腐令嬢、仲間に助言求む
「ええ……あたしも、クラティラスさんの見立てと同意見です。彼はクラティラスさんに、女体化したヴァリティタ様を見ているんだと思います」
類稀なる創造の才を持ち、BL沼に落ちてからは恐ろしいほどの洞察力と妄想力を発揮、幼い頃から手掛けていた詩のみならず小説の方面で大活躍する紅薔薇支部副部長にして紅薔薇の神作家――リゲルはそう言って、私に向かって大きく頷いてみせた。
「にょた? 女体化、とは何だ?」
ディアヴィティが眼鏡をクイッ、略してメガクイしながら尋ねる。
「男性を女性に変えてしまうことよ。逆に女性を男性に変える場合は、男体化と言うの。現実では起こり得ないことだけれど、想像の世界では自由よ。私も自分を男体化させて、リフィとアエトと三人でバスケしたり勉強したり、ケンカした二人の間に入って仲を取り持って、仲直りに三人でぎゅうって抱き合ったりなんて妄想して……はぁはぁ……い、いいわね、このシチュ! も、萌えるわ! 忘れない内に連続脳内再生しなきゃ!」
青紫の艷やかなストレートボブの頭をを自身の両手でぐっと押さえ、目を閉じて己の世界に引きこもってしまったのは、同級生のリコ・クレマティ。
二人の男子が好きと言うとちょっと聞こえは悪いが、実際はこの通り、夢妄想とBL妄想をこじらせてこんがらがって大変なことになっている子だ。
そして彼女もディアヴィティと同じく、そんな自分に悩んで紅薔薇の扉を叩いたという経緯がある。
「ヴァリティタ様を女体化ですって? 私は認めないわよ。ヴァリティタ様は男性であるからこそ、素敵なんじゃない。女性になったら、ヴァリティタ様でなくなってしまうわ。大体、あなた何なの? ヴァリティタ様のお相手は、昔からネフェロ様と決まっているのよ。ぽっと出の高校デビュー眼鏡野郎の分際で、勝手にヴァリティタ様で妄想しないでちょうだい。図々しい!」
フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いたのは、ヴァリ✕ネフェ固定カプの道を突き進んで早五年――アンドリア・マリリーダ二爵令嬢だ。
この子は恐らく、コンテンツが炎上しようと消滅しようと燃料が尽きようと、ジャンルに居座り続けて古参となるタイプだろう。しかしこの通り、思いっきり同担拒否だから、新規が寄りつかなくてジャンルを衰退させちゃうタイプでもある。
「アンドリアさんは、本当に頑固よね。それよりも、原型からの変化に興味があるのなら、人外方面への変身についてはどう? 女体化よりケモミミの方が簡単に変われるし、何より可愛いと思うのよ。ヴァリティタ様なら、狼の耳と肉球が似合いそうでしょう? ああ、もしかしてモフモフより鱗肌の方がお好みなのかしら? 鱗なら爬虫類みたいなザラザラ派? それとも魚のようなヌメヌメ派?」
紫のおさげをぴょんぴょん跳ねさせて嬉しそうに問いかけるのは、ミア・イヴィスコ三爵令嬢。
彼女は人外BLという特殊性癖に目覚めたせいで、いつも仲間に飢えているのだ。
にしてもさぁ、『好みのタイプは可愛い系? 綺麗系?』のノリで鱗の好みを聞くなよ……ディアヴィティってば、答えに詰まって固まっちゃってんじゃん。
「もういっそ、ザラザラ鱗のヴァリティタ様とヌメヌメ鱗のヴァリティタ様のお二人を妄想してみては? ザラヌメ、ヌメザラ、どっちも美味しいわよ。妄想は自由とリコさんが仰ったように、選ぶなんて制限は不要。明るく楽しくリバっちゃいましょう! ああ、せっかくですから、女体化バージョンのヴァリティタ様も加えて、ザラヌメニョ、ザラニョヌメ、ヌメザラニョ、ヌメニョザラ、ニョザラヌメ、ニョヌメザラとさらにパターンを増やしません!?」
オレンジのまとめ髪が解けそうな勢いで、ミアの話に乗っかってきたのは、ドラス・リナール三爵令嬢。
リバ好きなのは知ってるけど、訳わからんパターン増やすな。よく舌噛まずに言えるなぁ……って変なとこ感心したわ。
「話は戻りますけど、私もアンドリアさんに賛成です。女体化には、断固反対します。だって、私が好きなのはオジサマ受けですよ? それが女性になったら、オバサマ受けって……そんなの、普通の男女恋愛と変わらないじゃないですか! 私はBLが好きなんです! よって女と変わらない、もしくは女でいいんじゃないかと思うようなキャラをBLに登場させることは、許しません!!」
栗毛の巻き髪を揺らし、ややぽっちゃりめの体でドンと床を踏んで怒りを表したのは、デルフィン・カンヴィリア四爵令嬢。
オジサマ受けがオバサマ受けになったら、確かにそれはただの熟女ものよね。
後半は、全文全私が全同意だわ!
女みたいな受けは嫌いじゃないけれど、男である意味がないBLは納得いかないよね!
私が今まで出会った中で一番ショックだったのは、脱いだら本当に女だったって話よ。あれを店のBL棚に置いた書店員、絶許! 死ぬまでずっと前髪を理想より1mm切りすぎてしまう呪いをかけてやりたい!!
「お、女の子を描くのは苦手なので、私も、女体化はちょっと遠慮したいです……。男女では身体の作りが全然違いますし……それに男性の身体は、肩とか胸とかお尻とか、筋肉の付き方を観察してるだけでも、とても楽しいので……」
ピンクのゆるいウェーブヘアで顔を隠すように、ぼそぼそと零したのは、イェラノ・メリスモーニ五爵令嬢。
そうなんだよね……イェラノったらすごく絵が上達したんだけど、無生物と男しか描けないの。カブトムシも、オスなら生きてるみたいに緻密な描写ができるのに、メスは子どもの落書きみたいになったのには驚いたわ。本当に相変わらず、いまだに掴めない不思議ちゃんだ。
「ではー多数決にてー、ヴァリティタ様の女体化はナシということでよろしいですねー?」
そしてものすごく雑にまとめに入ったのは、紅薔薇支部書記兼会計のステファニ・リリオンだ。
皆にはいつもと同じ無表情に見えているようだけど、私にはわかった。ステファニが今、『あーめんどくせ、とっととこいつ帰して萌え語りしようず』と考えてダルウザメンドがってことを。四年近く一緒に暮らして五年近く側にいるんだから、奴の心を読むくらいもうお手の物だ。
はあ、と溜息をついてディアヴィティの様子を窺おうとしたその時だった。
「君、早く逃げるんだ! ここは悪魔の巣窟だ! こいつらは人の皮を被った悪魔だ! リゲルちゃんも、この悪魔どもに洗脳されてしまったんだぁぁぁ!!」
長机の下から飛び出してきた柔らかにカールした金髪の美少女……ではなく美少年は、新入部員のレオ・ラテュロス。
リゲルの幼馴染で、リゲルを追ってアステリア学園に入学し、リゲルと同じ部活に入って爽やかな青春を楽しもうと目論むも夢破れた哀れな子である。
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