第4話 美咲ちゃん
休日。
約束通りヒロと商店街の写真屋さんに焼き増しをしてもらいに。
「ちょっと時間ちょうだいねー」ということだったので、駅前のハンバーガーショップに来ていた。
二階の窓際、ヒロと談笑していると、「千尋ちゃん?」と、あたしを呼ぶ声が……。
声の方に顔を向けると、そこにはショートカットの良く似合う、黒縁のめがねをかけた可愛らしい女の子が、あたしとヒロの間に立っていた。
あたしは内心、ドキリとした――。
「美咲ちゃん! 久しぶり! 元気だった!? 今日はどうしたの? 誰かと一緒?」
「ぁ、ぅん。 お昼ついでに勉強しよっかなって思って……1人だよ」
美咲ちゃんは微笑む。
「へー、そうなんだ! 偉いね!」
『浮足立つって、こういうことかな?』
頭の中で、そんなことが
「とりあえずこっち座って♪」
「ぁ!? ぅ…ぅん」
本当は『嫌』という感情があった。
美咲ちゃんと二人【だけ】でなら、楽しく話せた――。
「桜井♪ 覚えてるでしょ? 美咲ちゃん!」
「お、覚えてるに決まってんじゃん♪ 長瀬の友達で、同じクラスだったことのある……」
「そう! 小島美咲ちゃん♪」
【先日の話に出てきてくれて助かった】という表情をヒロはしている(苦笑)。
「美咲ちゃんも、覚えてるよねぇ~?」
冷やかし半分と、美咲ちゃんの心境知りたさ半分で聞いてみた。
「!? ぅ…ぅん……」
「……美咲ちゃん、学校はどう?」
あたしは直ぐに話題を変えた。
美咲ちゃんの気持ちは、あの頃のまま……ううん、それ以上に強い想いを持っていると分かったから。
「ぅ、うん。勉強は大変だけど、友達も直ぐに出来たし、楽しいよ♪」
「進学校だもんね」
「千尋ちゃんも入学すればよかったのに……」
「ゎ!? 私は、家から近い方がいいから……」
ヒロと同じ高校へ行きたかったなんて、絶対言えない――。
そのあと、美咲ちゃんと二人でガールズトークで盛り上がっていると、ヒロの視線を感じた。
【あたしに】ではなく、美咲ちゃんに対して。
「……なによ?」
あたしは堪らず、ヒロに声をかける。
「ん? 小島ってかわいい顔してんだなと思って。なんなら、めがねやめてコンタクトにでもしたらいいんじゃねーの?」
あたしの心に、ヒビが入る音が聴こえてきた。
『!?』
美咲ちゃんは――と見ると、あたしとは対照的な音を確かめるように聴いていた。
『ダメ……』
進まないで欲しかった、止まって欲しかった、終わって欲しかった時間が、正確に時を刻み始めた――。
あたしは俯き、やり場のない思いに囚われる。
なんとか二人の時間を留めたくて、シューズの裏で床をキュッと擦り付けてみた……。
「あ、小島悪い。変なこと言って」と、あたしがそんなことをしていたら、ヒロが美咲ちゃんに謝り始めた。
「小島にとって、話にくい相手なんだろうし、嫌ってるかもしれないのに悪かった。ごめん」
『ヒロ……違うよ』
あたしは胸が締め付けられていくのを感じながら、ヒロのその言葉を心の中で否定した。
すると――
「そんなことない!」
『!?』
あたしの心の中の否定より、美咲ちゃんが断然つよく否定する!
あたしが丁度、気持ちだけでもその場から逃げ出そうと、外の景色に目を移した時だった。
美咲ちゃんは、バンッ!と両手でテーブルを叩きつけながら立ち上がり、仰け反るヒロに詰め寄った。
あたしとヒロは、美咲ちゃんの思いがけない行動とその迫力に圧倒されてしまった…………って、アレ? もしかして、美咲ちゃん本人が、一番ビックリしてたりする?……(汗)。
美咲ちゃんは、そのまま動かない……
ぁ!? 小刻みに震え出した!
ぉ!? 顔が真っ赤になった!
わ!? 頭から湯気デテルヨッ!
そこから美咲ちゃんはクルクルと顔色を変え、目をぐるぐると回しながら「ちっ!? 千幌ちゃん……。わたす用づ思い出しちゃったから…か、かっ、カェルね!」、そう言って、あっという間に走り去ってしまった!
「ぁ!?、美咲ちゃん!」
あたしの声が
「……な、なんだったんだ?(汗)」
ヒロはその態勢のまま、仰天している。
「……」
そんなヒロを見てあたしは、何をどう話したらいいのか分からなかったけど、「とりあえず美咲ちゃん、あんたのこと嫌いではないよ」と、ぽつりと、それだけを口にした。
ホントは、そんなこと言いたくないのに――。
「……さて、そろそろ行ってみよっか?」
美咲ちゃんの時の流れの中へ連れ去られてしまいそうなヒロを、あたし達の時間に引き戻したくて、その場から立ち去ることにした――。
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