第7話、アトランタ五輪は見ず『NOeL』が売れた話を聞き『クイックジャパン』のエヴァ特集を読んだ

【平成8年(1996年)8月の巻】


 平成に続く元号を持った時代で、劈頭を飾るイベントとして歴史に刻まれるのは、たぶん2020年の「東京オリンピック/パラリンピック」になるでしょう。昭和39年(1964年)以来となる日本での夏季オリンピックは、楽しみでもありまた費用や混雑の面で不安でもありと、さまざまな影響をすでに与え始めています。世界でもトップクラスのイベントですから、それも当然だと言えますが、平成8年(1996年)の8月も、実は夏季オリンピックが開催されていました。アトランタ五輪です。


 サッカーの日本代表がメキシコオリンピック以来の出場を果たし、あのブラジルを破って「マイアミの奇跡」と呼ばれる戦いをしたことで知られるオリンピックですが、不思議と日記に強い言及がありませんでした。終盤に入っていたこの8月も、言及はせいぜいがバスケットボールで優勝したという話と、サッカーの決勝でアルゼンチンを下してナイジェリアが優勝したという話くらい。淡泊なものです。


 バスケットボールは、マジック・ジョンソンやマイケル・ジョーダン、ラリー・バードといったレジェンド級が出場した前回のバルセロナオリンピックからメンバーが替わっていましたが、チャールズ・バークレーやスコッティ・ピッペン、シャキール・オニールとアンファニー・ハーダウェイのオーランド・マジック勢、そしてカール・マローンとジョン・ストックトンというユタ・ジャズの黄金コンビが出場していて賑やかでした。それでも、戦いぶりも含めて凄まじかったバルセロナのドリームチームに印象で劣り、そして『SLUM DANK』が3月で終わって空前のバスケットボールブームにも翳りが出ていたのか、気持として盛り上がっていないようでした。サッカーは元々がワールドカップを最高峰としてオリンピックは若手の修練の場。注目度が違います。


 あとは時差の関係で見る機会も少なかったのでしょう。個人としてスポーツへの興味を減退させていた時期だったかもしれません。一方で読書には熱心だったようで、『人格転移の殺人』が気に入った西澤保彦の『彼女が死んだ夜』を読み、『晴明。』の加門七海による学園ホラーの単行本『蠱(こ)』を読みました。これについては八木美穂子という人の表紙絵と口絵を素晴らしいと讃えています。調べたら、今も活躍をしていてチェスタトンの「ブラウン神父」シリーズ、トレメイン「修道女フィデルマ」シリーズの装画を手がけている人とか。そう聞くと、『蠱(こ)』の表紙絵がどのようなものだったかが気になります。


 村山由佳が千葉の鴨川に在住し始めた頃に書いたエッセイ『海風通信 カモガワ開拓日記』を読んだり、ヨナス・リーの『漁師とドラウグ』を読んだりとジャンルもバラバラで傾向も無茶苦茶。この頃は気になったらとにかく読んで見る、ということをやっていたようです。その方が出会いも多くあって視野も広がる気はしますが、ライトノベルやSFを主に読まなくてはならない状況にあると、ついそちらにばかり目が向いてしまいます。リストラによって毎日が日曜日となったことでたっぷり出来る時間ですから、この頃のようにジャンルを広げて読んでいければ何か今後に繋がる糧になる気もします。気のせいでしょうけれど。


 内田美奈子による『BOOM TOWN 第4巻』が出たのもこの月でした。ネット内の仮想都市にダイブして、そこで人間がアバターを得て自由に動き回りながらハッキングを仕掛けてくる敵と戦ったり、コンピュータによって操作されているノンプレイヤーキャラクター、『BOOM TOWN』ではxyz・Pと呼ばれている存在が意思を持ったかのごとく振る舞うのを助けたりする展開に、いつか来るだろうネットの中に自由に入り込める時代を感じさせられました。スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』が見せてくれたビジョンにあまり驚かなかったのも、この『BOOM TOWN』を既に読んでいたからでした。フィクションでは今、『ソードアート・オンライン』が登場してネット世界を見せる代表例として世界的に大ヒットしていますが、現実に楽しめるようになのはまだ先のようです。


 仕事では、NBCユニバーサル・エンターテインメントジャパンに合流した形となっているパイオニアLDCへと出向いて、恋愛シミュレーションゲームの『NOeL NOT DiGITAL』について話を聞いたという記述があります。リアルタイムで進行する時間軸の上で女の子と会話をしながら進んでいくという、画期的というか冒険的なシステムを持ったゲームで、7月に発売されて間もない時期でありながら、人気が出すぎてプレスが間に合わないといった話を担当部長から聞きました。誰だったのかな。後にアニメーションと並行して開発し、リリースした『serial experiments lain』のゲームと並ぶパイオニアLDCを代表するゲームタイトル。今もプレイできるのでしょうか。気になります。


 この日は、パイオニアLDCがあった恵比寿から江戸川橋へと回ってキングレコードに寄って、「スターチャイルド」というレーベルの話も聞いたようです。大月俊倫プロデューサーではなく部長でしたか、担当役員でしたでしょうか。この年、昭和56年(1981年)の誕生から15周年を迎えていた「スターチャイルド」でしたが、『機動戦士ガンダム』のアルバムがヒットしたことで関心を抱いた会社が、アニメーションで頑張ろうと作ったレーベルでありながら、昭和の末期はやや停滞気味だったそうです。


 それが平成7年(1995年)の『新世紀エヴァンゲリオン』の超絶的大ヒットで1つの頂点を究めた感じでした。だったら後は墜ちるだけ? といった疑問も呈していましたが、そうはならずに最近まで、しっかりと命脈を保っていたのは知られているところです。今はレーベルとして消滅してしまいましたが、再生すれば鳴るジングルと星2つのマークは、永遠に記憶に焼き付いています。


 『クイックジャパン』がこの頃からアニメに力を入れるようになって、第9号で『新世紀エヴァンゲリオン』の特集を組んだようです。メインはジャーナリストの大泉実成による庵野秀明監督へのインタビュー。「さるマン」の竹熊健太郎も交えてた座談会になっていて、「そのボリューム、その中身の濃さは過去幾つかの雑誌に発表された『庵野秀明インタビュー』をはるかに凌ぐ」といった感想を抱きました。後に『スキゾ・エヴァンゲリオン』『パラノ・エヴァンゲリオン』へと繋がる企画が、ここから始まったのでした。


 平成8年(1996年)8月のダイジェストでした。

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