第2話 ピンクの悪魔
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
陽光差し込む、素晴らしい昼下がり。
とある森の中。
多分、異世界。いや、絶っっ対に異世界!
なぜ俺が障害物競走よろしく、全力で樹々の間を縫い駆けているのかと言えば、まずは今よりほんのちょっとだけ前に起きた出来事から説明せねばなるまい。
事の顛末は俺が目を覚ました所から始まる。
まぁ、聞いてくれよ。
☆ ☆ ☆
「んぁっ…?」
瞼を貫く暖かい光。
肌を撫でる風と、歌うような小鳥たちの囀りをバックコーラスに、俺は目を覚ました。
上体を起こす。続いて、大きな欠伸を一つ。
どうにも頭がシャッキリとしない。
俺はなんでこんな所で寝ていたんだっけ?
寝ぼけ眼を擦りながら、辺りを見回してみた。
どうやら森の中のようだ。少しばかり拓けた場所で倒れていたらしい。
立ち上がってから大きく伸びをする。
身体中の骨という骨がバキバキと悲鳴を上げた気がするが、いや、言い過ぎか。
なんにせよ、長いこと眠りこけていたみたいだ。
はて。
俺はいつから就寝に屋根を必要としないワイルドな男になったのか。
なんて馬鹿な考えが脳裏をよぎった次の瞬間に。
「あぁ、思い出した」
フォルトゥーナの直ぐにでも泣いてしまいそうな情けない顔が浮かび、思わず笑いそうになる。
そうか、異世界に来たんだな、俺。
異世界……本当に異世界?
いかんせん判断材料が少なすぎる。
なにせ周りが木しかないものだから、ともすればここが北海道の何処ぞの山奥だと言われても俺は信じちゃうぜ。
そのうち「ドッキリでーした☆」なーんて看板ぶら下げた人がでてきたりしてな。
そんな、大して本気で思ってもいない妄想をしながら、俺は持ち物や服装の確認をしてみた。
ひょっとしたら神さまが何か餞別でもくれてやしないかと期待しての事だったのだけれど……
結論から言うと変化している部分が一つ。
右手の甲をご覧あれ。
何やら怪しげな紋様が浮かんでいるではないか!
うーん、これは何と表現すればいいんだろうな。
槍?うん、なんか槍っぽいぞ。
その背景に葉っぱが4枚みたいな、なんか、そんな感じ。
すまん、俺の語彙じゃこれが限界だ。後は各々、想像でカバーしてくれ。
謎のタトゥーの出現以外に変わった所は見当たらない。
所持品は元々無かったし、服装もカーキ色のフード付きパーカーに白シャツ、黒いボトムス。
フォルトゥーナのプライベート空間にいた時とおんなじだ。
さて、身辺調査もそこそこに、いよいよ森の散策へ移ろうと思う次第である。
出来れば早いとこ人間と出会いたいもんだ。
こちら側の勝手はまだ分からないけど、なにも見ず知らずの人間と見たら、直ぐさま強襲してくるような蛮族共ばかりじゃあるまいて。差し当たっては、近くの街まで案内して頂ければ万々歳としておこう。
樹々の間をひた歩く。森の端へと向かえているのか、果たして奥へ迷い込んでしまっているのかも定まらない。
ただ、一直線へ進む。
後に語る。
この時の俺は、勘のない土地にひとり放り出されて、内心寂しくて、不安でしょうがなかったのだ。恥ずかしいから皆には秘密だけどな。
兎は寂しいと死ぬというのは只の俗説らしいが、それでもきっと俺の前世は兎だったんだろう。
──だとしても、お前は未来永劫、仲間だと俺は認めない。
「……。」
「ぱうっ」
それはそれはドデカくて丸々とした、ピンク色の兎さんが現れた。
うーむ、口元の赤い模様も実にラブリィ。
それまさか血じゃないだろうな。
「魔物さん、デスカ?」
「……。」
……………。
「ばるるるるるっ!!」
死んだわコレ。
☆ ☆ ☆
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