また夢で。
真城夢歌
死神
私は学校を出てすぐメッセージアプリを開いた。
さっきから通知がうるさかった浅美高校三年生女子のグループをタップした。すでに300件以上たまっていた未読メッセージをサラッと見ていった。最近はすぐグループを作りたがる。
最近の話題は楼のことでもちきりだった。
二年のなんとかが楼君に告ってたとか、三組のだれだかが親しく話していたとか、女子の世界は怖いなって心の底から思う瞬間だった。このグループは楼の情報交換で埋め尽くされ、深夜まで通知が鳴っている。
『今日やばい願いが三つ叶うとしたら何を望む?とか聞かれちゃった♡』
美春がそうメッセージを送った瞬間みんなが一斉に「なんて答えたの?」とか「やっぱり彼女候補なのかな。結婚前提にとか言われちゃったりして。」とか、みんな似たようなコメントを送信しだした。
『なんで?って聞いたら特別な人を見つけるためかなっていわれてさ~。ちょっとこれはきてるんじゃないの?』
また一斉に「彼女確定じゃん」とか「自分と付き合いたいって言ってほしかったとか?」と、騒ぎまくった。
私も聞かれたんだけどな。て思いながらもあえて何も言わずメッセージを見ていた。
『だからね、私答えたの♡一つ目は永遠に美しくいられる体が欲しい。私の好きな人のためにも♡二つ目はたくさんのコスメが欲しい。三つめは好きな人の心が欲しいって言っちゃった♡私の今一番近くにいる好きな人の♡って。」
すごくハートマークを多用したメッセージには彼女確定宣言しますってさらに付け加え、周りからは「おめでとう」や「いいなあ、羨ましい。」と次々にメッセージを送信した。まだ確定したわけではないのになって思うけど、美春は確かに思い込みは激しいけど根はまじめですごくいい子だ。顔もかわいいしスタイルいいからそう思うのも無理はない。
私はため息をついてアプリを閉じた。
「さくちゃん。」
声をする方へ振り向いた。駄菓子屋のおばちゃんだ。
「久しぶりねえ、学校はどう?」
私は「まあまあです。」と答えると「そう、がんばってね。」とだけいってチョコのお菓子をくれた。おばちゃんもこのお菓子が好きで店に入荷したらしい。
「これ食べて元気出しなさいよ。」
そう言って笑った。
お礼を言って駄菓子屋の隣の隣の隣の家にある我が家へと入った。
部屋に戻るとまたメッセージアプリを開いた。こんどは500件以上の未読メッセージがあった。
美春のあのメッセージをしてからまだメッセージはたえなく送信された。
別の私と美春でつながっているメールの方でも『期待していいと思う?』とさっきとは違うメッセージが入っていた。『いいんじゃないかな。』それだけ打って送信して間もなく『ありがとう。』と返信が着た。
本当に、三つの願いが叶ったりしないかな。
そんなことを考え始めた。ばかばかしい、そんな簡単にかなうわけないんだから。そう言い聞かせて「もしも」と考えてしまう自分を受け入れないようにした。期待なんてできないから。
「叶えてあげようか?」
その声とともに何かが光り輝いた。
まぶしすぎて、その光の正体はわからないが、体が何かに吸い込まれていく感覚にあったのだった。
何かが頭に当たる。というより、何か棒のようなもので頭をつつかれている。
冷たくかたい床の感覚、全身が痛い。
私は静かに目を開けた。
目の前にいたのは黒いローブをまとった銀髪のレッドアイの少年だ。でもその顔には見覚えがあった。意識がもうろうとしていてなかなか名前が浮かばない。
「大丈夫か?」
その声にも聞き覚えがあった。
起き上がり、彼の顔をまじまじ見た。
私はおもわず「え。」と声を上げてしまった。
目の前にいたのはあの人気者の雨宮楼だ。銀髪になり、髪型も雰囲気も違うから最初はなかなか気づくことができなかった。
「な、なんで。」
彼は床に置いていた大きな鎌を背負い、「たてよ。」とぼそっと言った。
立ちあがると彼は「俺、雨宮楼。わかる?」と聞かれた。私は小さくうなずくと「ついてきて。」と言われ、楼の後追う。
楼は紫の色をした扉を開けた。
そこにいたのは三人の男女と楼と同じ格好をした人たちが三人。
「そこ、座って。」
楼が指さす席に座った。
