第八話 召喚士の研究記録
レインボードラゴンがいなくなっていてそのかわりに可愛いリスみたいな小動物がいるだけだった。
何が起こった? ちょっと脳内を整理しよう。僕はレインボードラゴンとの死闘を繰り広げていた。レインボードラゴンが暴風を放って僕が死を覚悟したとき、突然鳴き声が聞こえて、目の前が真っ白になって、気がついたらレインボードラゴンはいなくなっていて今目の前にはりすみたいな小動物がいる(今ここ)。
「きゅう?」
「ああ、ありがとう」ナデナデ
「きゅー♪」
なついてくれてるようだし見る限りは害はないように見える。さっき守ってくれたのもきっとこの子だろう。
しかし、この子はなんだろう?リスみたいに小さくてかわいい小動物で済ませられるような存在ではないだろう。あのレインボードラゴンの攻撃を受けて僕が無傷でいられるのはこの子が何かをしたからだ。そうじゃないと今僕がこうやって無傷で立っていられることのつじつまが合わないからだ。
見た目は白くてルビーのようにきれいな赤い瞳、おでこには緑色の宝石のようなものがついていてどう見てもただの動物じゃないし魔物の類いでもないだろう(友好的な魔物なのかもしれないけど)。
とりあえず宝箱を開けてみようか、なにかこの子のことがわかるかもしれないし。まあ、宝箱といえばアイテムとか武器とかが入っているのが定番だが。
そして、宝箱を開けた。
中に入っていたものは一冊の本と指輪だった。
ピラッ
「これは、……研究記録?」
召喚士ユーリ・M・ローナの研究記録
私は召喚士ユーリ。この世界は私の光。とてもいい世界で優しい人がたくさんいて、このまま私の光であり続けてほしい世界。
でも、それを壊そうとしている人達がいる。とんでもない力を持っていてこの世界を壊そうとしたり、自分のものにしようとする人がいる。
その人達はきっと私と同じ『転生者』なんだと思うの。きっとこれを読んでいるあなたは私と同じ『転生者』だと思うの。そんな気がする。
空白の中の文字が読めるならあなたは私と同じ存在『別の世界からきた転生者』ということ。私がそう設定したから。私の能力は“隠す能力”、特定の人物にしか読めないようにすることもできる。
こんなことをする理由は『転生者であることを知られてはいけないから。だって、この世界では転生者は嫌われものだから。この世界に転生者という言葉はなくても別の世界から来た人がいることは知られているの。でもね、その別の世界から来たっていう人はこの世界を壊そうとしている人達のことだとみんな思ってるから知られたらどんなことをされるかわからない。もちろん転生者は悪い人ばかりじゃない。でも、その悪い人達がこの世界で暴れて別世界の人間だと知られたから、そんなイメージがついちゃったんだ。悪い人達もとんでもない力を持っている。それは、他の転生者を簡単に殺せるレベルの力の人間もいる。だから、あなたが優しくて強い転生者なら、彼らを倒して欲しいの』
というわけで、これから研究の記録をここに記す。
一日目
まず研究内容としては前提としてこの世界の異世界の悪者を対等に、最高倒せるような召喚獣を作ること。そうなれば、自然と造り出すのは神獣、またはそれ以上のなにかということになる。
召喚獣をつくるのもかなりの才能と魔力、努力が必要となる。そのため、神獣をつくるのは不可能とされてきた。
でも、わたしはそれを崩すために研究しようと思う。これを崩して神獣を造り出すことによって、この世界で恐れられている者達を倒すことができると考えたから。
まず、最初にやるべきは召喚獣を造るための勉強。勉強くらい先にやれっていう話だけど、召喚獣を造ること自体困難で成功した例がとてつもなく少なくて成功した人がつくる資料をひとつ手に入れるだけでもかなりの苦労が必要。
本の町 ボックの町の図書館でも成功した人の資料はなく、実際にその人の家、研究施設等を訪れなければならない。訪れても手に入るとは限らないしね。
二日目
最初に着いたのはタクシャカ・アパラーラがいたと言われるカドゥルーの村。タクシャカは血精霊(蛇精霊) ナーガを造り出したと言われている。カドゥルーの村を襲っていた魔物達はナーガを恐れそれ以来カドゥルーの村に近づかないという。
ナーガは高位の召喚獣だ。まず精霊と呼ばれるのは高位の存在だけ。そのほとんどは完全な人化ができる。
人化とは、その名の通り人の姿になれること。これが完全にできる者は人の姿で話すこともできるらしい。
高位の存在でなくても人化はできるが人間の言葉を話すのはなかなかいない。そんなものを造り出すことができた人のナーガを造り出すための方法を調べられればかなり進めるだろう。
精霊を造り出すこと自体は難しくはないように感じる。召喚獣に人としての知識と魔力を与えるだけ。だけといっても正しい手段じゃないといけないし誰でもできるというものではないが……。確率は低いがうまくやれば精霊となる。
