第12話 アクシデントと笑顔


「キャー!!」


 その音に、店内が騒然とする。


 中から聞こえたのは、ガラスが割れる音と、女の子の悲鳴。そして、どこかあわてふためく美里の声。


 その声を聞いて、隆臣が慌ててキッチンに向かうと、そこには、鍋が転がっていて、店員の女の子が座り込んでいるのが見えた。


 どうやら、注文の品をお客様の元に運ぶ際、誤ってお湯の入った鍋をひっくり返してしまったらしい。


「大丈夫か!」

「あ、すみません、私……っ」


 鍋をひっくり返し、更に店の皿まで割ってしまい、女の子が申し訳なさそうに眉を下げる。


 だが、腕に軽く熱湯を浴びてしまったの気付いたのか、隆臣は、女の子をシンクまで移動させると、水道の水を、直接、服の上から浴びせ始めた。


「店の物は気にしなくていいから。それより、早く病院にいったほうがいいな」


「え、でも、お店が!」


「お店のことは気にしなくていい。痕が残ったら大変だし」


「そうよ。親御さんには私が連絡するから、すぐに病院にいってらっしゃい。隆臣、あなたも、付き添ってあげて!」


「わかった。とりあえず、氷と──」


 キッチンから聞こえてくる、慌ただしい声。


 だが、美里に促され、隆臣が女の子を病院に連れていくことが決まったらしい。


 それを聞いて、飛鳥は一旦外に出ると、その後また中へ戻り、カウンターから中の様子を伺いみる。


 すると、そのタイミングで、隆臣が女の子が、一緒にキッチンからでてきた。


「飛鳥。俺、今から病院に行ってくる」


「うん。外、タクシー停めといたよ」


「おぉ、サンキュ」


 すると、さすが!と言わんばかりに、隆臣がお礼を言って、隆臣は女の子と共に店から出ていった。


「ちょっと、まだー?」


 だが、安心したも束の間。


 今の騒ぎの間に、注文のチャイムや会計待ちの人達が、わやわやと増え始めていることに気づいた。


「すみませーん、注文いいですか~」


「ケーキを、取りに来たんですけど……」


「ねぇ、さっきから呼んでるんだけど!」


 アクシデントが起きたタイミングで、忙しくなるのは、まーよくあることだが、ただでさえ、クリスマス・イブという、この忙しいタイミングで、同時に二人も店員が抜けてしまったことに、美里をはじめとした従業員達は、慌ててはじめていた。


「ちょっと、早くしてよ! 私、急いでるんだけど!」


 そして、レジの前では、会計待ちをしているのか、クセの強そうな女性客が一人、まだかまだかと、中にいる店員を急かしていた。


 飛鳥は、それをみると


「お姉さん」


「……!?」


 被っていたハットをとりさり、飛鳥は、苛立つ女性客に、にっこりと天使のような笑顔を浮かべた。


「順番に対応しますから、もう少しだけ、待っていていただけますか?」


「あっ……は、はぃ!」


 爽やかな笑顔で、それも、とてつもなく整った顔立ちをしたに声をかけられ、女性客は一変、顔を真っ赤にして黙り込んだ。


 その後、飛鳥は、カウンターから中へと入ると


「美里さーん、俺に何か手伝えることある?」


 着ていたコートを脱ぎ、軽く腕まくりをすると、飛鳥はにっこりと笑って、美里に、そう呼びかけたのだった。

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