第2話
「いらっしゃいませ! 私の家へようこそ!」
「これはこれはどうも御丁寧に、雨が止んだら直ぐに去るからお構いなく」
「あなたが構わなくても私は構うわ! だって話し相手があなたしかいないのだもの!」
あぁ、段々この
「さぁ、まずはそのびしょびしょになった服を脱ぎなさい! 風邪をひいてしまうわ!」
「そうは言っても替えの服が無いからどうにもできな……」
何故言葉が止まったか、それは視界に入ったものを見れば分かる至極単純なことだ。
彼女が持っている女物の着物はなんだろうか?
「あの………? その………手に持っている着物はなんでしょうか?」
「あなたには花柄が似合うと思っているのだけど……どうかしら? 試してみたくはない?」
ふふふ、いくら親切心からくる物とは言え流石の僕でもこれは断るぞ? 否、名誉と羞恥心のためには断らなければならない。その為にもこの場は全力を以て抵抗させて貰う!
そう決意したのだが……………
「なんで………なんでそんなに力が強いだい? 確かに僕は自他ともに認めるほど貧弱な神だけど、女の子にすら力負けする程弱かったっけ? うぅ…………」
「やっぱり似合うわね! うふふ、それで外を出歩いても違和感ないわよ!」
この神様、最早悪神よりも遥かにタチが悪いんじゃないだろうか? おい、待て、何だ。その桃色が前面に押し出された着物は? それってもう着物じゃなくて浴衣って言うんじゃないか? 待った、ステイステイ、じりじり近付くんじゃない、やめ―――――
そんな事をしているうちに雨は止み、太陽が落ち、月が顔を出し始めていた。
「ひゃあ、疲れた。女装させられたことはトラウマになりそうだが、とても楽しい時間だったよ」
疲れ三割、トラウマ四割、残りの三割はプラスの感情で満たされた僕は今までにないほど清々しい気持ちになっていた。だが、これ以上それに甘えてはならない、楽しいものを壊すのは無粋で邪悪だと相場が決まっているのだから。
「あはは! 私も楽しかったわ! でももうお夕飯の時間になるわね」
「あぁ、本当に、本当に楽しい時間だった。この思い出があれば当分は寂しくなさそうだ」
「あら? まるでこれでさようならみたいな言い方ね?」
「えっ?」
「ちなみに一応聞くけど、泊まるあてはないわよね?」
「泊まる場所くらい見当をつけてあるさ………そ、それじゃあ先を急ぐので僕はこれで…………」
嫌な予感がしたのでそそくさと準備を終えて玄関へ向かおうとした瞬間、
ガッシィィィィィ!
鬼神の如き握力で着物の袖を掴まれた。実はこの人、神様じゃなくて鬼と悪神のハーフだったりするんじゃないのだろうか?
「泊まるところがないならうちに泊まっていきなさい! お布団はちゃんと二つあるから!」
「泊まる場所は見当がついてるって言ったじゃんか!」
泊まるのは百歩いや千歩譲って良しとして、寝る時は家の外にいないと恩を仇で返す不届き者になってしまう。というかそれは個人の自由だし問題は無いだろう。
そう思っていた僕だったが、そんな要求が通ることは無く、家の外で寝るか中で寝るかを争うながいながーい夜が幕を開けるのだった。
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