第3話

 夜は明け、午前六時。


「ねぇ、一晩丸々外で寝るか部屋で寝るかの争いに費やすってどうなのかな? 僕、親切にしてもらったのは初めてだしよく分からないんだけど親切ってここまで否定するものだっけ?」


「そうね、私も初めてよ! 楽しかったわね!」


「……一応聞くけど眠くないの?」


「これっぽっちも! あと三日は寝ないでもいられるわ!」


 化け物か何かかな?

 だが、それよりも気になっていることがあった。さっきの会話で大体察しがつくかと思うが、僕達は一晩中家に居た。なのに性質による被害が出ていない。これは僕の性質がある状況では有り得ない事態だ。参考までに僕が今まで無断宿泊してきた廃屋はただ一つの例外なく崩れ去った。廃屋だから脆かったんだろ、とかそう考えれば納得出来ないこともないが、やはり……何か違和感がある。もしも、違和感の原因を疑うとしたら真っ先に思い浮かぶのは…………


「ぴょーん!!」


「ぐえぇ!?」


 いきなり背中に飛びつかれたせいで、過去最高に情けない声を出してしまう。いやだって考え事してたし不意打ちで変な声が出るのは仕方がないと………思う。

 話を戻すが、もし疑うとしたら間違いなくこの神様である。そう、例えば彼女の性質と僕の性質とぶつかって打ち消されたとか…………。

 ………多少悩んでみるものの、全く予測がつかない。後で機会があったら聞いてみることにしよう。それよりも大変失礼になってしまうのだが、その………重い。いや、決して彼女が太っている訳ではない。むしろ痩せている方なんじゃないだろうか? だが、その程度の重さを僕が支えられると思ったら大間違いだ。つまり何が言いたいかと言うとすっ転ぶだろう、おそらく盛大に。


「あはははっ! あなた本当に非力なのね!それはそうと次は何をしましょうか?」


二人で横並びに倒れたまま彼女は話を続けた。


「少し寝たいんだけどなぁ………。うぅん………僕って、人と喋ったりすることが少ないからこういう時に何をすればいいのか分からないんだ、何かそれっぽいことってあるかな?」


「じゃあお話を聞かせて? あなたがこれまで何をしてきたか、とか」


「楽しいかな? それ」


「私には楽しく感じると思うわ! それにあなたは旅をしてきたんでしょう? なら冒険譚とか面白い話を知っているんじゃないかしら!?」


「冒険譚なんて壮大なものはないんだけどね……それでもいいなら僕は構わないよ」


「ふふふっ、楽しみね! ちなみにどんなのがあるのかしら?」


「基本的に僕が迷惑を掛けちゃった人間のお話かなぁ? 例えばギリシャという国に行った時は僕の性質のせいである人間の人生を狂わせてしまったりとか? 今でこそ、その人間は十二の試練をこなした大英雄なんて言われちゃってるんだが……」


「あら? 結果的に名誉を与えているのだから別にいいじゃない?」


「いや………彼は本当に幸せだったのかな、数百年経った今でも疑問に思っているよ」


「そんなこと本人にしか分からないし、そこまで疑問を持つことかしら? あと暗い話はあまり好きじゃないわ、もっと明るいお話はないの?」


「無いことはない………と思うけど、じゃあ折角明るい話をするんだ、


 …………あっ、唐突に嫌な予感が。



 ――――――その予感は見事的中し、数秒経たずにどしゃ降りの雨が降ってきた。


「仕方ないわね、このまま居間で聞かせて?」


「ご、ごめん……」


 そうして、僕は数時間とっぷりと日が暮れるまで話をした。タイミングの良い相槌、投げ掛けられる疑問、要は彼女は聞き上手だった。おかげで僕は話をやめるタイミングを失ってしまっていた。


「あなたの話ってどこを旅したのか、分からない様な場所の話があるわよね……」


「実際、僕もハッキリと覚えてないから、もしかしたら夢の中の出来事だったのかも……?」


「もし夢物語だったのなら私の涙を返してもらうことになるのだけど………? ってもうこんな時間じゃない!? お夕飯の支度をしなくちゃ……」


「話すのが楽しすぎて時間を忘れていたなぁ、それじゃあ僕が買い物に行くから………この手はなんだい……? 袖が伸びてしまうよ、ハッハッハッ」


「…………お買い物。一緒に行きましょ?」


「……それじゃあジャンケンで決めよう、僕が勝ったら僕一人で買い物に行くから君は休んでいてくれ。僕が負けたら一緒に買い物に行こう」


「勝っても負けてもあなたは買い物に行くのね」


「そりゃお世話になってる身だから当たり前だよ」


 そう、普段から彼女が一緒に行動したがるせいで泊めてもらっている恩を返せていないのだ。彼女からしたら恩返しをして欲しい、なんて考えていないだろうが、こちらは何もしていないという罪悪感がチクチクと刺さる。故にここら辺で少しでも恩返しをするために…………この勝負…………



 ―――――――――――――


「誰かとお買い物に行くのなんて久しぶりだわ」


「うん、そうだね……」


 今日は鍋かぁ……、そうかぁ………。

 荷物持ちくらいはさせてくれるかなぁ…………。

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