裏カジノをぶっつぶせ―6

「──というわけで」俺は再びオフィスを訪れ、ムヨンの前で頭を下げた。「二百万ほど貸してください」

 そんな俺を、ムヨンが冷めた目で睨んでくる。「まさか、また賭場の肥やしにする気か?」

「そうじゃない、もう奴の店には行かない」

 裏カジノで荒稼ぎ作戦はとっくにやめている。今度は詐欺師として奴を倒す。俺は事情を説明した。

 今回の手口は、典型的な投資詐欺のひとつ。土井は裏社会の末端にいる人間だ。悪事が金になることをよく知っている。土井が自ら俺に接触してきた時点で、計画はほぼ成功だ。あとは奴に得をさせ、俺が持ち掛けた儲け話が本物であることを信じ込ませるのみ。喉から手が出るほど金を欲しがっている土井のことだ。儲かるとわかれば、喜んで大金を差し出してくるだろう。

 しかし、困ったことに、今の俺にはカモを信じ込ませるだけの金がない。しやくではあるが、こいつの財力を頼らざるを得なかった。

「奴をめるために、もっと金が必要なんだよ」俺は両手を合わせ、懇願する。「お願いします! ヨン様! どうか! この通り!」

 ムヨンは椅子に踏ん反り返り、ずっと黙っている。

 しばらく考え、

「いいだろう」

 と、承諾した。

 この男は何だかんだ言っても人の頼みを聞かずにはいられない質なのだ。おひとしだと思うが、こいつのそういう金持ちらしからぬところは嫌いじゃない。

「二百万、貸してやる。ただし、利子はイチゴだ」

「イチゴ?」

「一日五割」

「闇金が仏に見えるよ」

 契約書まで書かされた。お人好しだが、しっかりしてやがる。

 何はともあれ、これで軍資金は工面できた。あとは最後の仕上げだ。



 後日、俺は土井に連絡を入れた。どこかで会えないかと誘うと、開店前の『エクス』に呼び出された。

 客のいないカジノ店の中で、椅子に腰を下ろし、二百万の札束を緑色のテーブルの上に置く。

「今回は、百万円が倍になりました」と、俺は土井に報告した。

 もちろん、株で儲けたわけではない。ただムヨンに借金しただけだ。

 だが、そうとは知らない土井の目は嬉しそうに輝いている。「二百万ですか、すごいですね」

「では、ここから私の元手と手数料をお引きして、土井さんには八十万を差し上げます」

 ノーリスクで八十万の儲け。土井は大喜びだった。「ありがとうございます!」

「ね? 確実に儲けられることがわかったでしょう?」

 これでカモは完全に落ちた。俺がにっこりと微笑むと、

「ええ、さっそく参加させていただきたい」と、土井は前のめりで言った。ずいぶんと乗り気になっている。「三千万を稼ぐには、どれくらい必要でしょうか?」

 俺は顎に手を当て、真剣なまなしで答えた。「ちょうど、かなり株価ががりそうな銘柄があります。私の見込みでは、二週間で四倍にはなるでしょうね」

「よ、四倍……」

「滅多にないチャンスです。大きく儲けるなら、ここしかないかと」

「では、これを」

 と言って、土井は店の金庫の中から札束をもってきた。全部で一千万。小さなアタッシュケースに詰め、俺に渡す。

「お預かりします」ケースを受け取り、俺は頭を下げた。「それでは、また近々連絡いたしますね」

 俺は土井と別れ、カジノ店を出た。笑いが堪えきれない。一千万。なかなかの大金だ。ケースの重みを嚙みしめながら階段をのぼり、俺は引き寄せられるように娘娘倶楽部に足を踏み入れた。


【次回更新は、2019年8月10日(土)予定!】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る