐ高校生だしなぁ、いつまでも飛鳥と共同っていうわけにもいかないしなぁ……あ。でも、俺、帰ってき時、どこに寝ればいいの?」
部屋を開け渡すのは、別に構わない。
だが問題は、3部屋ある部屋を全て子供たちが使ってしまったら「父の部屋」がなくなるわけで……すると、子供たちは一瞬顔を見合わせながら
「私の部屋は、絶対ダメだからね!」
「一番広いし、兄貴の部屋でいいんじゃない?」
「それはヤダ。リビング使って」
「ちょっと、お父さん追いやられてる!? どんどん隅に追いやられてるよ!?」
自分の部屋は嫌だと、ことごとく子供達からNGをくらう父。
今に始まったことではないのだが、神木家の子供達の父に対する対応は、日増しに「塩化」しているのだった。
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