恋愛ポーカー
タカナシ
恋愛ポーカー
オレの幼馴染に、ギャンブルの天才がいる。
金は焼くほど持っていて、加えて、才色兼備の美少女ときたもんだ。
一度、なにかのインタビュー番組に出てしまって、そこで、恋人の有無を聞かれた。彼女はもちろんいないと答え、それから髪をいじりながら、「誰でもいいから、私の心を射止めるステキな人はいないかしら」と言ってしまったのだ。
その日から、ろくでもない男たちから、やれ告白だの、やれ求婚だのと、毎日のように砂糖を前にしたアリのように群がってくる。
デスゲームに連れ回されたときよりも、辟易とする光景だ。
当事者でない、オレでこれなのだから、当事者のエルには相当堪える事態だろう。
そんなある日、彼女は宣言した。
「私と付き合いたいなら、ギャンブルで勝ってからにしなさいッ!!」
その発言から端を発し、初日の今日、彼女の周りには長い長い列が出来ていた。
※
「Aの4カードよ。私の勝ちね」
ギャンブルの天才という肩書きは伊達ではなく、長々と連なっていた行列、その全てを撃破したのだった。
今日は良かった。だけど、明日も明後日もこんなことを続ける気なのか?
オレは最後のヤツが退室すると、ドカッと賭けのテーブルに着いた。
「あら? レンも私と勝負するの? あなたが私のこと好きだったなんて意外ね」
「まぁ、なんとでも言えよ。オレァこれでも今回の件はムカついてんだぜ!」
「何にムカついているのかしら?」
「お得意のプロファイリングでもなんでも使って読んでみろよ。だが、お前にオレの心は一生わからないだろうさッ!」
オレがムカついてんのは、会ったこともないヤツに金と美貌だけ求めてよってくる男共に、こんな展開になることは分かっていたのに、あえて企画したエル。そんで一番ムカつくのが、こんな状況にならなきゃ、気持ちを伝えようともしないオレ自身にだッ!!
「ルールはごく一般的な5ポーカーよ。ただし、賭け金の代わりにハートを差し出してもらうわ」
オレの元に10枚のハート型のチップが渡される。
「なるほど、ハートを失くしたオレは失恋。エルのことを諦める。逆にエルのハートを全部取ったら、心を奪ったってことか。皮肉が利いてて嫌いじゃあないな」
「さすがレンね。よく私が言いたいことを分かってくれたわね」
「どんだけ付き合いが長いと思ってんだ」
「それじゃあ、はじめるわよ!」
エルは薄っすらと笑みを浮かべながら、カードを配る。
「ああ、なるほど。悪魔のような微笑に見蕩れて死ぬ訳か」
オレは何度も見た、その笑みの意味を知っている。何かを隠したいときにする笑みだ。
ガシッとエルの手を掴む。
「ひゃ! ちょっ、ちょっといきなり何よ。まだ心の準備が……」
「そういう初心な生娘を演じるのはいいから、カードをちゃんと配れ、イカサマなしで。人によっちゃあ、人差し指くらい叩き折られるぞ」
エルがやろうとしていたのはセカンド・ディールという上から2番目のカードを配る技術だ。
「オレはお前を信じてるよ。勝つためならなんでもするヤツだって。だから、負ける行動は絶対にしないッ!」
「ええ、そうね。私だってレンのことを信じているわ。今だって必ず見破ると思っていたわ。あなたの信頼に応えて、イカサマはしないわ。どうせ見抜かれるでしょうし」
エルは居住まいを正し、今度はイカサマなしでカードを配り始めた。
オレは場代にチップを1枚払ってからカードを確認する。
さらに1枚チップを出し、エルもそれを受ける。
2枚チェンジした後の手札はキングの3カード。
かなりいい手札だ。相手がエルでなければ。
「どうしたのかしら、そんな凛々し、いえ、怖い顔をして。あまりいい手じゃなかったのかしら?」
「さぁね。そっちこそいい手なんじゃないのか?」
「そうかもしれないわね?」
「…………」
オレはしっかりとエルを見つめ観察する。
「そ、そんな見つめられると、照れるわ」
「なるほど。オレは降りだ」
カードを公開すると、案の定、エルの手札は5~9まで揃ったストレートだった。
「あぶねぇ! リアルラック高すぎだろ! イカサマなしでそれって。女の子を優遇しすぎだろ神様はッ!」
「女の子って、二十歳間近の私に向かって」
ん? さっきから頬を染めたり、悶えたように動いたり、新手のブラフか?
「まぁ、いい。続きをしようぜ」
オレたちの勝負はそこから一進一退とはいっても、明らかに彼女エルのほうが優勢で、なんとかオレがしがみついている様な有様だ。
丁度、チップが初期の10枚に戻ると、エルから切り出した。
「さすが、レンね。でも、そろそろ決着をつけましょうか?」
そう言って、エルはチップ全てを賭けた。
「おいおい。すごい自信だな。そんなにいい手が来たのか?」
「ええ、そうよ。そろそろ終りにしたいと思っていたときにいい手が来たわ」
エルの表情は変わらず、ポーカーフェイスを貫き、髪を優しく撫でるようにイジる。
「OK! いいだろう。乗るぜ。オレもそろそろ決着をつけたいと思っていたんだ。いいかげん愛してるって言わせてもらうぜ!」
「グッド!」
そして、お互いの手札を公開すると、オレは8と9の2ペア。
一方エルは、2のワンペア。
「私の負けね。よくブラフだって分かったわね」
「どんだけ一緒にいると思ってるんだよ。お前、ブラフ使うとき、髪をさわるクセがあるだろ。普通気づくだろ」
「そうね。あなたの前以外じゃ、こんな分かり易いサインしないわよ」
「はぁッ!? それって!」
「不束者ですが末永くよろしくねレン!!」
エルはオレへ抱きつくと幸せそうな笑みを浮かべた。
本当の意味で、オレが彼女にギャンブルで勝てる日は来るのだろうか!?
恋愛ポーカー タカナシ @takanashi30
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