狩人とオオカミ
六花 水生
第1話
「ごめんください、赤ずきんちゃんのお祖母様。」
「あら、狩人さん、こんにちは。」
「いよいよ、捕獲作戦、開始です。」
「まあ、とうとう!」
「長らく、ご心配をおかけしました。つきましては手筈通りに、村の集会所へご移動いただけますか?」
「はいはい、ようやくだねぇ、がんばってね。」
「はい!ご協力、ありがとうございます。」
オレは、オオカミ。正統な、物語に出てくるような、まっとうなオオカミだ。話もできるし肺活量もある。身体もほぼ人と同じだから、獣人だ。
今日は赤ずきんが森の向こうのおばあさんの家へお使いにいくのを聞きつけた。セオリー通り、
「お花なんて、喜ぶんじゃない?」
なんて言って道草くわせる間に、おばあさんの家へ先回りさ。
まずはおばあさんを始末しないとな。
おや、誰もいない。ベッドの上には洗濯済みの寝巻きとナイトキャップ、それに眼鏡が。
そして
「病院に行ってきます」
のメモが。
なんだよ。
まあ、いいか。それより急がないと赤ずきんが来てしまう。寝巻きもナイトキャップもつけて、ベッドに入る。眼鏡も忘れずにっと。うわぁー、度、強いわ。視界がグルグルする。
そこへ
「トントントン、赤ずきんよ!おばあさん、入ってもいい?」
おいでなすった!
「おや、赤ずきんちゃんかい?おはいりなさい。」
頭に赤い頭巾をかぶった人影が入ってきた。この眼鏡のせいでよく見えない。
「おばあさん、いつもとなんだか違うわ?」
おお、キタキタ、お約束展開!
「そうかね?」
「おばあさんのお耳はどうしてそんなに大きいの?」
「それはお前の声をよく聞くためだよ。」
『ええ、よく聞いて頂戴』
ん?何か言ったか?
「おばあさんのお目々はどうしてそんなに大きいの?」
「それはお前をよく見るためだよ。」
『よ〜くあなたの瞳に焼き付けて』
ん?また何か聞こえる。
「おばあさんのお手手はどうしてそんなに大きいの?」
「それはお前をよく触って確かめるためだよ。」
『あ〜ん、触ってぇ』
なんか、変。
でも次で最後の質問、クライマックス、いよいよガブリと…
「おばあさんのお口はどうしてそんなに大きいの?」
「ソレハネ、オマエヲ、タベルタメダヨ!」
「ぜひ、私を食べて〜!!」
眼鏡で歪む視界の奥から、何かが飛びついてきた!
それは食欲を凌ぐ、種の保存本能を刺激する
、白く、柔らかく、たまらない匂いのするものだった。
結果的にオレは赤ずきん(仮)を食べて狩人に捕まった。ハートを撃ち抜かれたのだ。
おばあさんの家に来たのは、赤ずきんの服を借りた狩人だった。
「なんで、お前が!」
「だって、あなたいつも私を見ると逃げるじゃない!」
「そりゃお前、そんな銃もって、狩猟免許もってるヤツが見つめてきたら『撃たれる』って思って逃げるだろうよ。」
「私、ずうっとあなたが好きだったから、他の猟師からあなたを守りたくて、『あなたは私の獲物』ってみんなにアピールしてたの。」
「わかりにくいって。それにおばあさん、なんで家に居なかったのさ」
「それは、みんな、私の思いを知ってるから協力してくれたの。赤ずきんちゃんは服を貸してくれたし、赤ずきんちゃんのお母さんはあなたが赤ずきんちゃんに付いていったら私に連絡くれるようになっていたの。私はあなたが花畑に行っている間に、おばあさんの家へ先回りして避難してもらい、その後、赤ずきんちゃんの服に着替えてあなたの待つ家にいったのよ。」
確かに逃げまわっていたオレと狩人の接点は少ない。かなり周到に用意されていたようだ。優秀な狩人だ。
獣人はつがいを大事にする。
つがいと認めた狩人との生活、夫婦関係は良好だが、オレの不満を聞いてくれ。
嫁には
「赤ずきんちゃんのストーキングはやめて。」
「こぶたくんたちの家屋破壊はやめて。」
と言われる。
オレは、オオカミ。正統な、物語に出てくるような、まっとうなオオカミだ。
何をしたらいいんだ?
嫁が言った。
「そうそう、ヤギの奥さん、外出するときの7ひきの子ヤギちゃんたちのベビーシッターさがしてるんだって」
狩人とオオカミ 六花 水生 @rikka_mio
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