第7話

「? 私がこの洞窟に篭っていればいいのは分かったけれど……この陣は何かしら?」


「ブラフだよ、転移の陣って言って言葉の通り起動すれば陣の上にいる物体はどこかへ転移する。もしも僕が負けてしまったらっていうときに必要だろう?」


「でも、それじゃあなたは………」


「いや、その陣は未完成なんだ。つまり絶対に成功しない。ただのハッタリ、近付いたら転移させる、そう思わせようとしているだけだよ」


 その後も色々な準備をしてようやく万全になった丁度そのときだった。


 大量の人が森からこちらに歩いてきているのに気が付いた。もちろんソイツらが何者なのかはすぐに分かった。と言うかこんな状況でこちらに向かってくる連中なんて悪神断ちくらいしかいないだろう。

 リーダーを筆頭としてその後ろには似たような衣を纏った二十から三十の人がいた。顔立ちや体格に差はあれど全員が臨戦態勢であることだけは共通していた。


「お久しぶり………って言っても一日経ったくらいか」


「私達にとって一体の悪神にこんなに時間をかけてはいられないのですよ、さて、件の悪神はあなたの後ろの洞窟ですね?」


「おいおい、まさかあっさり通すとでも?」


「あなた程度でしたら部下でも余裕でしょう」


 そう言うとリーダーは後ろの軍団の中から三人程を呼び出して何か命令をした。恐らくアイツを殺してでもいいから悪神を捕獲せよ、とかそういう類いの命令だろう。

 一方、最初で最後の防衛線である僕は既に大太刀を構え終えていた。勝負は一太刀で決まる。だからその瞬間を絶対に逃さないように、息を止め、心臓を殺してその時を待った。


 向こうの話し合いが終わった。命令を受けた三人がこちらを向く。こちらに歩いてくる。三人が同時に強烈な踏み込みをし―――

 瞬きはしなかった、気付いたらという表現はおかしいかもしれないが、踏み込む動作を終えた直後に三人は眼前に迫っていた。文字通り瞬間移動に等しい何かだった。しかし、斬り掛かる直前で察知することができた。


 一人目の袈裟斬りを躱し、躱すことを読んでいた二人目の突きが始まる前に蹴り飛ばし、三人目の頸動脈を狙う刀を本人と先程の一人目を纏めて大太刀ではじき飛ばした。


 全力を出して防ぐのが精一杯、反撃なんてもってのほかだった、改めて格の違いを思い知らされたが、しかし、これで準備は整った。


「どうした、通らないのかい?」


 挑発されたのが悔しかったのか、それとも間髪入れない連撃が十八番なのか、即座に間合いを詰めてきた。だが、今度の移動は瞬間移動のような速さはなかった。どうやらあの速度は溜めが必要な行動らしい。


 一、二、三……四、五六、七。

 緩急をつけた連撃が命を刈り取ろうとしたが、間一髪のところで躱すことが出来た。最早余裕すらうまれていた。


「そうだよな、上司直々の命令だから


 違和感を感じたからか後ろから四人の増援が来た、三人でもそれぞれが相手の刀の軌道に入らない見事な連携だったが、七人になっても変わらないどころか更に速度が上がったように感じる。けれど、彼らが僕に一撃を与えることは不可能だった。右から一閃、空を舞う葉のように躱す、後ろから逆袈裟斬り、人ごみを縫うように躱す、正面からの振り下ろし、燕のように危なげなく躱す。


「ハハハッ、中々これは楽しいな、油断していても全然当たらないぞ」


 そんなことを言っていると、七人のうちの二人が戦線を離脱し洞窟を目指そうと走り出した。

 だが、数歩進んだだけで僕の正面に戻される。何度進んでも一定のラインを過ぎたら同じ位置に戻ってくる。


、なんて思ったのかい?」


 これでペースは完全に僕のものとなった。あと一手で勝ちを確定できる。だからその為にも――――


 トスッ―――――――――。


 小さな音がした。同時に背中から腹にかけて熱と痛みを感じた。何が起こったのか、視線を下に向けて確認をしようとする前に、




 僕の身体に刺さった刀は内蔵ごと脇腹を切り裂いた。


「そう言えばあなたは試練を与える、いや、この状況だけを見れば望みを叶えない神でしたね」


「確かにこの七人は見事にあなたの思惑にハマっていましたが、その望みは七人だけのもの。つまりその七人に含まれない者が望みが叶わなくなる前に殺してしまえばいい、というだけ」


 彼は倒れたそれに向かってそう言った。確実に殺した感覚があるからか警戒する素振りはみせなかった。


「まぁ、それでも確実に殺せる保証はありませんでしたが………あなた自身にとかそんな望みがあったんじゃないですか?」


 体から溢れた血は既に血溜まりとなり、綺麗な花を咲かせていた。

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