第20話 家族とケーキ
その後、夜になり、兄の誕生日を祝う神木家では、先程まで豪勢に盛り付けられていた料理が見事平らげられていた。
「お父さん、すごーい。まさかケーキまで作るなんて!」
父が、夕方からせかせかと作っていたケーキを、華が絶賛する。
料理はもちろんだが、スポンジからしっかりと焼きあがったケーキは、なかなかの出来栄えだった。
一般的だが、イチゴたっぷりのチョコレートケーキ。お店で販売しているものと比べたら、確かに見劣りはするが、それでも手作りというだけあり、愛情がたくさんつまっているのは、ひしひしと伝わってきた。
「また、腕上げたんじゃない?」
「そうだろう、そうだろう~」
華の言葉に、文字通り腕を振るった侑斗は食べ終わった皿をキッチンに運びながら、誇らしげに答える。
子供達が幼い頃は、料理なんて皆無の侑斗だったが、妻が亡くなってからは、それなりに料理をマスターし、今ではそこそこのモノを作れるようになっていた。
「
((おぉ、なんか……))
だが、その突然飛び出してきた「お見合い」の話に、華と蓮は、なんとも言えない表情をうかべた。
そう、父の侑斗は、その社交性はさることながら、人を惹き付ける魅力に溢れた人だった。
上役に気に入られるばかりか、部下や取引先からの評判も良く、仕事や、その人当たりの良さに感しては、華と蓮も感心するほど。
だが、父のその「人を魅了する要素」は、善かれ悪しかれ、兄はしっかり受け継いでしまっているようで
(まさに、この父にして、この兄ありって感じだな)
(親子揃って人たらしだなんて、タチ悪るすぎ)
飲みかけのコーヒーを同時に手に取ると、双子は、ケーキを食べている兄をじっと凝視する。
外見だけでなく、その人当たりの良さに
だが、今まで一緒に暮らしてきた双子は思う。ハッキリ言って、どちらも性格に難ありだと!!
「それで? ちゃんと断ったの?」
すると、その"お見合い"の話が気になったのか、飛鳥がキッチンにいる侑斗に問いかけた。
もし、父がお見合いなんてしたら、下手をすれば"新しい母"が出来るかもしれないわけで、そうなると息子としても、簡単に無視できる話ではない。
「あはは、ちゃんと断ったよ! 俺こう見えて、もう46だしね。しかも思春期真っただ中の3人の子持ちって、相手可哀想すぎるでしょ~」
「うん、そうだね。不良物件すぎるもんね。中身がコレだと」
「お前は、もう少し歯に衣を着せようね、息子よ!」
平然と毒づく飛鳥に、侑斗は、額に手をあてて軽く嘆いた。すると何を思いだしたのか、蓮が
「あ! 華、兄貴にプレゼント用意してたんじゃないの?」
「ぶッ!!?」
思わぬ蓮の発言に、今度は、華はビクリと肩を弾ませ咳き込んだ。
実は華、先日葉月と一緒に選びに行った兄の誕生日プレゼントを──まだ渡せていない。
「へー、プレゼントがあるんだ?」
「あ、いや、ない! ないけど、そのないわけでも……ないような」
「どっちだよ」
ボッと顔を赤くし慌て始める華をみて、飛鳥は、頬杖をつきながらクスリと微笑んだ。
すると、それを見ていた侑斗が、さりげなく助け船をだしてきた。
「なに恥ずかしがってるんだ、華。プレゼントを用意してるなら持ってきなさい。今渡さないと、一生渡せないぞ」
「……っ」
その父の言葉に、華は再度兄を見つめた。
最近プレゼントなどしていなかったからか、改めて渡すとなると、どうしようもなく恥ずかしい。
だけど……
(そうだよね。せっかく、あんなに悩んで買ってきたんだから……っ)
父に後押しされ、華は再び兄を見つめた。
「あ、あの……怒らない?」
「え? 怒るようなプレゼントなの?」
「なに、エロ本?」
「!!?」
すると、不意に蓮が口を挟んで、いきなり飛び出してきた卑猥な本の総称に、華は酷く慌てふためく。
「ちょ、なんでそうなるの!?」
「だって、怒られるかもとかいうから」
「だからって、なんで
「あはは、なにいってるんだ華、蓮の言うとおりだぞ。妹からエロ本のプレゼントだなんて、さすがの飛鳥も怒るだろ?」
「いや、お父さんまで、何言ってんの!? てか、なんで私がエロ本あげるで前提で話すすんでんの!?」
父があたかも「やっちゃったね」と言いたげな表情をうかべると、華は再び怒号を発した。弟も弟なら、父も父である!
「もう、二人してからかわないでよ! だいたい飛鳥兄ぃは、そんなの貰っても喜ばないでしょッ!」
「なにをいうんだ、華! こんなに綺麗でも、飛鳥だって男の子なんだからな! 興味あるに決まってるだろ!! エロ本の1冊や2冊、持ってて当然だろ!!」
「そうだよ。ベッドの下とか、本棚の奥とか確認してみろよ。きっと出てくるから」
「嘘でしょ!?」
「……俺は、いつまでこの話聞いとけばいいの? なんかの拷問なの?」
当人をまるで無視した三人の会話に、飛鳥が思わずつっこむ。
なんでプレゼントの話から、エロ本を所持しているか、していないかの話になっているのか?
双子だけでも、常にバカをやっているというのに、それに父が加わると、その威力は数倍だ。
「もう、私のプレゼントは、そんないかがわしいものじゃありません!」
すると、華はあきれつつも、リビングの引き出しからプレゼントらしきものを取り出してきた。
「あの……いらないなら、私が使うから……ちゃんと言ってね」
「?」
そう言って恥ずかしそうに華が差し出してきたそれは、ブルーのラッピングが施されたキューブ型の箱だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます