山小屋で2人

【お世話になりました】そうま

山小屋で2人

──男女2人が山小屋で遭難し、一夜を共にする。


 このシチュエーションだけ聞いたら何か起こってもいいと思うだろ? ……なんで起きねえんだよ! いや、俺だって聞きたいよ!! 「なんで何も起きないんだ?」って!! 神様、俺ココ最近良い子にしてたつもりなんだけど!!

 落ち着いて、とりあえず状況整理。俺は所属していたボランティアサークルの行事の一環で、夜行バスに乗り有名なスキー場へ来ていた。それなりに滑れる奴らと全くダメな奴らとで別れて楽しんでいたのだが、急な天候悪化により視界不良。変に動くよりはと思い目の前の山小屋に入ったら、数分後に同じサークルで女神と呼ばれている先輩が入ってきた。ちなみに先輩は現在彼氏なし。何か起きても修羅場になる可能性はない。


「板チョコ、食べますか?」

 先輩は細いソプラノボイスでそう言うと、目の前にバレンタイン時期によくCMをやっていた、あの赤いパッケージを差し出す。絹のような色白の肌が、今はより一層白く感じる。ちょー触りたい……って、ダメだ落ち着け俺の理性!!

「じゃ、じゃあ、一欠片貰います。申し訳ないです」

「いえ、こういう時のために持ってたので」

「可愛い」

「は、はい?」

「いや、バレンタインの時のこのチョコのCMに出てた女の子、可愛かったよなぁって思い出しました」

「そうですね、確かに」

 その女優は先輩に似た黒のショートヘア、笑うとえくぼが出来る。清純派って感じの雰囲気。お嫁さんにしたい系って言うのかな? ああいうのはスキャンダルが起こると即人気が落ちるから可哀想だと思う。

「ありがとうございます。こんな風に日常生活の話をすると、こんな状況でも落ち着けますね」

「そう言って貰えて何よりです。早く帰れるといいですね」

 まあ、その女優より目の前の先輩の方が何倍も可愛いんですけどね! 異論は認めない!! 女神が今は俺だけのものなんだよ。嬉しいけど、なんというかちょっと背徳感は覚える。あと、他のスキー客全然入って来ないな、なんか不安。


「寒いですね、くっついてもいいですか?」

「は、はい」

 先輩に突然抱きしめられる。抱き枕みたいな気分である。スキーウェアの厚さを恨む。薄着ならば肌の弾力とかを堪能できたであろうに……い、いや、今この厚さで助かってるんだぞ俺。感謝しろ、ありがとうございます。でも、突如来たラブハプニング! これ、活かさなきゃダメだよね!? なんか俺試されてるよね!?

 大きく深呼吸して、先輩の瞳を見つめる。くそ、むっちゃドキドキする。俺こんなヘタレだったっけか。

「せ、先輩、こんな時に言うのどうかと思うんですけど……」

「なんですか?」

「先輩、今、好きな人とか」

「本当になんで今って話ですね」

 ですよねぇ! 俺も反対の立場ならそうやって言って……ないですね。むしろ告白させちゃってすいませんって思いながら即押し倒してキスします。頭の中ならちょー積極的なのな、俺。自分でもちょっとびっくり。

「じゃあ、もし助かったら、一緒にデートしましょう?」

「先輩、それフラグですよ?」

 俺のツッコミも気にせず先輩はどこに行きたいかなぁと考え始めている。考えている顔も可愛い、やばい、可愛すぎて死ねる。いや、俺死んじゃダメだな。デートできなくなる耐えろ、生き延びろ。そして、先輩も生き残らせなくては。ああ、もう! 2人きりだから何か起きろとか思わないから! 早く他の客かレスキュー来て!!

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