赤いソファーはとても柔らかく、座った時に体が少し沈んだ。
「あの、俺らになんのようっすか。」
最初に口を開いたのは、私と反対の場所に座る金髪の少年だった。彼は「拉致とかじゃないっすよね。何のコスプレっすか」と続けた。
「拉致ぃ?まっさかあそんな悪趣味なことしないよお。あはは。」
黒いローブをまとった赤髪の少年がそう言って笑った。隣の深緑の髪色をした少年のほうを向いて「ねえ?むしろいいことだよね?」と聞いた。その人は「そうだな。」とだけ言うと「まあまず自己紹介から始めようか。」といい金髪の少年指さした。
「お前から。」
彼は自己紹介をする雰囲気はなく、「そっちからどうぞ。」と返すが、「いや、そっちからどうぞ。いうまで返さないからな。」という言葉に、金髪の少年の隣にいた黒髪ミディアムの少女が「ここは従いましょ。」といった。
「名前と年齢ね。」
「…坂口聖夜。十六歳。今年で十七」
聖夜がそう答えると「よくできました。」といって深緑の人はにっこりと笑って見せた。
「私は秋川優香。十八歳です。今年で十九歳になります。」
「僕は崎森涼音。今は十七歳だけど六月で十八になります。」
落ち着いた雰囲気の黒髪の少年が答えた。
「如月朔羅。十七歳で今年で十八歳です。」
みんなが自己紹介をすると深緑の人は立ち上がって「じゃあ事情を説明するね。」といった。
「そっちの自己紹介は?」
すかさず聖夜がそう聞くと「事情説明したあとね。」と返した。
不満そうな顔をする聖夜に「そんな怒んないでよお。」と赤髪の人は言った。
「ふん。」というと、「早く説明してください。」といった。
「えっとね普段なら十年に一回の願いをかなえるチャンスが君たちにまわってきました!おめでとうございまーす。」
その場は沈黙で満たされた。みんな訳が分からずぽかんとしてしまっている。
「僕らは死神。君たちの死が近いってわけじゃないんだ。頼みごとがあるだけ。」
〈死神が頼みごとがあるって言って変なとこに連れてこられちゃってさ。〉
お兄ちゃんの声が重なった。なんだ、なにか聞いたことがある。
死神は話をつづけた。
「ここには時空を超えていろいろな場所や時代に行けぱる。それはじっさいに君らの住む世界にはないものもある。いろいろな時空を回ってとある時空にたどり着くと一人三つの願いをかなえてもらえる。」
深緑の人にかわって紺色の髪色をした少年が話を進めた。
「その時空に行くには三つのカギが必要だ。あらゆるところを回ってカギを獲得する必要がある。だが、その時空にいけるのは僕らが選んだ特別な人間とパートナーを組んだぼくら死神、死神とパートナーを組んだ特別な人間のみだ。だから僕らとそれぞれ厳選した君たちでパートナーを組んでほしい。」
その言葉にいち早く反応したのは聖夜だった。
「ほんとに願い叶うんすか!?」
「見つかれば、ね。ただここのメンバー一人でも欠けると探すことはできない」
「やろうぜみんな!こんなお得な話ないって。」
「僕もやろうかな。」
涼音は聖夜や死神たちに賛同をした。
「お前らは?」
そういってみんなの視線が私と優香に注がれた。
「えっと、じゃあやろうかな。」
聖夜は「そう来なくっちゃ」と言って笑った。
「私は行かない。」
優香は良く通る声でそう言い放った。視線が優香に集まる。
「なんでだよ?」
「死神とか怖いし、こんなこと信じられないし、何より家が心配。」
とぎれとぎれにそう呟くと紫の青のドアに手をかけた。私たちの世界へと続く扉だ。
「開かないよ。」
楼の言葉に優香は動きを止めた。
「俺らだってそう簡単にここにいるわけじゃないんだ。簡単には返せない。」
「酷い、絶対帰って見せるから。」
そういって楼をにらむと部屋をあちらこちら探り始めた。
「どうしよっか。」
沈黙する私たちに聖夜がそう言った。
「説得するしかないな。」
紺色の人が答えると、またみんなが沈黙した。
優香が必死にドアを開けようとたたく音だけが響き渡っているのであった。
また夢で。 真城夢歌 @kaguya_hina
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