精霊の姿でも強さがあって強い精霊は大人、弱い方の精霊は子供の姿に人化するらしい。例外はあるらしいけどね。タクシャカは召喚獣を造り出すのと精霊の召喚を両方成功させたということだ。これは奇跡と言ってもいいことなんだって!召喚獣の召喚を成功させるのにもかなりの才能と努力がいるのさらに精霊にすることにも成功させたのだから。精霊の召喚は思ったよりも難しかったみたい。
そしてこの村を調べた。だがなにも見つからなかった。タクシャカが住んでいた場所でなんか感じたが、なにもなかった。地下もなかったし隠し部屋らしきものもなかった。
どういうことだろう?これほどの精霊を創り出せたならそれなりに資料として残してあるはずなのに。召喚士自体あまりこの世界には存在せずこういう凄いことを成し遂げたら記録に残すはずなのに。なぜか一つも見つからなかった。
『というかナーガって前の世界でそんな名前の蛇がいた気がするんだよね。もしかしてタクシャカ・アパラーラはわたしと同じ異世界の、もしかしたら同じ日本に住んでいた人物なのかもしれない』
三日目
今日来たのはリト王国。リト王国は色々な研究がされている国。魔石やモンスターはもちろん、召喚獣や能力についても研究されている。ここの城の中には召喚獣 アレキサンダーを創った研究者がいるらしい。今度は話を聞くことができた。資料ももらえた。やっぱり召喚獣を創るのはかなりの才能と努力がいるらしい。資料を読むのは後にして最後にひとつにまとめることにしようかな。
四日目
今日来た場所は召喚の聖地 サモン。ここは召喚獣達が一番安らげる場所。そして一番魔力が溢れる場所。この世界のかなりの召喚士や魔法使いはここから出ている。ここの図書館には召喚に関することや魔導書などが多い。ここに召喚獣を創るのに役立つ本があるかもしれない。
予想通りいくつか召喚獣を造る本があった。実際に成功させた人の書いたものはほぼないだろうからデマの可能性もあるけど、調べてみないことには始まらない。
(ここから何枚か破れている)
七日目
わたしが行ったのは魔喚城。ここは魔王達の拠点のひとつ。ここでおもに魔物を増やしてるみたい。
目的はここの主の資料。ここの主も召喚獣を創ることに成功させた一人で、良くない方法で創ったみたい。
完全なものを創るには間違った使いかたも知らないといけないから。けど、資料を手に入れることはできたけど右目と左腕がダメになっちゃた。やっぱり召喚士ひとりで入るのは無茶だったかな。
八日目
ここで資料の内容をまとめよう。
召喚獣を創るには、まず大量の魔力。研究者のひとも3人の魔力を合わせて造ったっていってた。
次に魔方陣。召喚獣のオリジナルを創るなら魔方陣もオリジナルになる。魔方陣によって召喚獣の強さとかがいろいろかわっていく。
最後に心。創るひとの性格や魔力、何を思って造るかによって成功するかしないか。そしてできたときの召喚獣の能力や性格が決まる。
九日目
何回資料にあったことを試しても造れる気配はない。なんでだろう? 召喚獣はこれで創れるはずなのに。あんまり時間がないからわたしが生きてる間に完成させたいな。
十日目
神獣を創るにはやっぱり普通のやりかたじゃダメみたい。どうすればできるんだろう?
十二日目
できた!ついに神獣を創ることができた。名前はカーバンクル。
名前の由来はおでこの宝石と小動物みたいな可愛らしさがまさにそれだから。創る方法はわたしの体の一部を使って創った。
でも、悪い方法とは違う。わたしは体の一部を代償として使ったんじゃなくてわたしの大切なものを神獣として具現化させたの。
だから、この子はひとつの生き物でありわたしの体の一部と言ってもいい。でも、創る人の心が大切っていうのは正解だった。代償としてじゃなくて願いとして、もう命があとわずかなわたしのかわりにもっと世界をみて欲しいっていう願いとこの世界の全てを救いたい、この世界の人達に幸せになって欲しいって願った。
おかげでこんなに強くてかわいくて優しい子が創れた。わたしの全てを差し出すつもりでいたのにもう使えない右目と左腕しか失わなかった。
死の呪いをかけられているからもう一週間も生きてられないと思う。あなたが優しい人ならカーバンクルを連れていってあげて。その子はきっとあなたの役に立つ。だってわたしが創った神獣だもん。『それにわたしのことも知っていてほしい。わたしの本当のなまえは 水月みつき 由梨ゆり。わたしの名前があなたの心に残っていればわたしが生きていた意味が少しはあると思えるから。』
カーバンクル
能力
魔術反射
治癒能力
視覚共有
解析眼
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