シンシアの隠れた望み
※第十章ロルガシュタットと第十一章ラグハングルの間のお話です。
私は、きれいなものとかわいいものが好き。私の耳飾りについている宝石は『龍の息吹』の異名を持つ、世界で最もきれいな、赤い宝石。私の大好きな宝物。これさえあれば、他には何もいらないと思っていたこともあった。
でも私は今、もう一つ……欲しくてたまらないのに絶対手に入れられない、かわいいものがある。それは……
「はいコッパ、あーんして」
「あーん」
マナのスプーンが、コッパの口に入る。砂糖とシナモンで煮込んだリンゴだ。
「どう?」
マナがそう聞くと「うーん」顔をしかめるコッパ。
「ちょっと甘すぎるな。オイラはやっぱり生がいい」
「生? でも、このミュノシャ特産のリンゴは、結構酸っぱいよ?」
そう言ってマナは一つ取り出して見せる。「あっ!」とコッパ。
「くれくれ! そのあまったやつオイラにくれ!」
手に取り、一口シャクリとかじる。「んー!」ととろける顔。
「うまいなー、リンゴは生が一番だ」
柔らかそうなほっぺは、リンゴでいっぱい。もぐもぐ口を動かして、美味しそうにリンゴを食べるコッパ。
かわいい。
私はこんな風に、かわいいコッパを無言で傍らから眺めて、一人でかわいいかわいい思ってるだけ。
*
リズが、手に持って使う小さな扇風機を持ってコッパに近付いてきた。
「コッパ、これ知ってる?」
そう言うと、扇風機のスイッチを入れ、自分の口元に。
「あ~~~」
扇風機の羽で声が震えるアレ。リズは楽しそうに「ほら!」とコッパに差し出した。コッパもマネしようと口を開ける。
すると、コッパの柔らかい体は扇風機の風が口から入り込んだことによって、ぶわんと風船のように膨らんだ。
「あっはははは!」
嬉しそうに笑うリズ。扇風機をいじって風を強くすると、コッパの体はさらに膨らんだ。
「あ~~~」
かわいい……かわいいかわいい。
触ってみたい……。
私はマナとリズがとても羨ましい。私もコッパと仲良しになりたい。そのためには、こんな風に自分一人でかわいいかわいい思ってるだけじゃダメ。一緒にお喋りしたり、遊んだりしなきゃ。
でも、いつも無口ですましている私。いきなり遊ぶのは私にとってハードルが高い。「どうしたんだ? あいつ」なんてみんなに思われたら恥ずかしい。
話しかけるにしても、普段話しかけない私がいきなり話題もなく声をかけたら、やっぱり「どうしたんだ?」って思われる。
それに、もう一つのハードルは、マナとリズ。いつもどちらか片方が、コッパと一緒にいる。そこで私がコッパに話しかけて「こいつ、コッパと仲良くなりたいんだ」ってバレたら、それも恥ずかしい。
どうしよう……
*
夜、パンサーで眠っていた私は、ゴソゴソという物音で目を覚ました。目を開いて、音のした方を見る。
リンゴがたくさん入っている麻袋が、もごもご動いている。口がパラリと開き、出てきたのはリンゴを手に持ったコッパ。
私はあたりをサッと見渡した。リズもマナも眠っている。邪魔者はいない。またとないチャンス!
『私も一緒に食べていい?』うん。そんな感じで話しかけよう。で、二人でお話しながらリンゴを食べる。これだ。
マナやリズを起こさないよう、静かにコッパに歩み寄り、静かに声をかける。
「……コッパ」
「ん? シンシアか」
ああ……コッパと二人だけでお話しできる……もう、一人でかわいいかわいい思ってるだけの日々は終わる! さあ、言うんだ。『私も一緒に食べても……
「体に触ってみてもいい?」
しまった。欲望が先走り、思わず口からそんな言葉が。
「オイラの体に? 別にいいぞ」
失敗は失敗だけど、これはこれで逃しがたいチャンス。私は素直に指を持って行き、コッパの背中に触った。むにゅっと、指が吸い込まれるような、でも押し返されるような、不思議な感覚。
コッパは、私の手を取り、私の指を自分のほっぺに押し当てた。
「ほれほれ」
むにゅむにゅっと、私の指がコッパのほっぺに……
…………
かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわ
おしまい
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