腐令嬢、大作を贈る
私からのプレゼントは、恒例の手作りお菓子だ。
今年はゲーム開始記念ってのもあって、頑張ったんだよね〜。
「王宮に?」
「うん、ナマモノだから傷んじゃいけないと思ってね」
放課後、皆が教室から出るのを待って二人きりになると、私はいつものようにプレゼントを手渡し――せず、家の者に申し付けて王宮に届けさせたことを伝えた。
一日ワクワクテカテカしながら待ってくれたのに申し訳ないが、今年のお菓子は学校に持ってこられるものではなかったのだ。
今食べられないんかいとしょげるか、そいつぁ楽しみだと歓喜するかの二択を予想していたのに、イリオスはどちらも選ばず、真剣な表情で告げた。
「じゃあすぐに帰りましょう! ほら、早く行きましょう! ゴーゴゴーゴゴーゴー!」
「ちょちょちょ待って待って待って! 何で私まで!?」
バッグを引っ張られてのめりそうになりながら、私は慌てて喚いた。
「どうやら大作のようなので、感想をリアルタイムでお届けしたいのですぞ! うかうかしてたら毒見係のオリオのみならず、あんたの料理に目覚めた護衛達にまで食べ尽くされてしまうのですぞ!」
というわけで、それぞれの支部メンに部活を休む旨を告げ、私は急遽王宮へ同行することとなった。
「ハンマーはいくつ要りそうですか? 私の部屋に行けば、最低でも良いコンディションのものを十本は用意できますが」
イリオスの側近として、ステファニも部活を切り上げて一緒に来てくれた。
てか、いつのまにかハンマーコレクターになっちゃってんじゃん。もしかしてと思って聞いてみたらば、やはりイリオスへの誕生日にはハンマーをお贈りしたんだと。しかもイリオスが私の手作りお菓子を食べるようになってから、プレゼントはハンマーに固定したというから、二年連続ハンマーよ。
イリオスも一緒にハンマーコレクター沼に落とすつもりなんかい。
「今年はハンマーはいらないんじゃないかな? 柔らかいっぽい感じのものにしたから、多分恐らく歯が欠ける心配はないんじゃないかと思わなくもないよ」
私が笑顔で言うと、ステファニは無表情のまま溜息を吐いた。
「了解いたしました。念の為、ご用意しておきます」
わー、信用されてなーい。
それにしても、イリオスめ、一体いつまで待たせる気だ?
王宮に到着するや、イリオスはちょっと部屋を片付けたいと言い残し、慌てて一人で自室に入ってしまった。どうしようもないので、私とステファニは部屋の前に突っ立って雑談して待機していた。
その間にペルセとオリオの姉弟を含む第三王子専属護衛部隊は、レヴァンタ家に私が王宮を訪問している旨を連絡したり、先に届いていたプレゼントをカートに乗せて運んだりしてくれた。が、護衛部隊がプレゼントと共に全員再集合してもドアは開かれない。私達の背後に佇んだまま、皆して一言も喋らないからめっちゃ気まずい。
なのに、妙にそわそわしてる空気は伝わってくるんだよなぁ……カートの上に置かれた私のお菓子が気になるんだろうな、って感じるのはうぬぼれじゃないと思うの。だって護衛部隊の面子、揃いも揃って例の実験で私の料理に目覚めた奴らだもん。
あーもう、まだかよ。
鍵までかけやがったし、きっとプルトナが盗み見したとかいう、カオスボンバーな百合絵を一生懸命に隠してるんだろう。もしくはエロ本という可能性も……ないな。
今考えると、不自然なくらいだったかも?
江宮とは、そういう系の話を全くしなかった。こちらから軽く振っても華麗にスルーされるか、すごく嫌そうに全力で拒否られるかのどっちかだ。
もしかしなくても、江宮ってアセクシャルとかノンセクシャルとか、何かそういうタイプだったのでは? 三次元の人間だけじゃなくて、人外とか無生物とか二次元とか一次元とか四次元とかにも性的欲求を抱けなかったんじゃ……?
「おっ待たせっしっましったー! さあさあさあさあ、中へ中へ! ああオリオ、もう持ってきてくれていたんですね! 早く入ってくだされ入ってくだされ! 早くクラティラスさんのプレゼントを拝見しましょう、そして召し上がりましょう、たーんと祝われましょう!」
すると私の思考を断ち切るように、イリオスが笑顔で部屋から飛び出してきた。
すげーな、こんなに全力で祝われに来る奴、初めて見たわ。イリオスマイルが溶けに蕩けて、液体スマイルになってんじゃん。
部屋に皆が入ったら、いよいよ開封の儀である。
例のブツはアズィムに預けた時のまま、私が用意した可愛い箱に入っていた。厳重に冷蔵保存しておいてくれたようだが、リボンの位置も変わってなかったのでラッピングにも触れていないらしい。
期待に紅の瞳を綺羅びやかに輝かせる本日の主役、イリオス。平静を装っているつもりのようだが既に鼻息が荒い護衛隊長のオリオとその姉ペルセ。無言ながらも見たい食べたい味わいたいと強い圧をかけてくる、他の護衛隊員達。そして、いつの間にやら両手だけでなく、何故か口にまでハンマーをくわえて構えるステファニ。
皆に促され、私はソイヤーの掛け声で箱の蓋を取り去った。
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