第18話 中学校と子供達
「うー寒い~」
その後、華と蓮は七階の自宅からエレベーターに乗りエントランスまで出ると、警備室の前を横切り、マンションの外に出た。
あまりの寒暖差に、縮こまるようにして身を震わせた華は、少しでも温まろうと、手袋をした手をスリスリと合わせる。
「帰り、雪降らないといいな。タダでさえ、お兄ちゃんにプレゼント渡したい女子に捕まったら、大変だってのに」
「そうだな。しかし、兄貴も毎年大変だよな」
兄は、ある時期を境に急激にモテはじめたのだが、それからは毎年このように、プレゼントを回避するため奮闘している。
「まぁ、飛鳥兄ぃ、美人だしカッコいいし、その上、優しいところもあるから、女の子が憧れる気持ちもわからなくはないって言うか」
「……憧れねぇ」
白い息を吐きながら華がそう言うと、蓮は、理解できないと言いたそうな目をして遠くを見つめた。
毎年の事とはいえ、あの美人すぎる兄をもつと、下の妹弟は何かと苦労させられるのだ!
「でもさー、せっかくプレゼント用意してくれてるんだし、少しくらいは受け取ってあげてもいいのにね! もしかしたら、その中に『未来の花嫁さん』も、混じってるかもしれないのにさ!」
「まー、一個や二個なら感動もするけど、数がでかくなると困ることも出てくるんでしょ。モテる人の気持ちは、俺らにはわかんねーって」
「まーねー」
とはいえ、誕生日やバレンタインは受け取らなくても、なんでもない日に渡されたクッキーとかは、普通に受け取ってきたりもする。
気まぐれなのか、なんなのかは知らないが、その飴と鞭の使い分けが絶妙なのも、また兄なのだ。
「ねえ、あの子たちだよね。神木くんの?」
「「!?」」
すると、その直後、二人の耳に不穏な声が聞こえた。聞けば、その声は三人から四人。それも、全て女性だろう。
「蓮」
「あぁ」
華と蓮は視線を合わすことなく、お互いの意思を感じとると、通学路の先を、鋭い眼光で見据えた。
そう! 自分達はこれから、兄に課せられた使命を、無事に遂行しなくてはならない!!
ダダ───ッ!!!
瞬間、二人は駆けだした! 正直、傘は邪魔だが、そんなこと言っている場合ではない!
背後からは、女性たちが呼び止めるような声が聞こえたが、二人は知っているのだ。
あの呼びかけは、決して答えてはならない、"悪魔の声"だということに!!
双子は、今朝がた兄が話していた「見ない」「聞かない」「受け取らない」を無事遂行するため、全神経を集中して、部外者の立ち入りを禁じている中学校まで、一目散に走るのだった。
◇
◇
◇
「久しぶりだな、日本も」
飛行機からおりると、聞き慣れた日本語のアナウンスに、妙な懐かしさを感じた。
昨晩、仕事を終えたあと、男は、そのまま飛行機に乗り込み、この日本に帰ってきた。
時差のせいか、少しだけ気だるい身体を無理やり起こすと、スーツ姿に黒のコートを羽織った男は、空港構内から外に出た。
「ふぅ……」
一つ息をつけば、吐く息は自然と白くなる。だが、久しぶりに見た日本の空は、澄み渡るような青空で、男はそれを見て、柔らかく微笑んだ。
「さて……帰りますか、子供達のところに♪」
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