腐令嬢、引き出す


 私が制作したのは、カレーだった。大人数に振る舞うならやっぱりこれっていうお馴染みの料理だからこそ、奥深いよね。


 カレーにはじゃがいも、ニンジン、玉ねぎ、お肉が定番食材だけど、夏らしい旬な感じがほしくて桃とキュウリとスイカとグレープフルーツを足してみたんだ。隠し味にカニミソを入れて、ゴージャス感も欲張ってみたよ。

 護衛の人達には体力が必要だと考えて、お肉も骨付きのものをそのまんま投入した。味付けはとにかく辛さを重視して、辛味調味料は手当り次第全部投入したよね。辛くなりすぎたかも? って途中で慌ててお砂糖も追加したかな。でもなかなかカレーっぽい色にならなくて、他にもいろいろ入れたっけ。

 よく覚えてないけど、ステファニが青褪めつつレシピ書いてたから後で見返してみるとしよう。


 もちろん、ステファニの意見を取り入れてサラダも準備したぞ。さらにサフランライスじゃ彩りがイマイチだと思ったから、オリジナルでピンクとパープルに色付けしたライスまで作ってみたの。ピンクの方は赤カブで、パープルの方は紫イモで色付けしたんだ。

 キッチンの香りはヤバいことになってたけど、美味しければ良かろう!


 結論を言うと、私の手料理は皆様に大満足してもらえた。グループトップのイリオスが大絶賛だったんだから、大成功ってことにしていいはずだ。


 ナンバーツーのオリオも倒れたり痙攣したりしながら喜んでくれたし、姉だけあってペルセも気に入ってくれたらしくて初めて笑顔をみせてくれたよ。即失神したけどね!


 残る三名の護衛くん達は、白目剥いたまま譫言を呟き続けたり、幻覚が見えると叫びながら号泣したり、泡を吹いて横歩きで徘徊したりと大変バラエティ豊かな反応をしてくださったわ。


 いつも冷静すぎるほど冷静なステファニも、ドレッシングまで手作りした私のサラダにはすごく興奮してくれて、



「まっず、クッソまっず! 何をどうしたらサラダをこんなにまずく作れるんだ、アアン!? 草なめてんのか、てめえは! 全ての草に、否、生きとし生けるもの、死して屍となったものにも謝れ、このクソクソクソティラス!」



 って、初めて聞く荒々しい口調、初めて見る憤怒の形相で怒鳴られちゃったよ。耐性がつくかについてはまだわからないにしても、私の料理ってその人の新たな一面を引き出すパゥワァがあるのかもしれないね!


 うん…………マジギレしたステファニ、死ぬほど怖かった。今回で降りるかと思ったけど、意地でも最後まで実験に付き合うんだって。


 面と向かってマイ手料理を食べてもらうのが今夜限りで本当に良かった。毎回あんなにガチギレされたら、私の心臓が保たないよ……!


 あ、ちなみに私はイリオスがこちらにやってくる時に従者に運ばせてくれた、王宮特製ゴージャスディナーをいただきました。最高に美味しかったっす!


 皆が食事を終えたところで、いよいよ第一回の検証開始。イリオスが自ら魔法をかけて、それが効くかどうかを試すのである。

 しかし第三王子が魔力持ちだということは絶対の秘密。そこでこっそり魔法を施した水――皆には軽い麻痺作用が起こる薬草を少量混ぜたと伝えてある――を飲んでもらい、反応を確認するという手を取った。この方法で、オリオを除く全員に魔法耐性がないのは事前に確認済だそうな。



 果たして、結果は!?



「ああ、いつもより美味しく感じます……全身に染み渡る! これが恵みの水か!」



 と、ペルセはドムドム胸を叩いて喜んだ。



「緑色に燃え盛っていた怒りが、すうっと溶けて消えた気がしますね。これからは好物を水と公言することにします」



 と、ステファニは草ファニから水ファニへの転向を申し出た。



「思考とは何だ、自分とは何だと深すぎる疑問が次々と湧き出て、心が押し潰されかけていましたが、この水のピリッとした喉越しのおかげで目が覚めました。気分爽快です」


「亡くなった祖母が、ずっと悲しげに泣いていたんです。でもこの水を飲んだ瞬間、シュワッと軽やかな爽快感が口の中に広がったかと思ったら、祖母は笑顔になって天へと昇っていきました……ううっ、近い内に墓参りに行きます!」


「カニミソの風味を感じた瞬間、カニに意識を乗っ取られました。海に帰りたい、ここにいたら乾いて死んでしまうという恐怖に襲われていたので、水を与えてくださって助かりました。おかわりしてもよろしいですか? 優しい刺激が仲間だったカニの泡を思い起こさせて、胸がじんわりとあたたかくなって……ああ、もしかしたら食材となったカニの恋人、いえ恋カニの記憶と重なるのかもしれません」



 と、他の三人はよくわからないことを申していたけれども、全員に麻痺魔法は効かなかったようだ。



 これってやっぱり、私の料理の効果なのかな?


 いや、断定するにはまだ早い。続けて経過を見る必要がある。とはいえ、毎日七人分の料理を作るのはとても骨が折れる。

 そこで皆と話し合い、私の時間の都合と被験者達の体の具合を考慮し、『三日に一度の頻度で一鍋の量を七人で分ける』という決定に至った。料理の受け渡しについては、オリオとペルセがレヴァンタ家に引き取りに来てくれるという。王宮に持ち帰ってからの保管も、あの二人に任せておけば安心だろう。


 これでお料理の話はまとまった。あとは明日のアダリスきゅんお披露目イベントに向けて、ゆっくり寝るだけだ!

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