ヤンデレ女子と剣豪男子 二人の恋路は修羅の道♡

軽見 歩

サクラの木の下で

 私は架道・弥美かどう・やみ、恋する花も恥じらう女子高生


「はぁ、どこに居ますの? 愛しのアナタ♡」


 でもこの恋は片思いの一方通行。お固い彼は剣に熱中するあまり、女には目もくれず、後をつけるのもままならない状態


「このままじゃいけませんわね。なんとしてもこの愛を届けなくては!」


 そう思った私はネットで知り合った、有限会社オリハルコン勤務の自称ナンバー1の殺し屋ファウストさん(ジャパニーズ・セーラー女子を世界から見守る会、会長)からアドバイスをいただき追跡に成功♡ 彼を思う存分見守る事ができるようになりました


「でも最近どうしたのかしら?」


 そのファウストさんと連絡が取れなくなってしまいました。正直怪しいお人でしたからお縄についてしまわれたのでしょう


「ファウストさんの教え、無駄にはいたしませんわ! 明日!この思いをついに伝える時が来るのですから!」


今日は私の思いを彼に告げる為ラブレターを書いたの。学校を休み13時間かけて思いを込めて書いた渾身の力作!


 ”校舎裏の桜の木の下で待ってます”


「短い文になっちゃけど、あまり長くても読んでくれないもの。これで思いは伝れられるはず」


 そしてうまく結ばれれば・・・


「きゃー♡ そしたらあんなことをデゥフフフフフフ・・・ぶほお!」


 あらやだ、興奮しすぎて鼻血が出てしまいましたわ


「のほほ・・・、私としたことがはしたない。はやくこのラブレターに封をしませんと」


 そして彼女は思い人のげた箱にラブレターを出した。話は変わり、弥美が恋文を出す前日の事・・・・

                 


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               ・



「せぃい!」


 一人山奥で一刀の元に熊の頭をカチ割りしこの男。この男こそが弥美の思い人、御剣・勝人みつるぎ・かづとである


「兜割り・・・、完成せり」


 兜割り、その名の通り強固な兜に刃を食いこませ割る演武の一種である。しかし所詮は演武、実戦ならば相手は動いており、丸みのある兜に正確に刃を振り下ろすのは至難の技、それが我慢ならなかったこの男はどうにか実戦に使える兜割りを身につけんと山にこもったのだ。戦国の世ではない現代で鎧武者を斬る事はかなわず、ゆえに兜の様に強固で丸みのある頭蓋骨を持った生物である熊に目を付けたのだ


「案外、たわいもないものであったな」


 しかし、ただ一方的に斬りつけては相手が熊と言えど罪に問われる。そこで勝人は熊を挑発し先に仕掛けさせ、熊の爪が自身の身に触れた瞬間、致命傷になる前に身をかわし後の先で熊の頭を真っ二つに斬り裂いたのだ。武者修行中に熊に襲われやむなく斬り伏せた体を装ったのである


「下山は休憩してからにするか」


 勝人は山を下りる前に茶屋による事にした。その茶屋の外観は廃墟そのもので庭には雑草が生い茂っている有様。勝人もかつて雨よけに偶然立ち寄り発見した店だった


「いらっしゃいませ」


「茶を」


「かしこまりました」


 店に入るとそこの主人が低調にもてなしてくれる。勝人は茶を頼み何時もの席についた


「どうぞ」


「うむ」


 いつも物静かな主人が珍しく勝人に話し掛けてきた


「その傷はどうされたのですか」


「修行中クマに襲われてな、やむなく斬った。大した事ではない」


「貴方ほどのお人が熊相手に遅れはとらないでしょう。まざとなら話は別ですが」


「ふっ、なんの事かな?」


「またまた。ここだけの話にしておきましょう」


「ごろすけ殿には敵わんな・・・」


「ふふ・・・」


 どことなく主人に様子が妙であったのを勝人は察し


「敗れたのか?」


 思わずなんとなしに出てしまった勝人の言葉に主人は静かに頷いた


「・・・はい」


「そうか・・・」


 いきさつは知らぬがこの主人、小柄で両の腕が不自由だが、その鍛え上げられた足は猛禽類と見まごう程で顔を見ればフクロウと錯覚してしまうほどの猛者。一体どのような怪物がごろすけ殿を負かしたのかと勝人は思った


「今日はこの山も静かですね」


「ああ、今日は隠密も姿を出さなんだ」


 そう、勝人は最近何者かに見張られている。行く先々で視線を感じ、特に風呂やかわやでは念入りに見られている気がする・・・。だが正体がつかめず、我慢ならなかった俺は学校を休み逃げる様に山に籠ったのだが…、そこでも何者かに弁当をさしいられていた。恐らく同一人物だろう


「手を貸しましょうか?」


 主人の申し出を勝人は断った。手負いのごろすけ殿に頼るわけにはいかない


「いや、自分で片を付けてみせる」


「そうですか。お気をつけて」


 勝人は席を立ち下山して家に帰った。そして翌日、登校し帰ろうとした放課後での事


「これは!?」


 勝人の靴箱には ”校舎裏の桜の木の下で待ってます” と書き記された血判状が入れられれていた


「この黒い血…、動脈を斬った訳ではなさそうだ。くだんの追跡者か」


 今こそ決着をつけんと勝人は真剣を持ち、校舎裏の桜の木に向かうのだった


              ・

              ・

              ・


 そんな彼を桜の木の下で待つ弥美は、高鳴る鼓動を押さえつつ勝人を待っていた


「ああどうしましょう♡ 来てくれますわよね? お弁当とか差し入れてアピールしてきましたし、秘かに勝人様に思いを寄せるメス豚共は排除しましたしぃ♡」


「ズサ・・・」


 姿を現した勝人に振り向き、弥美はとっさに言葉を出せずに笑顔で見つめた。それを見た勝人は・・・


 ”この一見はかなげにすら見えるその笑顔、騙されぬぞ! 何か黒い物がにじみ出ておるわ。よもや噂に聞く妖魔ニッカリか?”


