第10話 プリンとケンカ


 ここ数日、双子たちの様子がおかしい。


「ちょっと、蓮! あんた、あたしのプリン食べたでしょ!」


「は? 俺は、ひとつしか食べてねーよ! まだ、残って」


「イチゴの方のこと! あれ、アタシのって言ったじゃん!」


「聞いてねーし!」


 まぁ、おかしいとは言っても、それはいつも通り、笑ったり、怒ったり、ケンカしたりを繰り返してはいるのだが……


「…………」


 そして、そんな中、飛鳥は、一人ダイニングテーブルに向かい、我関せずとコーヒーをすすっていた。


 冬休みに入り、三兄妹弟は一緒に家にいることが多くなった。


 もちろん、華と蓮は受験生のため、この冬休みは勉強尽くし。


 飛鳥にいたっては、バイトをしているわけでもないので、さながら双子の"専属家庭教師"のような感じだった。


 冬休みも始まってしまえば、あっという間で、気がつけば、今日はもう12月24日。


 そう、クリスマス・イブだ。


 リビングの隅にあるテレビを見れば、クリスマスの特番しかやっておらず、特段面白くもないバラエティ番組を呆然と見つめていた飛鳥は、双子が騒ぎだしたのをきっかけに、テレビの電源をオフにした。


 我が家は、今日も騒がしい。



 ──トゥルルルル


「……!」


 するとそこに、飛鳥のスマホが突然、音を奏でた。


 画面を確認すると、かけてきたのは友人の隆臣たかおみだったようで、飛鳥は、そそくさと電話に出る。


「もしもし、たかちゃん」


『飛鳥……お前…日……じに、ケ…と』


「え? なに?」


 何を言っているのか?

 聞き取りにくい電話先の音声に、飛鳥が眉をひそめる。だが、


「つーか、なんで、蓮は、いつもアタシのことバカにすんの!」


「バカにはしてないだろ!」


「してるよ! なんか態度が私を見下してる気がする! 私の方が先に生まれたのに!」


「双子に先も後もあるかよ! 大体、その子供っぽいとこ直さないなから、バカにされるんだろ!」


「ほら、やっぱりバカにしてんじゃん!!」


「あー……隆ちゃん、ちょっと待ってて」


 どうやら、この聞き取りにくさの原因が、双子のせいだと理解したらしい。


 飛鳥はにっこりと笑顔を浮かべて、双子の方に振り向くと


「おい、蓮華れんげ

「「!?」」


 瞬間、ドスの聞いた兄の声が響いて、双子の身体がピタリと止まる。


「今、


 そして、飛鳥が要件だけを伝えると、その兄の黒い笑顔をみて、双子は押し黙った。


 今日も兄は、変わらずに綺麗だ。

 だが、余計に恐ろしい!!


「あ……ごめんね、隆ちゃん」


 すると、双子が黙ったのを見て、飛鳥は再び、隆臣と会話を始めた。


 なんでも隆臣は、ケーキを取りに来る時間を確認するために、飛鳥に電話をかけてきたらしく


『俺、今日バイトなんだ。夕方からは人も増えるだろうから、取りに来るなら、早めにこい』


「あー、そっか、クリスマスだもんねぇ」


 視線を上げ、リビングの時計を確認すると、時刻は、お昼を過ぎ、もう1時をさしていた。


 隆臣の母が経営している喫茶店は、クリスマスにはケーキも販売する。なので、毎年ケーキを注文するのは、その喫茶店なのだ。


「うん、わかった。今からそっちいく」


『あぁ、頼むわ』


 会話を終え、スマホを切ると、飛鳥は一旦リビングから出て、自室からコートとマフラー、それに帽子を手にして、再びリビングに戻ってきた。


「俺、今からケーキ取りに行ってくるから、お前たちは、キッチンの茶碗片付けて、部屋の掃除してろ」


 にっこりと笑顔で。



 そして、更に低い声で念押しすれば、パタン──と扉が閉まると同時に、華と蓮は、ガクンと崩れ落ちた。


「「めちゃくちゃ怒ってる──!!?」」


 まさかプリン一つで、こんなことになろうとは!?


 そして、このあと、双子はめちゃくちゃ掃除をしたらしい。


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