第14話 狭山さんと喫茶店
◇◇◇
夜七時を過ぎると、外の気温は一段と冷えこみだした。
道路沿い植えられた街路樹にはイルミネーションが咲き乱れ、空には、今にも雪が降り出しそうな程、厚い雲がかかっていた。
「あー、やっとおわったー!」
だが、そんな街の中を、一人の男が小走りで走りさる。
先程、やっとのことモデル事務所の仕事を終えた
「全く、クリスマスに残業とか、俺どんだけ不幸なんだよ!」
ちなみに、今年26歳になった狭山。クリスマスに仕事はもちろん、現在は彼女もいないため、一人寂しいクリスマスを過ごす予定である。
「ねぇ、あの店員さん、カッコよかったね!」
「?」
すると、狭山が、ケーキを予約していた喫茶店に着いた瞬間、中から出てきた女性たちとすれ違った。
満足そうに、話をしながら帰る女性たち。
ふと中を覗きみると、そこは、あと30分もすれば閉店時刻だというのに、未だに客でごった返していた。
(……全く、カップルなら、喫茶店じゃなくてホテル行けよ!)
店の状況に、思わず悪態づくが、リア充を僻んでも虚しくなるだ。狭山は、ケーキを受け取ったら、すぐに帰ろうと、そのまま店の中に入った。
カランカラン~♪
入口のベルが軽やかな音をたてると、財布から予約票をとりだし、レジへと向かう。
だが、その瞬間、狭山は目を見はった。
カウンターの中には、光り輝くような少年がいた。
そう、あの時の、あの少年が、受話器片手に、なにやら困り顔で対応しているではないか!?
「ですから、俺は今日だけの臨時で! いや、だから、次入る予定は金輪際ありません!」
しかも、よほど、しつこい客の相手をしているのか、あの日、狭山がスカウトに失敗した金髪の美少年が、顔に青筋を立てながら声を荒げていた。
だが、顔だけでなく、その抜群にいいスタイルのせいか、ウェイター服がやたらと似合うのだ!
(も……もしかして、この人だかりは!?)
はっ!と気づいて、狭山が店内を見回せば、そこは、カップルというよりは、女性客が多いような気がした。
そして、その女性達は、まるで宝石でもみるようなうっとりとした表情で、カウンターにいる少年をみつめていた。
(……スゲーな。でも、まさか、あんなイケメンが、クリスマスにバイトしてるなんて)
「お待たせ致しました」
すると、呆然と立ち尽くす狭山の前に、また別の店員が声をかけてきた。
赤毛の髪をした背の高い男性店員。
この店員も、なかなかのイケメン君だと思う。
「ご予約のお客様ですか?」
「はい。ケーキを予約してた狭山です」
「狭山様ですね。少々お待ちください」
狭山が予約票を手渡すと、店員はケーキの種類を確認したあと、一度奥へ引っ込むと、すぐにカウンターへと戻ってきた。
「ありがとうございました」
そして、あれよあれよとケーキを受け取った狭山は、いつのにか店の外に立つ。
「あの子、あの時の子だよね!? バイト? でも臨時って! ああああああああぁぁぁ、しまった、声かければよかったぁぁぁぁぁぁ、いやいやいや、俺は今、仕事中じゃない! おちつけ! 俺は今から帰って、ケーキを」
そう、一人でケーキを食べるのだ!
その瞬間、なにやら切ない気持ちになったが、とりあえず帰ろうと、狭山は自宅への道のりを歩き出した。
(帰ったらケーキ食べて、ドキュメンタリー映画でも見て、感動を胸に眠りにつこう)
そう、自分を慰めた狭山は、パーキングに停めてある自分の車を目指し、路地を進む。
だが、そこから暫く歩き、角を曲がった瞬間──
ドン──!?
「きゃっ!」
タイミング悪く、女の子とぶつかってしまった。
茶色がかった黒髪に、パッチリとした目が印象的な可愛らしい少女だった。
コートに手袋、そして赤いマフラーをして、この寒空の下、走ってきたのか、少女は狭山にぶつかった反動で小さく悲鳴をあげた。
「あ、ごめん、大丈夫!?」
ぶつかった拍子に倒れ込んでしまった少女に、狭山は慌てて手を差しのべる。だが
──パンッ!!
と、その手を、少年に叩かれた。
「すみません、大丈夫です」
と、狭山を威嚇する少年もまた、少女とよく似た「黒髪の男の子」だった。
「華、立てる?」
「うん……ゴメン、蓮」
蓮と呼ばれた少年が、少女に手を差し出すと、華と呼ばれた少女が、その手を取り、立ちあがる。
一瞬、恋人同士にも見えたが、よくみると二人とも顔立ちが似ており、なかなかに可愛らしい容姿をしていた。
(兄妹? いや、双子か? 男女の双子でモデルデビューとか話題性ありそうだな)
二人を見つめ、狭山は、顎に手を当てジッと考え込む。
「うん、磨けば光りそうな……」
「え?」
だが、何気なしに呟いたその言葉を聞いて、少年が不審者でも見るような目をむけた。
(うわ、なにいってんの俺!? 職業病、マジで空気よんでぇ!!)
常日頃からモデルになれそうな子を探している狭山。可愛い子、カッコイイ子をみると、ついスカウトすることを考えてしまう。
「あの、俺たち急いでるんで……っ」
すると、狭山を不振がったのか、少年は一礼だけすると、その場から立ち去ろうと、少女の手を引いた。
だが、それを見て狭山は
「ちょっと待って! 君たちいくつだ?! 子供がこんな時間にうろついてたら、危ないだろ!」
「……っ」
こんな暗い時間に、子供が二人だけで街中にいるなんてと、狭山が慌てて声をかける。
二人の姿は、明らかに未成年。
それも、高校生にしては、小柄な感じがしたので、まだ中学生だろう。
すると、触れられたくない内容だったのか、バツの悪そうに、顔を見合わせた二人は、再度、狭山に声をかけてきた。
「あの、ぶつかってしまって、すみませんでした。私たち兄を探していて……名前は"飛鳥"といって、金髪で髪が長くて、目が青い、ハーフみたいな、すっごく目立つ人なんですけど、見てませんか?」
「え?」
金髪で? 髪が長くて? 目が青い、ハーフみたいな、目立つ…………兄?
「あのさ、それって……」
狭山には、思い当たる人物が一人しかいなかった。
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