第8話 プレゼントと疑惑
「あ、これ可愛い~」
放課後、学校から帰宅すると、少しだけおめかしをした華は、友人と一緒にショッピングモールを訪れていた。
お気に入りの雑貨屋さんに入ると、そこにはキラキラと輝くアクセサリーや、キュートなぬいぐるみなど、まさに女の子が喜びそうなアイテムが、ところ狭しと並んでいた。
「ねぇ、葉月はもう決まった?」
「決まったよ」
華の隣にいる少女に声をかければ、その少女は、明るく返事をする。
彼女の名は『
華の友人であり、よき理解者でもある彼女は、華と同じ高校を受ける受験生だった。
少し癖のあるショートヘアで、同級生からは「姉御」とあだ名がつけられるほど、明るく頼りがいがある女の子だ。
それ故に、たまに歯に衣を着せない発言をし、怖がられることもあるが、華はその飾らない彼女らしさをよく気に入っていた。
「今日はゴメンね、買い物に付き合わせちゃって」
「いいよ。私も買いたい物あったし! それより、華は決まったの?」
「う~ん」
「ていうか、お兄さんへのプレゼントを選ぶなら、こんなファンシーなお店じゃなくて、あっちの男性向けのお店の方がいいんじゃないの?」
葉月が、向かいの男性専門の店を指差し、問いかける。
そう、今朝がた兄弟に話した"プレゼント交換"とは実は口実で、華は来月訪れる兄の誕生日プレゼントを探すため、今日ここまでやってきた。
「ねぇ、葉月はお兄さんに、いつもなにプレゼントする?」
「うちはしないなー、せいぜい『おめでとう』言うくらい?」
「だよねー」
華も例にもれず、兄へのプレゼントなんて長らくしていなかった。
最後にしたのはいつだったか?
多分、小学校の時にした"手作り貯金箱"。あれ以来だ。
神木家は、誕生日やクリスマスは、いつもみんなでお祝いをするが、プレゼントを用意するという習慣は、いつしかなくなっていた。
時折、兄弟とショッピングに出掛けた際に、好みの服や、ほしい雑貨などがあったときには「誕生日プレゼント」と称して買ってもらうことはあるが、このようにプレゼントをあらかじめ用意する習慣はない。
だが、来月1月12日がくれば、兄は二十歳になる。
自分だって、いつまでも子供ではない。だからこそ、兄が成人する特別な日を祝して、プレゼントをしようと、おもったのだが……
「あーダメだー! 何がいいのか全然分かんない!!」
男性の趣味もだが、兄の趣味もよくわからない!
かといって、男性専門店に入れるのは、ちょっと勇気がいる。
「ねえ、これってスゴイ難題じゃない!? 飛鳥兄ぃって何が好きなの! 大学生って何を欲しかるの!? もう一周回って、貯金箱とかの方がいいの!?」
「貯金箱って、なにそれ! 絶対いらないから! ていうか、華が選んだものなら、なんでも喜んでくれるでしょ、あのお兄さんなら」
「うーん、そうかな~」
頭が、ショートしそうだ。
だが、確かに葉月の言う通りかもしれない。兄は、自分達から向けられた好意は、いつも素直に喜んでくれたから。
「貯金箱も、喜んでくれたし」
「いや、貯金箱はやめときなって! それより、誕生日もだけど、年末年始は、パパさん帰ってくるの?」
「あー、お父さん? どうだろ? まだなんの連絡もないし」
「そっかー。もしかしたら今年は、家族で過ごせる最後のクリスマスかもしれないのにねー」
「え? 最後?」
「だって、そうでしょ~、クリスマスは恋人のイベントだもん! 私らも、もうすぐ高校生だし、来年のクリスマスは、彼氏と過ごしてるかもしれないじゃん!」
「…………」
───カレシ?
考えもしなかった。だが、確かにクリスマスは恋人達のイベントだ。ならば、あり得ない話ではないのだ。
なにより、恋人ができれば、クリスマスは恋人と過ごしたくなるのが通説だろう。
兄だって、蓮だって、いつ、そんな日が来てもおかしくない。
むしろ、それが――当たり前。
(そ……そうだよね。いつまでも、家族でクリスマス過ごせるわけじゃないし……それに、蓮はともかく、飛鳥兄ぃなら、彼女を作ろうとおもえば、いくらでも)
──あれ?
だが、その瞬間、華はある疑問を抱く。
そう言えば、あの人気者でモテる兄が、今までクリスマスや誕生日に不在にしたことなど一度もなかった。
彼女どころか、友人と過ごすということもなく、必ず、記念日には兄が家にいて、父と共にケーキと温かい料理を用意してくれた。
(あれ……もしかして、飛鳥兄ぃが彼女を作らないのって)
「華?」
呆然と立ち尽くしていると、葉月が心配そうに声をかけてきて、華はそれを見て、パッと表情を明るくすると
「あ……うんん! ごめん。彼氏なんて考えてなかったから、ちょっとビックリしただけ!」
「あはは。まー今の私たちには、彼氏よりも受験だけどね~」
その後、葉月は『先に会計してくる』と選んでいたヘアアクセを手に、レジへと向かっていって、その姿を見送り、華は再び視線を落とすと、目の前にあったブルーのバレッタを手に取った。
(そういえば、飛鳥兄ぃと、今朝これでケンカしたっけ?)
手にしたバレッタは、兄によく似合いそうだと思った。だけど──
(そんなわけ、ないよね……?)
まさか、そんなこと、あの兄に限ってあり得ない。
いつか"大切な人"ができたら、きっとニコニコ笑いながら、あの家を出ていくに違いない。
華は、手にしたバレッタを手に取ると、祈るように、そっと目を閉じたのだった。
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