腐令嬢、モフられる
イリオスの誕生日イベントは、ゲームでは必ず起こる。他の攻略対象者はテロップでお知らせがあるものの、ある程度の好感度を保持した上で特定の場所での接触を行わなければイベントは起こらない。
何人かの攻略対象者が誕生日を迎えたけれど、リゲルはおめでとうの言葉は口にしても誰かにプレゼントをあげることはなかった。
ところが攻略対象者達は当日になってやっと誕生日だと知るレベルだったのに、奴らを差し置いてただ一人、リゲルが事前にプレゼントを用意して贈った男がいる。
「あっ、クラティラス! 見て見て、見て見て見て見て見て! リゲルちゃんからこんな素敵なプレゼントもらっちゃったよぉぉん! ねえねえ似合う? 似合う? 似合うぅぅぅ!?」
紅薔薇支部の部室に入るや、けたたましい大声と共に銀の髪で私の視界は塞がれた。
相変わらずクソうるせえ奴だな。おまけに近付きすぎを通り越して、ガッツリ接触してんじゃん。一応は王子なんだから、少しは距離感ってのを考慮しろよ。パーソナルスペースとプライベートゾーンが広すぎて常に警報発令中な弟と足して二で割ってこい。
素敵なプレゼントだぁ? てめえの髪で眼球をモフられてちゃちっとも見えやしねーよ。
仕方ないので軽く膝をダブルゴールデンボールズに叩き込んでやると、至近距離で喚き散らしてアホ――クロノはやっと大人しくなった。
「で、リゲルに何をもらったんだって?」
足元に蹲ったクロノを睥睨しながら、私は冷ややかに尋ねた。すると彼は震える手を上げ、膝に顔を埋めたまま己の前髪の指差した。
覗き込んで見れば、そこには四角にカットされた深い碧の石と漆黒の石が交互に並んだヘアピンが留められている。
「あら、いいじゃない。食事の時にヘアピンを使ってたけど、味気ないデザインだったものね。それにしてもこの石の色、クロノの瞳の色とそっくりね。結構お高そう……それに探すの大変だったんじゃ」
「高くないです! 探してないですっ! たまたま見付けたんですっ!」
私の言葉を遮ったのは、ヘアピンを贈った張本人であるリゲルだった。
「き、今日がクロノ様の誕生日だと知って……いや、それもたまたまなんですけどね? さらにたまたまショーウインドウに飾られてたそのヘアピンを、たまたま見かけた、というだけ、で……」
最近書くようになったアホエロBL小説に出てくるよりたくさんタマタマを連呼したリゲルだったけど、真っ赤になった顔を隠すように俯くや、ガンと音を立てて立ち上がった。
あれ絶対にケツを思いっきり椅子にぶつけたよね。地味に痛いやつよね。
「あっ、あたし、男子の部活をエロ目線で観察してきまっす! 燦々と降り注ぐ太陽光に満ちたグラウンドで、汗だく汁だくになって苦しげな表情をしたメンズに
しかしリゲルはお尻を労る間も惜しむように、部室を飛び出して行った。
燦々と降り注ぐ太陽光も何も、今は真冬なんですけど……外は雪で真っ白だし、空だって分厚い雲に覆われてどよんとした鈍色だし、お日様なんかしばらくまともに顔を見てないよ?
不審に思い、私は皆に断りを入れてからリゲルを追うことにした。クロノも付いてこようとしたけど、立ち上がった瞬間に心配して覗き込んでいたレオの顎に頭を激突させたせいで今度こそ再起不能になってしまった。
不意打ちのごっつんこって美味しいよね!
しかもリゲルを巡って敵対してる二人というのがさらに旨味を増してくる! ……って蹲って仲良くきゅーきゅー泣いてるライバル同士のメンズ達に萌えてたら、当初の目的を忘れそうになったわ。危なし危なし。
現在、二月のど真ん中。とてつもなく寒い上に、この頃は絶え間なく雪が降り続いている。アステリア学園の運動部は厳しいと評判だけど、さすがにこんな天候の中ではグラウンドでの活動はしていない。
でもきっとリゲルは、部活をする男子を愛でたくて部室から飛び出したわけじゃないだろう。
十一歳からの付き合いだ。彼女が行きそうな場所は大体わかる。リゲルは私と違って寒さに強くて、自然を眺めるのが好きだから、恐らくは――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます