恋愛ポーカー

タカナシ

恋愛ポーカー

 オレの幼馴染に、ギャンブルの天才がいる。

 金は焼くほど持っていて、加えて、才色兼備の美少女ときたもんだ。

 一度、なにかのインタビュー番組に出てしまって、そこで、恋人の有無を聞かれた。彼女はもちろんいないと答え、それから髪をいじりながら、「誰でもいいから、私の心を射止めるステキな人はいないかしら」と言ってしまったのだ。


 その日から、ろくでもない男たちから、やれ告白だの、やれ求婚だのと、毎日のように砂糖を前にしたアリのように群がってくる。


 デスゲームに連れ回されたときよりも、辟易とする光景だ。

 当事者でない、オレでこれなのだから、当事者のエルには相当堪える事態だろう。


 そんなある日、彼女は宣言した。


「私と付き合いたいなら、ギャンブルで勝ってからにしなさいッ!!」


 その発言から端を発し、初日の今日、彼女の周りには長い長い列が出来ていた。



「Aの4カードよ。私の勝ちね」


 ギャンブルの天才という肩書きは伊達ではなく、長々と連なっていた行列、その全てを撃破したのだった。


 今日は良かった。だけど、明日も明後日もこんなことを続ける気なのか?


 オレは最後のヤツが退室すると、ドカッと賭けのテーブルに着いた。


「あら? レンも私と勝負するの? あなたが私のこと好きだったなんて意外ね」


「まぁ、なんとでも言えよ。オレァこれでも今回の件はムカついてんだぜ!」


「何にムカついているのかしら?」


「お得意のプロファイリングでもなんでも使って読んでみろよ。だが、お前にオレの心は一生わからないだろうさッ!」


 オレがムカついてんのは、会ったこともないヤツに金と美貌だけ求めてよってくる男共に、こんな展開になることは分かっていたのに、あえて企画したエル。そんで一番ムカつくのが、こんな状況にならなきゃ、気持ちを伝えようともしないオレ自身にだッ!!


「ルールはごく一般的な5ポーカーよ。ただし、賭け金の代わりにハートを差し出してもらうわ」


 オレの元に10枚のハート型のチップが渡される。


「なるほど、ハートを失くしたオレは失恋。エルのことを諦める。逆にエルのハートを全部取ったら、心を奪ったってことか。皮肉が利いてて嫌いじゃあないな」


「さすがレンね。よく私が言いたいことを分かってくれたわね」


「どんだけ付き合いが長いと思ってんだ」


「それじゃあ、はじめるわよ!」


 エルは薄っすらと笑みを浮かべながら、カードを配る。


「ああ、なるほど。悪魔のような微笑に見蕩れて死ぬ訳か」


 オレは何度も見た、その笑みの意味を知っている。何かを隠したいときにする笑みだ。


 ガシッとエルの手を掴む。


「ひゃ! ちょっ、ちょっといきなり何よ。まだ心の準備が……」


「そういう初心な生娘を演じるのはいいから、カードをちゃんと配れ、イカサマなしで。人によっちゃあ、人差し指くらい叩き折られるぞ」


 エルがやろうとしていたのはセカンド・ディールという上から2番目のカードを配る技術だ。


「オレはお前を信じてるよ。勝つためならなんでもするヤツだって。だから、負ける行動は絶対にしないッ!」


「ええ、そうね。私だってレンのことを信じているわ。今だって必ず見破ると思っていたわ。あなたの信頼に応えて、イカサマはしないわ。どうせ見抜かれるでしょうし」


 エルは居住まいを正し、今度はイカサマなしでカードを配り始めた。


 オレは場代にチップを1枚払ってからカードを確認する。

 さらに1枚チップを出し、エルもそれを受ける。

 2枚チェンジした後の手札はキングの3カード。

 かなりいい手札だ。相手がエルでなければ。


「どうしたのかしら、そんな凛々し、いえ、怖い顔をして。あまりいい手じゃなかったのかしら?」


「さぁね。そっちこそいい手なんじゃないのか?」


「そうかもしれないわね?」


「…………」


 オレはしっかりとエルを見つめ観察する。


「そ、そんな見つめられると、照れるわ」


「なるほど。オレは降りだ」


 カードを公開すると、案の定、エルの手札は5~9まで揃ったストレートだった。


「あぶねぇ! リアルラック高すぎだろ! イカサマなしでそれって。女の子を優遇しすぎだろ神様はッ!」

 

「女の子って、二十歳間近の私に向かって」


 ん? さっきから頬を染めたり、悶えたように動いたり、新手のブラフか?


「まぁ、いい。続きをしようぜ」


 オレたちの勝負はそこから一進一退とはいっても、明らかに彼女エルのほうが優勢で、なんとかオレがしがみついている様な有様だ。

 

 丁度、チップが初期の10枚に戻ると、エルから切り出した。


「さすが、レンね。でも、そろそろ決着をつけましょうか?」


 そう言って、エルはチップ全てを賭けた。


「おいおい。すごい自信だな。そんなにいい手が来たのか?」


「ええ、そうよ。そろそろ終りにしたいと思っていたときにいい手が来たわ」


 エルの表情は変わらず、ポーカーフェイスを貫き、髪を優しく撫でるようにイジる。


「OK! いいだろう。乗るぜ。オレもそろそろ決着をつけたいと思っていたんだ。いいかげん愛してるって言わせてもらうぜ!」


「グッド!」


 そして、お互いの手札を公開すると、オレは8と9の2ペア。

 一方エルは、2のワンペア。


「私の負けね。よくブラフだって分かったわね」


「どんだけ一緒にいると思ってるんだよ。お前、ブラフ使うとき、髪をさわるクセがあるだろ。普通気づくだろ」


「そうね。あなたの前以外じゃ、こんな分かり易いサインしないわよ」


「はぁッ!? それって!」


「不束者ですが末永くよろしくねレン!!」


 エルはオレへ抱きつくと幸せそうな笑みを浮かべた。


 本当の意味で、オレが彼女にギャンブルで勝てる日は来るのだろうか!?

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恋愛ポーカー タカナシ @takanashi30

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