第17話 感情は二律背反

マネージャー見習いとして3週間が経った。


一人暮らしの部屋に帰ってきて、ベッドに倒れ込むようにインして一言。


「ね、眠い」


最近、この言葉が口癖な気がする。

マネージャー業務がこんなに大変だなんて……

覚えることは多いし、スケジュール管理、仕事先での挨拶、打ち合わせ、メンバーのサポート、などなど……


体力面でかなりキツイ仕事だと実感した3週間だった。



多忙なマネージャー業務でも生田さんはテキパキと仕事をこなすし、なにより辛そうな所を一切見せない。

どうしてそんなに頑張れるんですか?と聞いたら「人はね、限界だと思ってからもうちょっといける

 から」

と、真顔で言われた時、この人はプロだと痛感したくらいだ。



そんな事を思い出してると、スマホにメッセージが届いた音が聞こえてきた。


【今日もおつかれさまー(*´ω`*)

 突然だけど明日の朝、用事が出来ちゃって直接現

 場の方に向かう事になったから、祐希君にお仕事

 任せちゃいまーす(((o(*゚▽゚*)o)))

 朝、麻衣を送迎車に乗せて現場に来て下さい^ ^

 時間に間に合うようにお願いしまーす( ^ω^ )】



送迎車は既に手配してある。

あとはその時間に合わして、荷物を積み込んでメンバーを乗せるだけ、なんとかなりそうだ。

了解ですと打ち込んで僕はそのまま眠りについた。

仮眠のつもりだったがしっかりと朝まで寝てしまったのは言うまでもない……



———————————————————————




「そろそろマネージャー業務も慣れてきました?」


「正直、まだまだです……」


「じゃあ、今日は不安だなぁ」


悪戯に笑いながら呟かれた。


「今日はしっかり準備してるんで安心して下さい」


僕がハッキリと答えると西野麻衣がニッコリと笑う


「頼りにしてますよ、マネージャーさん」


送迎車の中でなんとも微笑ましい会話をしてしまう。

いかんいかん、ちゃんと仕事をしないと。


「今日のスケジュール確認しますね。

 まず午前中に雑誌のインタビューを2社受けても

 らって、午後から雑誌撮影があります。

 それが終われば今日の仕事は終わりです」


「ふふふっ、マネージャーみたい」


「マネージャーですから!」


そんな会話をしている時は疲れを忘れてしまう。

元ファン、現マネージャーとして幸せな瞬間だ。

しかし、忘れてはならないことが1つ

恋愛感情を捨てること。

これだけは絶対に守って下さいと生田さんに散々言われ続けてきた。

元ファンがマネージャーになる事なんて多分あのプロデューサー以外反対したはずだ。

それは重々承知してるし、肝に銘じている。


「もうすぐ着きます」


目も合わせずに僕は言った。


「はい」


西野麻衣がこっちを見てるのか分からないけど、この微妙な距離感を保つしかない。


(マネージャーとして、彼女達と接しないとダメな

 んだ)


僕はもう一度、心の中でそう思いながら窓の外を見つめた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この恋 恋愛禁止令を破っちゃいます!?? とべないうーいー @SCANDAL

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