第5話 落ち込んでも、また、前向きに・・・

 ただいま学校、昼休み。

 あたしは、あれから胸にトゲが刺さったような思いでいたけれど、出来る限り気にしないように日々を送っていた。

 それでも悪い事というのは重なるもので、他のクラスの女子に呼び出されてしまった。

 足取り重く、指定された校舎裏へと向かう。

『な~んか、マズイ感じ……』

 人気のないそこには、三人の女子の姿が。

 近づいて行くと、トライアングルのセンターの子がせきを切ったように話し始めた。

「長瀬さんに三谷君と付き合って欲しいとは思わないけど、あんなイケメンをあっさり振るなんて一体なに様なの!? ちょっと男子から人気あるからって、お高くとまるのもいい加減にしなさいよ!」と、上擦った声で最初っから喧嘩腰。

『あ~、あれか……』

 先日、彼女の口から出てきた三谷君に告白をされた。

 あたしは、丁重にお断りしたんだけど、【また】男子の間で話題になったみたいだった。

【また】というのは、どうも噂によると【難攻不落の長瀬嬢(城)、攻略ならず】というのがネタになっているらしい。

『もういい加減にして欲しいわ(汗)』

 そんなネタにされているお蔭で、たまに女子からこうやって恨みを買ってしまっていた。

『はぁ~……ガンバロ』

 そう思いながら、チラッと後ろの助っ人の二人を確認すると、お互いの指を絡め合いながら既に震え上がっている。

『あたし、いつのまにそんなに恐れられていたのかしら?(苦笑)』

「三谷君のことはよく知らないし、今、誰かとお付き合いをするつもりはないよ」

 あたしはこの子に落ち着いてもうらおうと、できるだけ冷静に話しかけた。

『……だって、相手がなんにも気付いてくれないんだもん』というところは当然、伝えずに。

 その子は、あたしのその態度が返ってしゃくに障ったようで、「桜井とデキてるくせに、付き合うつもりはないとかよくいうわよ! あんな男の通い妻やってるくせに白々しい! 一体、桜井なんかのどこがいいのよ!? 母親がいないからって、母性本能でもくすぐられた!? あんなの三谷君の足元にも及ばないし、良いとこなんて1つもないじゃない!」


 あたしの頭の中で、何かが豪快にブチッ!!!と、束となってキレる音が聞こえてきた。


『冷静に』と思ったぶんだけ、あたしにとっての放送禁止用語を連発されたのが許せない――!


「あたしがあんた達にどう言われようと一向に構わない! だけどね、今回のことにヒロは全く関係ない! 通い妻とか、なんとか言いたいなら好きに言えばいいよ! でもね、人様の家庭の事情を知りもしないで、土足で上がり込むんじゃあないわよっ! ヒロの迷惑になるようなことしたら、あんた達のこと、絶対に許さない! 高校生活これからまだ2年ぐらいあるんだから、しっかりと覚悟しておきなさいよね! いいえっ! 卒業しても安心して暮らしたかったら、死ぬまで覚えておきなさいよねっ!」


 あたしは怒りのあまり、肩で息をする。

 すると気付けば、青ざめた三人の女子は、キャーーーーッ!という悲鳴を上げながら、走り去って行ってしまった。


「…………」


 今更だけど、『やってしまった――』

 

 言いたいことは変わらない。

 でも、相手だってやっとの思いであたしに言いに来たのに、あれはない。

 後悔、先に立たず……はぁ~。


 ――!


 あたしは直ぐに教室へ戻ってヒロを探す!

『居た!』

 見ると、ヒロは席に座って男子達と身振り手振りを交えて談笑していた。

 あたしはそんなヒロ達のことも考えずにドシ!ドシ!と床を踏み鳴らし「ヒロ! 今日カラオケ行くからね!」と、それだけを伝えて回れ右をした。

 ヒロはキョトンとしていたけれど、直ぐに察してくれて「おー!」と、あたしの背中へ温かく力強い返事をくれる。

『甘えっぱなし……』

 あたしはヒロの返事をギュッ!と離さないように抱き留めながら席に着くと、机に両手を置き、そこに額を押し付けて、再び、「はぁーー~~……」と、今度は声に出して深い溜息を机に向けて吐き出した。

『なーにが!?、「ヒロくんは、チーがまもるからね!」よ!』

 返ってきた温もりがまた悔しくて、気付けば、唇を強く噛み締めていた――。


 そして放課後、ヒロは何も聞かずにカラオケに付き合ってくれた。

 ヒロのその優しさのお蔭で、あたしは今日あった出来事をヒロに落ち着いて話し、そして相談することができた。

 ヒロは、あたしの話を真っ直ぐに受け留めてくれて、反省すべき点を柔らかく伝えてくれる。

『いつかきっと、ヒロのことを守れるようにならなくちゃ……』

 あたしは心からそう思った――。

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