第4話 見つけますからね
「祐希さん、先日はありがとうございまし
た」
ペコリと頭を下げる彼女と、状況がイマイチ読めない僕。
なんとも言えない不思議な空間だが、ひとつだけ分かることは、僕の目の前にいる人物が西野麻衣だということだ。
「……あっ、いえいえ、とんでもない…」
こういう時、普通ならドキドキするのだろうけど、今はドキドキより緊張と不思議が先に込み上げてくる。
「お見舞い行けなくてごめんなさい。
お怪我の方はもう大丈夫ですか?」
心配そうな表情を見せる彼女。
「も、もうすっかり大丈夫ですよ」
こういう時は心配をかけないように気の利いた言葉を使うべきだと分かっているのに
どうも緊張からか、言葉が出てこない。
何か言葉を出さないと、
「あ、あの…
西野さんの方は怪我とかしてないです
か?」
「私ですか?お陰様で大丈夫ですよ」
よかった…と小さく呟いた僕を見て彼女は優しいですね、と笑い始めた。
「祐希さんってやっぱり良い人ですね。
握手会でも、体調の事とか心配してくれた
りして…優しい人だなってずっと思ってた
んです」
「い、いやいや、そんなことないですよ」
「今だって、私の事を心配して下さったじ
ゃないですか。
優しい人だと改めて思いました。
こんなに良い人に助けてもらえて良かった
です。
本当にありがとうございました。
あ……でも化粧をしてない顔を見られたの
はちょっと恥ずかしいですけどね」
恥ずかしそうに笑う彼女が眩しく見えた。
可愛い、そのものだった。
「いやいや、可愛かったです!」
思わず心の中を言葉にしてしまった事に恥ずかしさが出てきた。
急に、緊張よりもドキドキする気持ちが勝ってくる。
「ありがとうございます。
……スッピンを見た事はナイショにしてお
いて下さいね〜?」
も、もちろん!と言う僕を見てまた彼女は笑う。
‥‥信じられない幸せだ
ふとそう思った。
「あ!今日のライブ楽しんで行って下さい
ね」
「は、はい!楽しみます!」
突然ガチャリとドアが開き、生田さんが入ってきた。
もうそろそろお時間です、と彼女に言う。
「祐希さん、もうそろそろ行きますね
…今日は祐希さんの事、絶対に見つけるの
で応援して下さいね」
も、もちろんと言うと彼女はまたにっこりと微笑んだ。
「推しメンタオルも、ペンライトも持って
来てるのでめちゃくちゃ応援しますから!」
僕がそう言うと何故か笑い出す彼女。
「目立っちゃいますよ?」
「え?それってどういう…」
「だって今日、関係者席ですよ
関係者席でペンライトを振る人居ないから
目立ちますよ」
‥‥か、関係者席?
普通、関係者席には芸能人や業界関係者が座る。
一般人では座れない席だけど、今日座るのがまさかその席だとは聞いてはなかった。
「言ったからにはちゃんと応援して下さいね〜?
期待してますからね!」
驚く僕に彼女は悪戯っぽい笑顔でその場を後にした。
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