第6話

「……ここは…………?」


 ここに転移して凡そ一時間。無茶な転移のせいで気を失っていた彩華が目を覚ました。気を失う前とは異なる景色に戸惑っているようだ。実のところを言うと僕自身もここがどこなのか検討もつかないのだが。


「分からない、とりあえず彼らから逃げることが出来る場所の一つだよ」


 望んだ事が叶わない。その性質を上手く利用してみようとして相手を煽ってみたが、今のところは成功しているらしく一安心だ。


「さて、彩華……詳しく聞きたいことがあるんだけど………話してくれるかな?」


「うん………分かった………」


 そこから彩華との話し合いが始まった。話し合いというよりも僕の質問攻めになってしまったが。


「……つまり、最初に僕を見た時に同類悪神だと思って寂しさから声をかけた、と」


「うん……はい………その…………ごめんなさい………」


「怒ってる訳じゃないよ、むしろ……その、声をかけてくれて僕も嬉しかったからさ」


「そ、そう………」


「それよりも結局彩華は何の神様なの?」


「えっとぉ………そのぉ………薬物……とかぁ………中毒症状とかぁ……その類いのやつを撒き散らしたりする………………」


 うん、声には出せないけれど中々えげつない性質の神様だった。だが、ここで一つ疑問が出来た。


「じゃあ何で僕はその性質にやられなかったんだろ?」


「多分…………………」


「…………えっ」


「だって、すぐに遠くに行こうとするから……だったらいっその事私の中毒になっちゃえって………」


「…………怖い! いつの間にか僕は廃人にされかけてたの!?」


「ご、ごめんなさいぃ……」


 う、うぅむ……気に入ってくれてたのは嬉しいんだけど………なんて言うか……重い、すっごい重い。


「嫌ってくれてもいいから………ホントにごめんなさい………」


「嫌いはしないけど、これからはやめてね……?」


「………! ほ、本当にっ!? 嫌いにならないの!?」


「あぁ、勿論だとも、だから…………」


「これからもずっと一緒にいよう?」



 プロポーズじみた言葉を言ってしまい、何故かこちらが照れてしまう。


「ずっと………一緒? もう独りぼっちじゃない?」


「勿論だとも、僕は嘘をつかないからね」


「や……や………やったぁー! 私! キョウ! 好きー!」


 何だか聞いたことのあるフレーズだったが、まぁ気の所為だろう。


「喜んでくれて何よりだよ、それじゃあ話もまとまったことだし、ここから移動しよう」


「………? どこに?」


「そりゃあこのまま悪神断ちから逃げ切ったまま………なんて楽に終わらないだろうしどこかで彼らと決着をつけなきゃいけないだろう?」


「決着って………、まさか真正面からぶつかる気なの!?」


 言外にお前じゃ勝てない、と言われたようなものだが本当のことだから何も言い返せない。事実、未だにあのリーダーの斬撃を防いだ時の痛みが腕に残り続けている。


「不意打ちとかも考えてはみたんだけどね……僕がやると失敗する未来しか見えないからさ」


「それじゃあ私も一緒に………!」


「それでうっかり首を切られたとか普通に笑えないから却下」


「っていうことは一人で……?」


「確かに絶望的だけど、こっちは相手を待つことが出来るし、ある程度は有利な地形に誘い込む事だって出来る、負けると決まった訳じゃない」


「ホントに、ホントに大丈夫なのよね……?」


「大丈夫だとも、だからその為にも準備を急ごう」


 そう、準備さえすれば勝てる。僕達の目的は殲滅ではないのだから。

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