叙述トリックについての会話劇

亜未田久志

例えば


 学校の教室。

 隅の方で話し声がする。

「叙述トリックって知ってるか?」

「なんだいそりゃ」

「小説の技法、その一種さ」

「ほう、それで」

「つまりよ、例えば、男かと思ってた登場人物が実は女でしたー! なんてのを指すわけよ」

「あん? そんな事出来るのかよ?」

「それが出来るんだよ、まずはな、その登場人物を男口調にでもしてみるわけよ」

「ははぁ、なるほど?」

「んでだな、彼とか彼女とか地の文で呼ばずにおくわけよ、名前も男っぽくしといたほうがいいな、名指しする時は苗字呼びがいいんじゃないか」

「上手いな、そりゃ気付かんかもしれん、でもそんなん映像にしちまったらバレちまうんじゃねぇのかい?」

「あくまで文章のための技法なんだよ。それよりもだな、他にも例えば一人を――」


 そこで一人、話し声に向かってクラスメイトが言う。


「ねぇ君、何で一人で会話してるの?」


「とまあ、こんな風に一人を二人いるように見せたりとかな?」

「ねぇ、だから誰と喋ってるのー?」


 そりゃあ地の文がほとんどないなら叙述トリックなんて簡単だっていうお話。

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