不幸な神様
アイスティー
第1話
「こんにちは! いい天気ね! お天道様はこんなに輝いているのにどうしてあなたはボロボロなの?」
その神様との最初の会話はそれだった。見た目でマトモな神ではないと分かるはずなのによくもまぁ話し掛けようと思ったものだ。僕は話をしたい訳ではないので無視を決め込んでも良かった。が、別に冷たくあしらう理由もない。わざわざこんな悪神に話しかけるんだからきっと良い神様なのだろう。というか、なんと言えばいいか……そう、例えるのなら子犬のようだった。無視したら心が痛くなるアレだ。
「こんにちは、本当にとてもいい天気だ。こんな姿じゃ天道様に申し訳ない位だね」
「そう思っているのなら私の家にいらっしゃいな! キレイなお召し物を用意してあげるわ!」
「? 面白い冗談だね、僕みたいな悪神を家に招き入れたら大変なことになってしまうことぐらい君も知っているだろう」
そう、僕は悪神と呼ばれるものに分類される神様だ。災害を巻き起こすもの、不幸をもたらすもの、概念として存在していなければいけないが、決して喜ばれることはないものが総じて悪神と呼ばれる。その性質故に善神は勿論同じ悪神ですら近付くことはない。だが、彼女はそんなことは気に留めていないようだった。
「だからどうしたの? 冗談を言っているのはあなたでしょ? 大変なことなんて大歓迎よ! 何事も騒がしい方がいいもの!」
その言葉を頭の中で数回繰り返してからようやく驚きが顔に出た。冗談でもこんな言葉を掛けられるのは初めてだった。大変なことが大歓迎? 果たして本当に悪神の意味が分かっているのか。もしやただの天然さんだったりするのだろうか。
「冗談だよ……ね? 僕の周りにいる生物が望むことはほぼ絶対に叶わないと言われてるんだよ? 酷いときは家一軒潰すのに一日もかからない位なんだ、だから気持ちだけありがたく受けとらせてもらうよ」
「あら? おかしなことを言うのね、さっきまで私が望んでいたのはあなたとお話をすることよ? これってもう叶っているわよね? 因みに今の望みはこの天気がずっと続くといいなっていう事とあなたを私の家にお呼びする事よ」
うぅん、何故か論破された気分だ。どこか悔しいものが込み上げてくる。しかし、この神様はどうしても僕を家に呼びたいようだ。もしかして、罠か何かあるんじゃないだろうかと、疑ってみるが、どうにも悪意を感じない。この世に生を受けて初めてありがた迷惑という言葉を体験出来た。
はて、上手く断るにはどうすればいいのだろうか…………
そう悩んでいると急に空が曇り始め――――
――――――ポツリ。
「あ、これって……」
「雨……だね。どうやら望みは叶わなかったみたいだ」
……これを口実にすれば迷惑を掛けずに去ることが出来るんじゃないか? フフフ、流石僕だ。伊達に波乱万丈の生活を送ってきてはいない。
自信満々、百点満点の策を早速行動に移そうとした。
………した。と言うのはつまり未遂で終わったからだ。
「このままではずぶ濡れになってしまうなぁ、それじゃ僕は急ぐか――――」
「それなら私の家で雨宿りをして行けばいいじゃない! これぞ一石二鳥ね! ほら、早くしないと洗濯物が全部濡れて洗い直しになってしまうから走って!」
そう言うと彼女は僕の服を掴んで疾風のように走り出した。その速度と力強さは凡そ女性が出すものではなく、ろくな物を食べていない貧弱な僕はなすがままに引っ張られていくことしか出来なかった。
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