裏カジノをぶっつぶせ―4
「──結論から言えば、次のカモは俺だった」
一夜明けて、ムヨンのマンションを訪れた俺は、賭場での出来事を包み隠さず報告した。
俺の言葉を聞くや否や、ムヨンはわざとらしく大きなため息をついた。デスクに片肘をつき、掌で頭を抱えている。「……お前にギャンブルの才能がないことは、よくわかった」
「いや待って、ちょっと説明させて」
「そうか、では説明してもらおうか。お前がいかにして、一晩で百万を使い果たしたのかを」
たしかに、俺は全額スッた。ムヨンに借りた百万円は、すべて裏カジノに巻き上げられてしまった。
つまるところ、ヤスさんの二の舞だ。仇を取るどころの話じゃない。
「あの店はやっぱりおかしい。絶対イカサマだ」
「負け惜しみとは見苦しいな」
「違う違う、本当だって」あからさまに失望しているムヨンを前に、俺は慌てて弁解した。「最初は俺も大勝ちしてたんだよ。そしたら、途中からようすが変わってきたんだ。俺がいい手のときは、相手が早々に勝負を降りるようになった。あの店長には、まるで俺の手札が読めているようだった」
だが、隠しカメラの類は見当たらなかった。勝負を始める前に、俺は店の周囲やテーブルを念入りに確認した。ゲームに興じながらも、カードに細工がしていないかどうかは常に気を配っていた。他の客のやり取りにもちゃんと注意を払っていた。それにもかかわらず、特に怪しいところは見当たらなかった。
考えられるとすれば、ひとつだけ。
「おそらく、店にいたピアニストの女はグルだ」
「ピアニスト?」
「ああ。あの女は俺の手元が見える位置でピアノを弾いていた。ジャズの演奏を利用して、俺の手札を店長に知らせてたんだ」
という俺の名推理に、ムヨンはますます呆れている。「そんな馬鹿な話があるわけないだろう」
「あるんだって!」俺はムキになって言い返した。「昔はバイオリンを弾いて仲間に合図を送った詐欺師だっていたんだから! ジェームズ・アシュビーっていうアメリカ人で──」
「そんなことはどうでもいい」と、ムヨンは吐き捨てる。「問題は、お前が俺の百万を一晩で水の泡にしたことだ」
「……いやまあ、そうだね」
倍にして返してやる、などと豪語してしまったが、まさか一円も返せない状況に陥るとは思ってもみなかった。これはまずい。
「さて、返済計画について話し合おうじゃないか」
「心配すんな、そのうち返すよ」自信満々に答える。「餌は
「餌?」
「ああ。ここまでは想定の範囲内だ。ちゃんとプランBも用意してある」
昨夜、ポーカーに全額つぎ込み、チップがなくなったところで、俺は勝負から抜けた。だが、負け犬のような顔は一切見せなかった。穏やかな笑みを浮かべ、『今夜は楽しませていただきました』と店長に告げた。
その後、土井は俺を店の外まで見送った。
『こちらこそ、お会いできてよかった。ぜひまたいらしてください』
『ええ、もちろん。今度はもっと軍資金を用意してきますので』
ビルの外には黒塗りの車が停まっていた。風俗街に似つかわしくないピカピカの高級車。ノブが後部座席のドアを開け、俺が乗り込むのを待っている。
俺は土井に自分の名刺を渡した。【投資コンサルタント 中野卓】と書かれた名刺はもちろん偽物。だが、ベンツと運転手は本物だ。
「
さらに俺は、帰り際に『投資に興味がありましたら、ご相談ください。損はさせませんよ』と一言添えておいた。
百万円くらい失っても痛くも痒くもないフリを装い、これ見よがしに運転手付きのベンツを見せつけたのは、中野卓という投資コンサルタントがずいぶんと稼いでいることを土井に信じ込ませるためだ。
「金持ちを装うことが、餌になるのか?」
「そう。土井は今、金に飢えてるからな」
土井については、予め調べていた。なんでも最近、奴はかなり金に困っているらしい。金策に
「金を稼ぐ方法をちらつかせれば、奴は必ず食いつく」手ごたえを感じながら、俺はにやりと笑った。
【次回更新は2019年8月4日(日)予定!】
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