第3話 弄ばれてる?

 翌日。

 あのあと、お父さんにこってりと絞られて、ただ今ヒロの家に謝りに来ています……(汗)。

「・・・・・」

「。。。。。」

「・・・・・」

「。。。。。」

「:::::」

「^^^^^^」

「;;;;;;;;」

「だからごめんって!」

「この腫れは一体、いつ引くんだろうなぁぁぁぁ」

「……痛む?」

「昨日、寝れなかった」

「……ごめん」

「口動かすと痛い。動かさなくても痛い。壁にぶつかったとこも痛い。床に崩れ落ちたとこも痛い。ていうか、意識が飛んだ。花畑が見えた。川があって橋が架かってた。向こう側で誰かが呼んでた。んで、橋渡らなくていいから、レーザーレーサー着て泳いで来いって言われた」

「!?……ゴメン……」

 ヒロが言葉を発する度に、私はどんどん小さくなっていく(泣)。

「……んで、お父さんどう?」

 あたしのそんな態度を気にしてくれたのか、ヒロが話題を変えてくれた。

「はぁ~……いつも通り」

「そっか~……お疲れ(汗)」

 お父さんのなが~い独特の癖のある説教のことを知っているヒロは、あたしに同情してくれた。

 暫し二人共に黙り込んでしまった後、同時に深い溜息を吐き出す。

 そして、そこからヒロは更に話題を変えて、慰謝料とばかりに執筆の手伝いを求めてきた。

 どうも最初から、これが狙いだったみたい(-。-#)。

「――それはヒロが自分で書かなくちゃ意味ないでしょ?」

「共同制作ってことでいいだろ?」

「共著じゃないの?」

「どっちでもいいから頼むよ!」

「ダメ!」

 執筆については、あたしはどうしてもヒロに一人で書いて欲しかった。

 どんな文章になったとしても、ヒロが一人で書き切ってくれることを願っていたから。

 ヒロは飽きっぽい。

 でも、何をやらせても才能はある。

 だから、今回やりきることで自信をつけて欲しかった。

「じゃあ、最終的には読んでもらうとして、とりあえず今は、アドバイザー的なのはどうだ?」

 アドバイザー……『それくらいならいいのかな?』と思って、少しだけだからね、と念を押して引き受けた。

「じゃあ、早速だけど……」

「うん」

「恋愛ってなんだ?」

 ヒロ、やっぱり……。

 あたしが返答に困っていると、「チー……」と、目を細くして、あたしを何故か疑うような様子で見る。

「なによ?」

「もしかしてお前、恋愛知らないのか?」

「!? あんたと一緒にしないでよね!」

 あたしは物心ついた時から大恋愛してるわよ!……絶対言えないけど(汗)。

「じゃー答えろよ」

「……恋愛っていうのはね、気持ちが大事なのよ」

「気持ちね~……例えば?」

「相手のことを想うことよ。一緒にいたいなー、とか、何してるのかなー?、とか」

「ないな」

「結論だしたら意味ないでしょ!?」

「だってないんだからしょうがない」

「じゃあ、誰かそういう相手を想定してみたら?」

「なるほど。んじゃ、手っ取り早くチーで」

 ナチュラルに乙女心を弄ぶなーーーーっ(怒)!

 ホントにコイツは……(困)。

 ま……ま~でも、悪い気はしないんだけどね(照)。

「そ、そーね。じゃあ、まずは、あたしのことを好きということにしなさい」

「? 好きだよ」

 あたしをコロス気かーーーーーーっ!?

「どした?」

 れ、冷静に……相手は何も分かってないヤツだ(泣)。

「あのね、ヒロの好きは、この場合違うの」

「どう違うんだよ?」

「その好きは、家族みたいな好きでしょ?」

「それがどうした?」

 ……刺さるなぁ。

「今、必要な好きは、家族以外の、他人に対して好意を持つっていう好き」

「う~ん……」

「どんな人か知らないけど、気になるなー。とか、知れば知るほど惹かれるなー……とか」

 あんまり教えたくない……。

「ん~、なんとなくわかるような、わかんないような……」

「ま~そういう意味で、私を好きってしてみたら?ってこと。後は自分で考えなさいよ」

 あたしは理由をつけて逃げ出した――。


 自分の部屋に戻って枕を抱いてベットに横たわる。

「ぁ~~~」

 疲れた。

 心が荒波だ。

 船が出航してたら、間違いなく難破してしまう。

 はっきりいって、ヒロには恋愛とか考えて欲しくない。

 誰かに、興味を持って欲しくない。

 あ~ぁ、なんであんなこと言っちゃったんだろう……。

 勇敢にも航海に出た結果、後悔してしまったではないか。

 上手い? 上手くない? えぇーい! そんなことはどっちでもいい!

 あ~でも、アドバイザーってことだったからなぁ……はぁ~。

 そんなことを考えてるあたしは、ホントに浅ましい女だ――。


「……?」

 暫くそんなふうに自虐に囚われていると、ヒロからLINEが届いた。

 少し見るのが嫌だったけど、メッセージを見てほくそ笑んだ。

「ばーか♪」

 絶対、他の人じゃ分からないメッセージ。

 あたしにだけ分かる、暗号のようなメッセージ。

 直ぐに返信したかったけど、用事があるって言った手前、少し時間を置いてから返信することにした。

 約束の時間まで、どうしよっかな♪

 ソワソワする気持ちを落ち着かせたくて、何を着て行こう?と、クローゼットから洋服を引っ張り出して、いざ! ファッションショーの幕開けとなった――。

 

 そして約束の時間。

 あたしは五分前から下駄箱で待機中。

『来た♪』

 あたしは、何度もドアスコープから外を覗き見ていた。

 ヒロは自分の家の鍵を閉めると、少し寒そうに肩を縮めて、表の道を左右確認しながらパーカーのポケットに手を突っ込んでピョン!ピョン!と、ちょっとデキの悪いウサギさんのようにウチの玄関まで辿り着く。

「全部見えてるよー♪(笑)」

 ただ、一緒に食事に行くだけなのに――、

 ただ、ヒロが迎えに来てくれるというだけのことなのに――。

 いつでも好きな時に会えるのに……でも、その一瞬一瞬が、こんなにもあたしのことをときめかせてくれる。

『ヒロ、ありがとう』

 その言葉の代わりに、あたしは玄関のドアを勢いよく開けて、ヒロに「よー♪(!)」と、目一杯、気持ちを込めて投げかけた!

するとヒロも「よー♪(!)」と、まるで「久しぶり!」みたいな感じで返してくれる!

目がハートになってないか、心配――♪

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