腐令嬢、事故る
「ちょっと、最後まで話を聞いてくださいよ……カミノス様と悪役令嬢を交代する可能性はとてつもなく低いですからね? 僕の婚約者はカミノス様じゃなくて、一応クラティラスさんなわけですし」
「大丈夫大丈夫! カミノス様がヴォリダ皇帝陛下に『イリオスと結婚させて』ってお願いしたら、すぐ私との婚約なんて破棄させてもらえるって!」
「それじゃ今度は僕が困るんですよ! カミノス様と婚約させられたら、それこそ絶対に逃げられなくなるでしょーが! 今ですら毎日毎日胃が痛くて参りかけてるってのに、あの方と結婚するなんてもう一回死んでも無理です! 僕があんたの死亡ルートを引き受けられるなら、それこそ喜んで代わりますよ! けど確実に
バフバフ枕で私を叩き、イリオスが怒鳴り散らす。
「わ、わかったわかったって! 婚約のことはひとまず置いとこう、ね!? でも、私の代わりに死ぬこともないって、な!? 私も
枕の攻撃を防ぎながら答えて、私は自分がとても恥ずかしいことを口走ったのに気付いた。ついでに、とても恥ずかしいことを言われたのにも。
オイコラ、江宮。
貴様、同時に我に返ってんじゃねーよ。
どうすんの、この空気……『君のためなら死ねる』ってお互い言い合っちゃった的な感じなんだけど!?
いや違うし!?
違う……違わない、のか? やばい、また顔が熱くなってきた!
「や、やーねー、ゴロゴロして遊んでたら暑くなっちゃったみたいだわー。制服の上着、脱いどくべきだったわねー。シワになっちゃったかなー」
ものすごく雑な誤魔化し方をしていると、自分でもわかっている。けれどそれしか思い付かなかったんだから仕方ない。
私はとにかく上着を脱いで、熱を帯びた顔面に必死に笑みを浮かべてみせた。
「そ、そうですねー、そろそろ衣替えの時期ですしー。うんうん、やっぱり暑いですよねー。気のせいじゃなかったようですなー」
イリオスも私の視線を避けるように、上着をいそいそと脱ぐ。だけど耳まで真っ赤になっていたから、俯いたって無駄だ。
きっと自分も同じくらい赤くなっているんだろうなと思うと、さらに恥ずかしくなって、顔だけじゃなくて全身まで熱くなってきた。
バカ江宮! お前がおかしなこと言ったせいだ!
責任取って、この恥ずかしみに満ちた空気をどうにかしてよ!!
「ぎにゃん!!」
すると突然、奇怪な音声が部屋の方から飛んできた。
私は抱いていた上着を床に落とし、イリオスは驚いて飛び上がったかと思ったらバランスを崩してこちらに倒れてきて――。
「はあ、何よこの猫! 邪魔よ、どきなさい!」
甲高い怒声が室内に響き渡る。カミノス様だ。
さっきの悲鳴は、扉前で寝転がっていたプルトナのものだったらしい。
誰か来たら知らせると言っていたのに、私の予想した通り、寝過ごしてドアをぶつけられて目を覚ましたようだけど……それより、どうしてカミノス様がレヴァンタ家に来たの!? まさかイリオスを追って……!?
「レヴァンタ一爵令嬢、お見舞いに来てさしあげたわよ。イリオス様もいらっしゃるんでしょう?」
そう言ってカミノス様はノックもせず、寝室の扉を開けた。いや、連れてきた護衛に開けさせたといった方が正しいのだけれど、この際その辺の違いはどうでもいい。
「えっと……いや、これはその」
うまいこと間に挟まった枕で倒れ込んできたイリオスとの接触をガードした状態で、私は仰向けのまま首だけ向けてカミノス様に精一杯の愛想笑いをお送りした。
「な……な、ななな……!」
カミノス様が壊れた玩具みたいな音声を発する。褐色の肌は、青褪めて見えるほど血の気が引いていた。
うん、わかる。言いたいことはよくわかるよ。そうよね、婚約してる二人がこんな格好になっていたら誤解するわよね?
これじゃまるでイリオスが私を押し倒して、今からナニをアレしてえちちなことを致そうとしてるようにしか見えないものね?
でも違うからね!? これは事故ですからね!?
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