 ・・・と思い警戒し平静を装いながら言った


「何ようか?」


 勝人に話し掛けられ、やっと弥美は口を開く


「あ、あの! 貴方をずっと見ていました!」


「ほう・・・・」


 ”やはりコヤツが俺を着け狙う隠密か” と警戒する勝人をよそに弥美は話を続ける


「貴方のひたむきに打ち込む姿、頼もしく凛々しいお姿に心奪われ・・・」


 勝人は ”こちらの手の内は熟知していると、覚悟はしていたが手ごわそうだ” と思いながら静かに聞いていた


「貴方の事が好きなんです!付き合ってください!」


 勝人はその言葉を聞きつつ・・・・


 ”こやつ、先程は邪気が邪魔でよく顔が見えんかったが、学園のマドンナとか言われていた女子おなごではないか? マドンナ…、たしか西洋の毒草に名であったな”


 ・・・・と、同級生を女子おなご呼ばわりし、マドンナとベラドンナを間違えつつも、問いかけた


「いや、その前に聞きたいのだが・・・」


「はい!なんでしゃう!」


 噛んだ言葉には触れず勝人は静かに口を開いた


「貴様、メス豚を始末したと言っていたがもしや・・・」


「はい、アナタが家畜小屋で可愛がっていたあの大きな豚です♡」


「なん・・・だと」


「あまりに可愛がっていたのでつい・・・、殺っちゃいました♡」


「貴様ぁ!よくも俺が試し切り用に育てていた丈夫な豚を!! あの弁当の中身はそう言う事かぁ!!!」


 激昂する勝人とは対照的に、弥美は冷ややかな笑みで言い放つ


「貴方がいけないんですよ、私以外のモノを可愛がるから・・・例えそれが豚でもね」


「ちいッ」


 勝人は殺気を感じ、思わず刀を抜き放つ。それに応える様に弥美も隠し持っていた包丁を抜いた


「私の愛を拒むんですかぁ? ・・・・なら…死んで」


 弥美の得物は刃渡り一尺、重ねも厚く人差し指程の厚みが有る大型の出刃包丁


「出刃包丁? ―――否」


 勝人は気づいた、それは刺す事も視野に入れた切先の造りの出刃包丁ならぬ出刃包刀だと


「お覚悟ぉお!」


 弥美の両手で突き出した出刃包刀を、勝人は刀を振り下ろし打ち落とそうとする


「そんな隙だらけな突きなど!」


 勝人の刀が包丁の峰に触れる瞬間、弥美は包丁を回す様にして勝人の刀を躱し、そのまま斬りつけた


「ガキン!」


 しかし、学ランの袖に隠された小手により包丁の斬撃は止められた


「ああ…、なんてたくましい腕♡」


「黙れい!」

    「ビュン」


 勝人は ”こやつ! 明らかに何か腕利きの武者から手ほどきを受けているッ” と判断し、刀を切り上げでけん制しつつ、間合いを取って構え直した


「さあ私の愛を受け取ってぇ♡」


「そう簡単に俺を打ち取れると思うなよ!」


 二人の得物がぶつかり合い、裂く羅サクラの木の下で火花が舞い散り消えていく


 「ガキン!カンガン! ジャキィン!」


 弥美の思いを込めた突きや切りつけ! いびつなほど膨れ上がった思いは、芯にある真っ直ぐな愛に引かれるように粗が抜け攻撃の精度が増していく


「あれ?私・・・、何でこんな事をしているのでしょう?」


 勝人の猛攻!何度も弥美に受け流されても諦めずに攻める! それは勝人が歩んだ鍛練のよう!刀を何度も折り返して何億と己が身体を鍛える様に! しかしただ鍛えた鋼だけでは直ぐ折れてしまう剃刀、衝撃を吸収する柔らかな芯金を持ってこその日本刀! その勝人の芯金に何かが響いた!


「この感覚は・・・一体なんだ?」


 放心状態になりながらも、二人は接戦を繰り広げ、今日は決着はつかなかった。だがこの先に待つ、幾たびの決闘の末いつの日か二人の決着はつくであろう。なぜなら・・・・


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 「起立! 礼! 着席!」


 ・・・・この二人、席が隣同士であるのだから


「それではホームルームを始める。とっ、その前に…、御剣、その槍は何だ?」


 教師の言葉に勝人は冷静に答えた


「武士の嗜み故、お許しいただきたい」


「いや、だからって槍はッ・・・」


「この学び舎に潜む妖魔を討たねばなりませんので」


「そうか~、妖魔か~。夏休みまで待って欲しいな、肝試しのネタが無くなっちゃうし・・・。 ところで架道くん、そのチェーンソウは?」


 勝人の殺気に負けて、弥美に話し掛けた教師だったが、彼女から返ってくる言葉も素っ気ないものだった


「淑女の嗜みです♡」


「チェーンソウが!?」


「私の細腕では花壇の手入れも大変ですのよ」


「そうか、エンジンの力を借りれば切るのも楽だもんね、そうだよね。この学校にそんな物持ち出さなきゃならない花壇なんてないはずだけど・・・・・。えっとそれじゃあ・・・」


「むっ!」

「うふ♡」


「・・・・ホームルーム始めます」


 二人の殺気に負けて、教師はホームルームを始めた

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 ヤンデレ女子と剣豪男子 二人の恋路は修羅の道♡ 軽見 歩 @karumi

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