腐令嬢、しみじみす
「こっ……これは!」
「ま、まさかっ!?」
「……え、何ですか? 私には形状的にも色彩的にもこれが食材だということすら認識不可能ですが、皆様にはわかるのですか?」
イリオスとオリオの言葉を受け、ステファニが口からハンマーを外して問い返す。
「失礼ね! どう見たってケーキでしょうが!」
堪らず私は言い返した。
「あっ……ケーキ、なんですね? 僕はてっきり、クラティラスさんが考案した新種のお菓子かと」
「ケーキ……でしたか。私も殿下と同じく、クラティラス様プロデュースのオリジナル・ネオスイーツだとばかり思っておりました」
イリオスとオリオが揃って気まずげに濁す。スイーツ界の王者、難易度バリ高のケーキに初挑戦したっていうのにひどいや!
まぁ私もこんなケーキ、見たことないけどね。酸を浴びたみたいに泡立ちながら蠢いてるし……。
「それでは……殿下、失礼いたします」
生き物のように蠕動運動を続ける蛍光イエローとパープルのケーキに、オリオはフォークを入れた。
すると、エメラルドグリーンとレッドのスポンジが現れる。
クリームは茄子とターメリックでマーブルにしたの。スポンジは緑黄色野菜をミキサーにかけたものとありったけの香辛料をブレンドしたものをぶちこんだ二種類を作って、上下でハーフ&ハーフになってるんだ〜。しゅわしゅわしてるのは、炭酸水を投入してみたせいか、パチパチキャンディを大量に入れたからか、適当にぶちこんだ食材同士で化学反応を起こしてるのか……まぁ食べられるものしか使ってないし、大丈夫だと思う!
製作者の私が見守る前で、オリオがついにケーキを口に含んだ。が、次の瞬間、ぽーんと高く飛び上がった。で、一回転してブリッジで着地した。
「こ、このケーキは素晴らしいを超越しております……私の中で最高記録を更新しました! 殿下のお誕生日を祝うプレゼント用だけあります! 五回殺されて四回生き返ったような心地ですよ……!」
ブリッジから跳ね起き、またブリッジしてさらに立ち上がりを繰り返しながら、オリオは私のケーキの寸評を告げた。
ごめん、五回殺されたのに四回しか生き返ってないなら、まだ死んでるってことしかわかんない。あとペルセ、弟が謎い行動してるからって合わせてナックルウォーキングすな。二人揃って、芸達者なゴリラにしか見えなくなってきたがな。
オリオの許可を得て、続いてイリオスもケーキを食べたのだが、天井に届くかと思うほど跳ね、床が拔けるんじゃないかって勢いで墜落してを無限リピートしてた。顔面も赤くなったり青くなったりを目まぐるしく行き来してた。どうやら大いに喜んでもらえたらしい。
大きめサイズで作ってきたから、護衛達とステファニにも少しずつ分けてもらったよ。皆踊ったり倒れたり痙攣したり、ドムドムと激しくドラミングしたり、ハンマーをリズミカルに打ち鳴らしたりと、個性豊かに美味しさを表現してくれたよ。
クラティラスのお菓子、今回も大・成・功!
もぐもぐケーキタイムの後は、皆が気を利かせてイリオスと二人きりにしてくれた。
まあね、一応の一応は婚約者だからね……でもケーキのせいで昨日はほとんどBL絵を描いたりBL物語を読んだりしてないし、とっとと帰って萌えを補給したかったなぁ……なんてワガママ言っちゃいけないよね。
窓の外は既に暗く、白い雪が煌めくように落ちてくる様が目に映る。
あれに触れれば寒い冷たい凍えるとわかっているのに、それでも美しく幻想的に見えて手を伸ばしてみたくなるから不思議だ。
「それにしても、ヴァリティタ様のプレゼントには引きましたよ。まさか自分の首にリボンを結んで迫ってくるとは。そんな古典的な手段で挑んでくる奴、現実にいたんですね……」
紅茶のカップを持ったまま、イリオスが身震いする。
う、うん……あれには私もドン引きしたよ。
しかもお兄様、ものっすごいドヤ顔で私の方を見てるし。こんなことを思い付くなんてお兄様はすごいだろう? さあ褒めるよろし! とでも言いたげな視線に耐えきれず、目を逸らしたよね。
イリオスは『わあ、ヴァリティタ様の首に巻いてあるリボンがプレゼントなんですね! 素敵な演出ですね!』とか抜かして、無理矢理すぎる勘違いをするフリして解いたらしいんだけど……見たかったなぁぁぁ!
デビュタントのダンスを見て以来、イリヴァリもヴァリイリも何気にツボってるんだよね。
慌てて顔を向けるも、時既に遅し。
違うのに! 違うのに! って悔しそうに地団駄踏んでるお兄様と、リボンを掲げてありがたやーありがたやーって空々しい感謝を述べてるイリオスしか見られなかったわ。
冷めた紅茶を一気飲みすると、私は深々と溜息を落とした。
「イリオスももう、十六なんだねぇ……」
「何ですか? やたらしみじみしちゃって」
「そりゃしみじみもするよ。だって、私と出会った時の
私の言葉に、イリオスが軽く目を瞠る。
「江宮の誕生日は知らなかったけどさ、ウチら高一からの付き合いでしょ? ちょうど出会った時と同じ年になったんだなって……まさか覚えてないとか言うんじゃないだろうな?」
あまりにも相手の反応が微妙だったので、私はテーブルに身を乗り出して向かいにいるイリオス――元・江宮に凄んだ。
「いや、覚えてます……覚えてます、けど」
イリオスは目を泳がせて、口元を押さえた。
「その、何ていうのか……
聞いてるこっちまでもどかしくなるぼそぼそもそもそとした口調は、声音こそ違えど生前の江宮そのものだった。
こいつってば、どこまでも卑屈な奴だな!
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