背徳のスポットライト
三ヵ路ユーリ
俺の趣味は、全裸だ。
それは、入念な準備と下調べを行った上で決行する。
ほどよく人が少ない片田舎、時間帯による通行量、監視カメラの位置。
最新鋭ドローンの空撮と人工知能による解析で、リスクの低い露出ルートを弾き出す。
決行は、三ヶ月に一度。
服装は、全裸にフルフェイスメット。
──もはや、服装と呼んでいいのか定かではないが。
場所を変え、ターゲットを変え、あらゆる対策を練り、俺はまだ一度も捕まったことがない。
「キャアアァァァッッ!?! 変態ッッ!!」
──ああ、これだ。ゾクゾクする。
ある日、俺の前に神が降臨した。
全裸を司る神だ。
「お前の露出は素晴らしい──。異能を授けよう。全裸の異能を」
俺の身体は眩い光に包まれた。
俺は、超人になった。
圧倒的な身体能力により、首から下が全裸である限り、その走力は音速を超える。
圧縮された筋肉のうねりから繰り出される跳躍は、高層ビルさえも跨ぐように飛び越える。
首から下が、全裸である限り。
その能力によって、俺は全国を飛び回った。
全裸の限りを尽くした。
「いやァ!露出狂!」
「変態!」
「ヒィィ!来ないで!」
この言葉を聞く為だけに、俺の人生はある。
──そう思っていた。
その日。露出した俺に対して、こう言った女がいた。
「──あ、これバズるわ」
彼女は若い学生のようだった。
冷静にスマホを取り出して、俺の全裸を録画し始めた。
と──撮っている!?
やられた。
監視カメラの位置は完璧に把握していても、スマホのカメラはノー対策だ。
終わった……。
──俺は、踊った。もう、どうにでもなれ。
全裸のまま、踊った。ペチンペチンと踊った。
「うひゃひゃ、おじさん、面白ぇな。それじゃ、あたし帰るから」
俺がひとしきり踊った後、彼女はそう言って何事もなかったようにどこかへ消えた。
──助かっ、た?
放心状態のまま、帰路に着く。
なんとなしにウェブを眺めると、目に飛び込んできたのは衝撃映像だった。
動画タイトル──"全裸の人いた"
「動きキレッキレで草」
「てか筋肉すごくね?」
「ここまで行くと逆にカッコイイ」
「彼が英雄か」
彼女の撮った動画がSNSで拡散され、とんでもない再生回数を叩き出していた。
運命か、奇跡か。俺の肝心の部分は手や足の動きで絶妙にカバーされ、映っていない。
「なるほど新しい芸術か」
「これは歴史に残る世紀の映像だ」
「弟子入りしたい……」
動画に付いたコメントは、賞賛のものばかりだった。
──最高に、ゾクゾクした。
これだ。俺が求めていたのは。
欲していたのは、全裸になることではなく──承認欲求だったのだ。
それ以来、俺は率先して人前での露出を繰り返した。
無数のスマホカメラが、俺を追う。
快感だ。
全裸の神から与えられた超常の力により音速で移動し、ビルを飛び越え。
捕まることはなかった。
その度に、SNSが湧いた。全国ニュースにも流れた。
──素晴らしい、最高にゾクゾクする!!
俺は世界的に有名な謎の全裸マンとして、一世を風靡した。
トレードマークは、全裸にフルフェイスメット。
新聞の一面トップまで飾った。
これだ──これだ、これだ!
かつてなく、承認欲求が満たされた。
最高の気分だ。もっと俺を──讃えてくれ!
──SNSで、動画にコメントをつけた。
「実は俺が全裸マンです。これが証拠だ」
フルフェイスメットの写真と共に。
「で、でたーー!!歴史に残る変態!」
「神降臨!神降臨!」
「サインください!!」
最の──高だ──。
俺は、神だ。
後日、コメントを書いたことでサイバー警察から特定され、彼はあっけなく逮捕された。
……露出は、犯罪です。
背徳のスポットライト 三ヵ路ユーリ @yuri_kgm
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